見知らぬ天井
「やらかした……」
目覚めたのはなんかいい匂いのする可愛らしい部屋のベッドの上だった。
知らない天井だ……といいかけたが懐かしいだけでまあよく見た天井ではあった。
隣にいたはずの愛沙はもういなかった。
「愛沙が起きててくれて助かった……」
これで横でまた眠っていたりしたらと思うと……考えるだけで恐ろしい。
いや待て、愛沙にその気分を味合わせたのか……。申し訳ない……。
「とりあえず下に行こう……」
着替えも洗面所に全部まとまってるから何をするにしても下に行かないと始まらない。
まなみの部屋は開いていた。まなみはあれでも人との約束には遅れたりしないし、朝も気を抜かなければ弱いわけではない。3人でいると子供っぽいところが目立つだけだった。多分もう出たんだろうな。
階段を降りてると下からコーヒーのいい香りが漂ってくる。
「おはよう」
「あ、ああ……おはよう」
なんて声をかけるべきか迷っていたら愛沙のほうは特段気にした様子もなく声をかけてきた。
「康貴のおかげで回復しました。ありがとう」
「ああ……それは良かった。いやほんとに大丈夫か?」
よく見るとまだ顔が赤くて心配になる。
「だ、大丈夫だから! それよりそろそろ準備しないと」
「そうか」
「うん、お昼過ぎからの試合の予定だって」
時計を見るともう朝というより昼前と言っていい時間だった。
「朝ごはんにする? もうお昼も一緒に食べちゃう?」
愛沙の笑顔になぜかドキドキする。
「作ってくれるのか?」
「昨日のお礼」
「そうか……じゃあ朝でも昼でも良いんだけど、卵料理が食べたい」
こんなに機嫌の良い愛沙を見たのは小学生ぶりだろう。それでかもしれない。愛沙があの時つくった卵焼きを思い出して卵が食べたくなった。
「良いけど、康貴もオムライス、忘れないでね」
「覚えてたのか」
てっきり昨日の記憶がないから今の態度があるのかと思っていた。
「あ、あれは! 覚えてるの!」
「そうか……」
どこまで覚えられているのか怖かったがやぶ蛇をつつきそうなので何も言えない。
「先、顔洗ってきたら?」
「あ、ああ、そうする」
逃げ込むように洗面所に向かう。
「あ!」
洗面所の入り口に手をかけたところで愛沙の声が聞こえた。料理でなにかやらかしたんだろうと思って気にせず扉を開ける。
「あー! 待って!」
何故か愛沙が叫びながらバタバタと俺を追いかけてきていた。
「ん?」
とは言えもう扉は開いている。まなみがいるわけでもあるまいし、何を心配することが……あ……。
「見た?」
「えっと……」
洗濯かごにかかっていた下着はまぁ、よく目立つ色をしていた……。
「待ってって言ったのに……」
「いや、もう開いてたしさ?」
「……」
「ごめん……」
気まずい沈黙が流れる。きっとこの状況をどうにかしたい一心だったんだと思う。
「どうだった?」
多分愛沙はまだぼーっとしてるんだろうな。
「え……?」
「はっ! わ、わすれて! 忘れろ! いい?!」
「お、おう……」
ちょっとだけ意識が戻ってきた愛沙が慌てて洗濯カゴから赤い何かを回収して洗濯機にツッコミふたをした。
「開けちゃダメだから」
「わかってるよ……」
それよりさっきから嫌な予感がしている台所のほうをなんとかしたほうが良い気がする。
「なあ、愛沙」
「なによ……」
「いや、なんかほら、焦げ臭くないか?」
「あっ!」
慌てて台所に戻る愛沙を見送ってから顔を洗って着替えを済ませた。
火事にはなってないが料理はやり直しになってしまい愛沙のテンションは下がってしまっていた。
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