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映画

「カップルシートのご利用ですねー! お手を繋いでのご入場お願いいたしまーす」


 たどり着いた映画館。

 お姉さんが元気にカップルを誘導し、それに応えて何組も仲睦まじげな男女がゲートをくぐっていた。


「思ったよりハードル高いな……」

「あんなに目立つのね……」


 もうここまでくれば行くしかないことはわかっているんだがどうしてもあの中に飛び込む勇気がなかった。

 さっき東野に会ってしまったせいでお互いに周りを気にしている部分もある。


「でも、行かなきゃだよなぁ」

「もうこれ、もらっちゃったしね……」


 俺たちの手元には馬鹿でかいポップコーンと同じく馬鹿でかいコーラがそれぞれ握られていた。

 ご丁寧にコーラにはストローが2つ備え付けられている。


「行くか……」

「ええ……」


 覚悟して踏み出したところで前を1組のカップルが横切った。


「カップルシートのご利用ですねー!」


 やはり大声で愛想良く、いや半ばヤケクソ感を持って女性のスタッフが対応していた。

 仲良さそうに女性が腕を組み、男も無表情ではあるがされるがままになっていたところを見ると仲はいいのかもしれない。


「あ……」


 愛沙が声をあげた。ゲートを潜ろうとしていた男が横目にこちらを見て目があう。あってしまう。


「ふっ……」


 ニヤッとした表情を見せて何をいうでもなくそのまま立ち去ったのは間違いなく暁人だった。隣の女の人は見たことなかったけど。


「あれ……滝沢くん、よね?」

「そうだな……」


 絶対あとで色々言われるやつだ……。


「良かったの? 何も言わなくて」

「気は使ってくれたんだろうと思う」


 東野の時のように声をかけられるとまた微妙な距離になることは暁人にはわかっていたんだろうな。


「このペースだと色んな人に見られそうね」

「そうだな……」

「ふふ……」


 なぜか愛沙はその状況で楽しそうにしていた。


「愛沙に迷惑がかからないようにだけ気をつけるよ」

「迷惑……?」

「俺と付き合ってるって噂がたったらややこしくないか……?」

「あ、ああ! そうね……そうかも……?」

「だよな」


 やっぱり夏休みの愛沙は気が抜けてるようだ。俺がしっかりしておこう。休み明けに愛沙が後悔しないように。


「じゃ、いくか」


 まだボーッとしている愛沙に手を差し伸べる。


「ええ……えっと……」

「手、どうせなら最初から繋いでたほうが目立たないと思ったけど?」

「そっか、そうね……そうよね」


 やっぱりどこか上の空の愛沙の手を引いてシアターの入り口に向かった。



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