二次会
「藤野くん、意外と遊び慣れてる?」
たどり着いたファミレス。これまであまり話していなかった加納が口をひらいた。フィギュアのとき以外は省エネモードらしく声に覇気がない。というのに内容は鋭利な刃物のようにズバズバくる。
「えっ」
愛沙が何故か食べてたポテトを落として無言で東野に拾われて口を拭かれていた。面倒見がいいな。次期生徒会長。
「まなみ……えっと、愛沙の妹が割と好きでな」
「なるほど……で、なんで愛沙は一緒に行ってないの?」
加納の顔が愛沙に向く。
「うぇっ?! 私?!」
「他に誰がいるの」
「えーっと……まぁ、まなみは康貴によく懐いてるから……」
突然のフリに焦った愛沙はパタパタ手で顔を仰ぎながら飲み物に口をつける。
「愛沙も懐いてるのに」
「ごほっ!?」
愛沙は飲み物を吹き出してまた東野の世話になっていた。
「ふふ。まぁまぁ美恵。愛沙がいっぱいいっぱいだから」
助け舟を出したのは秋津だった。
愛沙は何も言えずに何故か俺を睨みつけた。
「だからなんでそこで俺を……」
「お前だけだもんな、それやってもらえるの」
「真、その言い方はなんか、変態みたいだぞ」
真と隼人がこそこそ囁いてくる。話しているとクラスで感じるような距離感ほど壁がなかったことがわかる。
そうこうしていたら秋津の標的が俺に変わったらしく、隣りに座ってきて何故か肩まで組み始めた。
愛沙が怖いからやめてほしい。
「まぁでもじれったいのはそうなんだよね」
「なんでそんなにくっつけたがるんだ……ただの幼馴染だから仲良いだけだって」
「はぁ……」
何故か愛沙にもため息をつかれる。
「これはあれだね……」
秋津が何か考え込んでつぶやいたかと思うと、突然抱きついてきた。
「なっ?!」
俺より愛沙の反応が早かったせいでタイミングを逃して固まってしまう。
「ふふ。悪くないねぇ。これ」
「何なんだ……」
口をパクパクする愛沙のおかげで逆に平常心が戻ってきた。それに秋津は雰囲気がまなみに近いのであまり緊張せずに済んだ。
のだが――
「じゃあ、私も」
「おい、なんなんだ」
何故か机の下から現れた加納に抱きつかれた。見た目にはわからないが接触すると引き締まってるんだなというのが意識させられる。というか狭い。
「え、これ私もやったほうがいい流れ?」
「そんな流れはない。助けてくれ」
東野までそんなことを言い出す。
愛沙を見ても固まって動けなくなってるし、男2人は手を合わせて距離を取る。ご丁寧に俺の隣を空ける形で。
「じゃ、ごめんね愛沙。えいっ」
結局東野も悪ノリして女性陣全員に抱きつかれるという謎の状況が生まれる。店に人気がないおかげで目立ったりしてないのが救いだった。
それでなくてもドリンクバーとピザやらポテトやらで大してお金を使わないのに長居する迷惑な客だというのに……。
「うんうん。堪能した堪能した」
「ほんとなんだったんだ……」
普段から教室の中心で盛り上がってるメンバーのノリはよくわからない……。
「これだけの美少女に抱きつかれてもその態度! やっぱり遊び慣れてるな!?」
「なんでそうなる」
秋津の言葉にはなんとかそう返すが、こちらは心臓がばくばくしている。
「ということで、後は愛沙だけだね」
「うん」
「そうだね、私たちだけじゃ不公平だし……」
なんなんだそれ……。愛沙も固まってるだろ。
「幼馴染って一緒に風呂入ったりしてたんだろ?」
真の質問にまた愛沙が飲み物を吹き出した。
いまは隣に東野がいないから1人わたわた口元を拭いている。
「突然過ぎるし昔の話だからな」
「いやじゃあ、抱きつかれるのくらい別になんともないんじゃないのか?」
「まぁ……」
そう口には出すが、まなみはともかくいまの愛沙に抱きつかれて何も意識しないのは難しい。
ずっと家族のまなみと、一度家族でなくなった愛沙の差はでてくる。
と、考えているうちになぜか愛沙が目の前に来ていた。
「その……私だけしないのは……えっと……ノリが悪いと言うか……」
「大変なんだな、色々」
「うるさいっ!」
それだけいって飛び込むように抱きついてくる愛沙。
思わず背中に手を回して抱きしめ返してしまった。
「……なんか言ってよ」
「いや……えっと……」
色々あたってる。柔らかい。いい匂い。力入れたら壊れそう。
いろんな思いが頭を駆け巡るがどれも口に出すことはためらわれた。ちょうどいいところで事の発端になった秋津が遮ってくれた。
「はーい! おわり! 終了! ちょっと! 2人の世界に入らないで!」
「なっ……別にそんなことは……」
「はいはい。つづきは家で! ほんと、なんでただ抱きついただけでそんな雰囲気になるの」
何か違ったんだろうかと思って周りを見ると、全員が顔を赤くして見つめていた。
「何よ……」
一番顔の赤い愛沙の視線は、相変わらず睨んでいるように鋭かった。
次回イラスト予定!
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