舞台袖で
「どこ行くんだよ」
「ん? あー、ミスコン! ミスターミスコンテストの略です!」
「はあ……」
愛沙を探していた理由はわかった。
可愛いもんな。事前投票も票を集めていたはずだ。ちなみにTOP10に秋津や東野、加納の名前があったのは覚えている。東野は生徒会で辞退してたし、加納もいまはシーズン中でそもそも学園祭には出られず試合にいってるはずだ。
「で、俺は何するんだ?」
「ん? なんか藤野くん、実は票入ってたからさ。控室にいる他の男子よりかっこいいし、いけるんじゃない?」
「は?!」
その言葉を聞いて逃げようとした瞬間、動きを読まれて愛沙に腕を組まれた。
「逃さないわ」
「なんで」
「良い機会じゃん! そのままベストカップル賞もやるから参加しなよー」
「いやいや!?」
なし崩し的にとんでもないことにまきこまれていっていた。
「康貴、いや?」
「いやー……愛沙は慣れてるかもしれないけど俺人前に出たく……」
「いいでしょー! というより、それだけ見た目がよくなったのは莉香子のおかげでしょ!」
「え?」
なんかそういえば合唱と体育際の買い出しが重なる機会が多く、その都度色々髪型のこととか眉毛がどうだとか言われていじられてはいたが……。
「あと、隼人!」
隼人も同じく服装を含め色々アドバイスは受けていた。いわく、素材はいいのにもったいない、と。あいつに言われても嫌味にしか聞こえなかったが、それなりに役に立ってたんだろうか?
「ということで、二人のためにも参加すること!」
「なんで?!」
「二人とも控室で心細そうだったから!」
「二人が心細いとか全く想像できない……」
二人ともクラスの中心でいつでも勝手に人が集まってくるタイプかと思っていた。
「あの控室はいつも勝手に人が集まってくる人しかいないの! 集まってくる側はいない!」
「なるほど……?」
「というわけで、二人のためにもゴーゴー!」
いつもより強引な東野の勢いに飲まれていると、もう体育館の入り口にたどり着いていた。
「あとはまあ、盛り上げるためにいてほしいっていう私の願望もあるけどね!」
「そっちが強いでしょ……藍子……」
「まぁまぁ。じゃ、舞台袖の控室にいってくださーい。愛沙は去年もいたし大丈夫だよね?」
「まあ……」
「じゃ、またあとでねー!」
それだけ言うとあっという間に消えていく東野。忙しいんだろうなあ、生徒会……。俺にほとんど買い物を押し付けてなお、毎日作業に追われてたし。俺もまあ買い出し係として息抜きができたのは良かったけど。
「康貴、ほんとに嫌なら帰ってもいいけど……」
「んー、このあと何するのかわからないけど、観客席にいたいのは確かだな……」
ただそうすると余計目立つのは目に見えていた。
司会進行は東野がやることはわかっていたから……。
「最悪の場合放送で呼び出される可能性を考えると、このままいたほうが良い気がする……」
あそこで東野と出会ってしまったのが運の尽きだろう。仕方ない。ミスターコンテストの人員が足りずにこんなのでもいないよりマシということなら、数合わせくらいは協力しよう……。
「じゃ、入るよ?」
「ああ」
扉に手をかける愛沙。入る直前、ぼそっと俺にだけ聞こえるようにささやく。
「私は、康貴が一番かっこいいと思う……」
え?
今なんて言われた?!
よくわからないテンションのまま控室に行くことになってしまった。
愛沙が攻める!