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第21章

「あー、なんか玄関のほう、まだうるさいね。どうしよう、しばらくわたしの部屋で映像でも見て時間つぶそっか」

「あ、あの、レナさん」

「ん?」

「相手の人…大丈夫なんですか?」

「意識あったし、たぶん大丈夫なんじゃない?病院直行だろうけどね」

「レナさんは、平気ですか」

「どっちの意味?殴って?殴られて?」

「……両方、です」


「殴られるのは、まあ殴られないから別に平気。痛いのは嫌だけど。で、もうわかっちゃったかも知れないけど、おかしいんだ、わたし。好きなの。人を殴るのが」

「好き……ですか」

「うん。だから、そんな自分が嫌い。選手にならない理由は、まあそういうこと。わたし、人が苦しんでるのを見ると、ぞくってなる。気持ちいいの。体が熱くなるの。それも、自分の手で苦しめたい。


人として終わってる、と思うよね?小さい頃からだよ、これ」


 ユーリは黙っていた。わたしはさっきの興奮が収まっていなかったからか、実に軽々しく見事に、言わなくていいことをユーリに喋った。


 そう。ユーリを助けたのも、虐めたのも、ボクシングを教えるのも全部、わたしが変態だから。猟奇趣味だからなんだよ。あーあ、なんでばらしちゃったんだろ。


「あはっ、引いたでしょ?頭おかしいよね?言ったじゃん、人なんて夢見るもんじゃない、って」


 ダメだ。どんどん余計なことを言ってしまう。自己嫌悪が激しくなる。


 ベッドに腰掛けていたわたしは、じっとしていられなくなって歯を食いしばり、首を激しく左右に振り、手元にあった枕を殴りつけてしまった。


「レナさんっ」ユーリが急に大きな声をあげ、顔をわたしに近づけた。


「レナさん、あの、もうやめてください。自分を悪く言うの」

「ふうっ、ふう……何さ、悪く言うって?わたしは、ありのままを言ってるだけだよ」

「なんでですか?ボクサーとしてリングで人を殴るの、誰かを助けるために殴るの、間違ってますか?私は間違ってないと思います。


間違ってないことで、その、気持ちよく……なったって、ダメじゃないと思いますっ」


 ユーリは怒ったように言った。


 数秒かけ、変な沈黙が二人の間を横切っていった。

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