愛沙とデート その2
愛沙の誘導に従いたどり着いた場所は、まぁちょっと入りにくい場所だった。
「ここか……」
「うん……」
「俺は外にいるから……」
「待って」
下がろうとしたが腕を取られて逃げ場を無くされる。
「今日は一日、付き合う約束」
顔を背けてこちらを見ずにいう愛沙も顔が真っ赤だった。それもそうだろう。俺はいまこの場にいるだけで恥ずかしいし、愛沙だって俺とここにいたらそうなる。
「水着は……康貴に選んで欲しいから」
よりにもよって最後の目的地は水着コーナーだった。
なんでまた……。と思うが、その理由はまなみから聞いている。
「なるべく頑張る……」
「ん……」
水着コーナーに足を踏み入れたのはいいが、口数も少なくなり気まずい。
それでも俺が逃げないように必死なのか、愛沙は服の裾を持って離さなかった。
「えっと……別に逃げないから……」
「ん……」
答えはするが離さない愛沙。もういいか、諦めよう。
「ただ悪い。これをじっくり見て選ぶのは……」
そういうとそれまでうつむいてた顔をピョンと起こした。
「そ、そうだよね! ちょっと候補を……」
そう言って水着コーナーを物色し始める愛沙。小さく「これ……サイズバレちゃう……」とか言ってて勘弁して欲しい。
俺も一応、何かないかと辺りを見渡してふと1つの水着が目にとまる。
「あ」
「ん?」
今日の服と同じ水色に、夏物では珍しく桜の模様が軽く入った綺麗な水着を見つける。
「これ?」
愛沙が俺の目線を追って水着を手に取った。
「サイズは……あった! 試着する!」
止める間も無く店員に声をかけて試着室に入る愛沙。
待ってる間店員さんに「可愛い彼女さんですね!」と声をかけられて気まずかった。否定してもドツボにはまると思い黙って下を向くと、楽しそうに笑って店員はどこかへ消えてくれた。
ほどなくして、いや無限にも思える時間を経て、愛沙が出てくる気配があった。ここでしっかり褒めること、というのがまなみから与えられたミッションだ。
気合を入れ直して構えていたが、出てきた愛沙は元の私服姿だった。
「あれ?」
水着を期待していないといえば嘘になる。完全に拍子抜けだった。なにか悔しさにも似た喪失感を覚える……。
「ふふ……。がっかりしなくても買うから」
「いや、そうじゃないけど」
慌てて否定するが柔らかく微笑む愛沙の前には無意味だった。
「でもほんとにそれで良かったのか?」
パッと目に付いただけでそんなにこだわりを持って決めたわけじゃない。
「康貴が選んだから、これでいい」
胸元に水着をかき寄せて伏し目がちに言う愛沙にドキッとさせられる。
「そっか」
かろうじてそれだけ答える。
「見られなくて残念ね?」
楽しそうに笑う様子を見ると、このあたりはまなみと姉妹なんだなぁと思う。
そして追い討ちをかけられた。
「見たかったらどうすればいいか、聞いたんでしょ?」
耳元で俺にだけ聞こえるように囁いた小悪魔は、そのままレジに向かっていった。
「……頑張るか」
戻ったらなんて声をかけるか、まなみのアドバイスを必死に思い出しながら愛沙を待った。
ツンデレは良いぞ
同時連載のハイファンもよろしくお願いします
日間2位までいきました、ありがとうございます!
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