合唱祭もある
なぜかうちの学園は合唱祭と文化祭と体育祭をまとめて1週間のうちにやりきる。
「ねみい」
「まあ仕方ないだろ……」
あくびをする暁人に釣られそうになりながら教室に立つ。
さて、合唱祭と文化祭と体育祭を一緒にやるわけだが、当然こんな日程は無茶だ。
「昔は夏休み中ほぼ休みなく集まってたらしいからな」
「勘弁してくれよ……」
活気があった頃は闇練と称した自主的な集まりという名の強制招集があったらしい。当初は生徒が学校に隠れてでも練習がしたくて夜に集まっていたから隠れて夜にやるという意味で闇練とよばれていたそうだ。
「いつの間にかブラック企業にかけて闇練とか言われ出してたらしいけどなぁ」
「ま、そうなるわな」
色々問題になってできなくなった結果、体育祭は応援団という名の雑用係が、合唱は各クラスの吹奏楽部、そして文化祭は有志と部活が、ときっちり棲み分けされて運用されることになっていた。
もちろんクラス全員それなりに楽しんで参加することはするんだけどな。
「はーい! やるよー! 暁人起きたー? 顔が寝てるよ!」
「朝から元気だな……」
教室の時計は7時ちょうどを指している。いわゆる朝練というやつだ。放課後夜は闇になるから朝集まればいいというのもどうかと思うがまぁ、言っても仕方ない。
「なんだかんだ主力だからね! はい、じゃあ第一回なのでパートリーダーを決めます! 隼人! テノールは任せた」
「ええっ!? 俺?」
なんの相談もなかったんだろうな……。まあでも隼人なら確かに、やる気があるとは言い切れない男子たちもついていく。良い人選というか、他に選択肢がなかった。
「バスは真!」
「隼人はともかく俺は歌えないぞ!?」
「馬鹿みたいに声量はあるでしょ! クラスの合唱なんてまず声量! 音なんか歌ってれば嫌でも覚える! 覚えるまで死んでも歌え!」
「まじか……」
絶望的な表情を浮かべる真。こちらを見ても助けてやらないぞ?
確かにカラオケでも苦戦していたなと思ったが、こちらも人選としては悪くなかった。バスは身体が高くて声が低い奴らの集まり。がたいの良い男たちをまとめるには良いんだろう。
「女子はほっといても練習するからね! 今日から練習時間、私が男子の面倒を見ます。吹奏楽の部長として中途半端な状態で本番は迎えさせません!」
秋津はやる気満々だった。
「吹奏楽と合唱って微妙に違うよなぁ?」
「合唱部がないんだし、一番音楽できるから仕方ないよなぁ」
なんだかんだ言って合唱は各クラスのまとめ役によって大きく成果が変わる。
秋津は部長だ。なし崩し的に吹奏楽部がまとめ役になってる以上、プレッシャーもあるだろうしな。
「今日は曲を覚えるためにCDを流し続けるけどまず基礎練を叩き込みます! すきあらばやること! 休み時間のたびにやること!」
幸いなことに普段から俺みたいなやつにもガンガン声をかけてくるような子だし、何より顔立ちも整ってて人気があるし、反発する男子がいないのはよかった。周りのクラスはすでに揉め事が起きてるみたいだし、このあたりもさすが部長を任されているだけあるなと感じた。
「康貴! 集中!」
「怒られてやんの」
「わかってると思うけど暁人の方が問題だからね!」
なんだかんだ言って楽しい朝練になっていた。