合宿
「じゃ、康貴くん。よろしくね!」
「はい」
高西家の玄関でスーツケースを転がすおばさんとおじさんに挨拶する。
なぜかよくわからないが俺はしばらく高西家の子として愛沙の世話になるらしい。そしておばさんたちはうちに行ってしばらく生活を楽しむとか。
「行っちゃったねー」
「そうだな」
隣で一緒に見送るまなみと目を合わせる。愛沙も玄関までは来ていたが目は合わせてくれなかった。
「なによ……」
「いや、えっと……お世話になります?」
「そうね」
それだけ言うとリビングに引き上げていく。最近割とコミュニケーションが取れるようになったと感じていたんだが学校に行ったことでまた微妙な距離感が生まれていた。
たまに向こうからメッセージが来るようになってはいるのが変化といえば変化だろうか。内容はめちゃくちゃぎこちないものだったが。
「お姉ちゃんと仲良くなってるみたいだね!」
「あれを見てそうなるのか……?」
「えー、お姉ちゃんすごい康貴にぃのこと信頼してると思うんだけどなぁ」
姉妹ならではで何か感じるところがあるかもしれないが、いまのところその信頼は俺には全く伝わっていなかった。
「ま、康貴にぃは何があってもお姉ちゃんのこと嫌いにならないでいてくれるから、それでいいよね!」
「まあ、嫌いになることはないだろうな」
愛沙を嫌う理由なんてないだろう。たとえ俺を見る目がどうであろうと愛沙が悪いやつじゃないのはわかってるしな。
「ふふーん。ま、とりあえず勉強だー!」
「そうだな」
まなみに手を引かれて部屋に連れて行かれた。
「で、どのくらいできてるんだ?」
今回の合宿の目的はまなみの宿題を終わらせることだ。日記とかは自分でやってもらうしかないが他のことは実技も含めてここで終わらせるつもりだった。
「えっとねー。こんな感じです!」
夏休みしおりと照らし合わせて各教科の進捗を確かめる。
国語2割、数学3割、英語8割、理科系と社会系は大した量ではないが半分くらい。実技は美術の絵だけが残っていた。
「意外と頑張ってるな……」
「えへへー!」
まだ夏休み中盤と考えれば十分やってるほうだろう。なんなら普段のまなみを思えば、全部1割くらいを覚悟してきたくらいだ。
「後半がつぶれそうなのはわかってたからねー」
「まぁそうか」
このタイミングですべての宿題を終わらせないといけない理由はこれだ。まなみは夏休みの後半、すでに多くの部活から助っ人を頼まれていて予定が埋まっている。好きでやってることだから予定が埋まること自体は喜んでという感じなのだが、問題は宿題だ。
いまのうちに片付けないとここから先はやる時間がなくなる。
「と、いうわけで、意外と頑張ってたご褒美になでなでを要求します!」
「はいはい」
軽く頭を撫でると満足そうに微笑んだ。
「よしっ! じゃあお願いします!」
「まあ、いつもと違って横で見張っとくしかできないけど」
「わからなかったらガンガン聞きます!」
「はいよ」
合宿中は俺も横で勉強しているよう、自分の両親にも高西家の両親にも言われていたからお言葉に甘えよう。
机に向かうまなみを見ながら、俺も残っている宿題に手を付けた。
察しのいい方はお気づきかと思いますが次のタイトルは合宿2です