合宿3
看病に来たときのようなミスはもうしない。
風呂にはしっかり着替えを持って行かせたし、寝る部屋もしっかり用意されているから何も問題なく夜を迎えられた。
特筆すべき点があるとすれば愛沙の作ったからあげがめちゃくちゃ美味しかったことくらいだ。
「あれは美味しかった……」
また食べたい。何度でも食べたい。こんなボーナスがあるならいくらでも合宿でもなんでも付き合おうと思えるくらいだった。
「慣れない家で寝れないかと思ってたけど、意外と大丈夫そうだな……」
すでにベッドでまどろみはじめていた。すぐ眠りにつける気がする。
「おやすみ……」
誰に言うでもなくそうつぶやいて意識を手放した。
◇
「ん……?」
違和感を感じて目を覚ます。そうか。自分の家じゃないもんな……。
「いや違う、これはおかしい……」
タオルケットを抱きしめて寝ていたことは覚えているがタオルケットはこんなに厚みも無ければ暖かくもない。
恐る恐る目を開けると、あどけない表情ですやすや眠るまなみの姿がそこにはあった。
「なんでだよ……」
「ん? んむぅ……」
「んむぅ……じゃないんだよ。抱きつくなこら」
軽くこづくが全く起きる気配がない。
「んー!」
「痛っ、しがみつくな! 馬鹿にならない力があるんだからお前は」
「んー!」
「はぁ……」
「んー」
起きない。そして抱き枕にされてしまう……。
本気で起こそうと思えば起きるかもしれないがその場合それでなくても無防備なパジャマ姿のまなみに必要以上に触れる必要が出てくるのでそれもためらわれる。
ただこのまま寝て明日の朝愛沙に見られたときが怖すぎる。
「たのむー、起きてくれー」
「んっ!」
「痛い!」
起こそうとすればするほどしがみつかれて身動きがとれなくなる。いやもうこれあれだろ、どっかの部活で習った寝技だろ?! はずれないぞ!?
もう諦めて朝愛沙より先にまなみが起きてくれることに賭けるか……? いや宝くじよりのぞみが薄い賭けになるぞ……。
「どうしよう……」
途方に暮れていると救援がやってきてしまった。タイミングとしてはまぁ、最悪だろう。
「なにしてるの……」
「えっと……これは……」
冷や汗が流れたのを感じる。
必死に言い繕う言葉を探すが、意外なことに矛先は直ちに俺へ向くことはなかった。
「こら、まなみ……起きなさい」
「んう!」
「えっ?! ちょっと!?」
あろうことかまなみは近づいてきた愛沙を抱きかかえてしまった。もちろん俺は足でがっちりロックされていて離れられない。
「こら……いい加減に……ひゃっ!? いまの康貴!?」
「いや、俺もよくわからない」
「そ……そう……でもあんまり動かないで」
「わかった……」
そう言われると今触れているところがどこなのかとか余計なことが頭をよぎる。
「んっ!? これどんな力で……外れない!」
「俺の状況がわかってくれたことだけは良かった」
「そうね……いや良くはないのだけど……」
必死に思考の外に邪な気持ちを追いやって精神を集中する。
「ねえ、康貴」
「なんだ……?」
「あのね……その……提案なんだけど」
顔は見えないが神妙な声の愛沙。
「ああ」
「これ以上動くと多分、余計大変なことになっちゃうと思うの」
「そうだな……」
「このベッド、幸いダブルベッドだしね? その……」
言わんとすることはわかる。理性の試される夜になりそうだ……。
「このまま、一緒に……」
「仕方ないな」
「そう! 仕方なく! 仕方ないから……!」
誰に言い訳するでもなく2人で仕方ないと繰り返しながら眠りにつくことになった。
「……おやすみ。康貴」
「ああ……おやすみ」
言うまでもなくなかなか寝付けなかった。