映画2
「予告ってこんな長かったっけ」
「こんなもんでしょ、映画は」
カップルシートは2人がけのソファタイプで真ん中に沈む作りになっており、ほとんど強制的に密着せざるを得ない形になっていた。
これについては幸いにも愛沙はあまり気にならないようで、こうして小声で話す程度には問題ないところがメリットになっている。
「あ、これ気になる!」
映画館に入ってから延々と流れている予告宣伝ムービーを見ながら話をしていた。
いまはまだ人の出入りもあるし多少話していても大丈夫そうだ。
「じゃあまた来るか?」
「いいのっ?!」
「お、おう……」
愛沙の反応が思いの外、前のめりで驚く。いやそれより自分でも驚くほどあっさり誘ったな……。
少し前までのことを思えば考えられなかったことだ。
「えへへ……」
隣で嬉しそうにする愛沙を見ていると何か勘違いしてしまいそうだったので必死に映画に集中することにした。
ちょうど本編が始まるところだった。
「始まるね」
そう言って愛沙はなぜか俺の手をきゅっと握った。なぜだ……。
「飲み物、欲しかったらこれで合図して」
「ああ、そういうことか」
飲み物は愛沙のほうに置いてある。最初から手を触れていればスムーズに意思の疎通が図れる。なるほど、そこまで考えてたんだな……。それ以上の意図はない。決してない。よし。
それなら手のことは気にせずに映画に集中しよう。
物語はすれ違ったまま分かれた2人の幼馴染が奇跡的に再会を果たしたところから始まった。
『もしかして……貴方……』
ぎこちないながらも意識し合う2人のおりなすじれじれした関係は見ていてドキドキさせられるが、同じ幼馴染ということでシチュエーションが愛沙とかぶるのが妙な気持ちにさせられた。
着替えシーンを覗いてしまった時の話とかもう、勘弁して欲しい。
「……なによ」
愛沙も意識させられたようで手を握って睨まれた。理不尽だ……。
物語は中盤以降、ヒロインの過去に触れられていく。ヒロインに秘密があるようでその部分が明らかになるにつれて2人の関係は運命に振り回されるように揺れ動く。
幼馴染と思っていた相手は、実は本来出会うはずのなかった別の世界線の2人。偶然幼少期をともに過ごす運命のイタズラにあったらしい。
「……!」
愛沙の手に力が入っていた。
『私はね、ほんとはお別れを言いに来たの』
奇跡の再会はヒロインが起こしたものだった。そして2人はそれぞれもとの世界に戻る必要がある。
『あなたはこの世界で、幸せになって』
諦めきれない主人公を振り切って虚空に消えるヒロイン。
物語は数年後に舞台をうつした。
『もしかして……貴方……』
ヒロインに起こせた奇跡なら自分にも。2度目の再会を果たした2人が抱き合うシーンで物語は幕を閉じた。
「……良かった」
愛沙は意外と涙もろい。よく部屋でも小説を読んで泣いてるらしい。全部まなみ情報だった。
エンドロールが終わった頃にちょうど愛沙も落ち着いたようだ。
「行こうか」
「そうね」
暁人たちはもう出たらしい。映画のあとどうするかとか、あんまり考えてなかったな。
時間を確認するために携帯を開くと見計らったようにまなみからメッセージが来ていた。
『お姉ちゃんは映画のあとお話したいタイプだから、カフェでのんびりするといいよ! その間によるごはんも予約しちゃうんだよ!』
なるほど。
「どうしたの?」
「いや……このあとどっかカフェとかで話そうか」
「うんっ!」
嬉しそうな愛沙を見るとほんとに、さすが姉妹だなと思わされた。
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