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第19章

 撫でるようなジャブで追撃すると、丸戸はほとんどタックルのようにしがみついてきた。


 あー良かった、まだ頑張ってくれるんだね。だけど、もつれ合ったままで後頭部にラビットパンチを二発受けた瞬間、怒りがわたしを支配した。


 あれ?おまえ、わたしの頭に何してんの?


 わたしは肘打ち気味のショートフックで丸戸を引き剥がし、ワンツーの連打でコーナーに追い込むと、ひたすら顔とボディに打ち分けて釘付けにした。


 もう離さない。

 ねえ、わたしをあんなふうに殴っていいと思った?

 ほら、痛い?怖い?わたしは楽しいよ。ほら。


 ボディストレートからの左アッパーが綺麗に入り、マウスピースがはみ出る。丸戸の目は虚ろだった。あ、いきそう?でもまだダメだからね。左ボディで苦しませて、再び意識を戻す。ショートの五連打が綺麗に入り、頭が左右に跳ね続ける。


 まだラウンドは一分も残ってるけど、もうそろそろかな。愛しの板頭会長が止めに入っちゃいそうだもんね。


 わたしは左ボディからの左アッパーでまた顔を跳ね上げた瞬間、全力の右を振り回して顎を擦った。


 脳が揺れた。頭蓋の中でぶつかり、砕けた。それがよくわかった。丸戸の涙を浮かべた目から、意識が途切れるのを感じた。


 あーあ、勝手にいっちゃったね?


 でもまだ許してあげない。君が立ってるうちは終わってないよ?


 かくん、と膝が折れた丸戸を左の強打で追撃、体ごと右アッパーを打ちつけて前のめりの上半身を無理やり起こすと、わたしは首の据わらない赤ちゃんのようになった丸戸の頭をワンツーの連打で飛ばし続けた。


 やばい。これ、やばい。わたしまでいきそう。いっちゃう。


 板頭会長が慌ててリングに上がってくる。時間がスローモーションで流れる。


 ダメっ。お願い、もう一発だけ。


 座り込むようにわたしの胸元まで落ちてきた彼女の顔を、右で思いきり殴り飛ばした。名残惜しかった。


 硬直したまま彼女の体が倒れ、マットに側面から強打した頭が二度、弾んだ。涎と血にまみれたマウスピースが口から零れ落ちた。半開きの彼女の眼は、どこか違う世界を見ているようだった。


 倒れた彼女の体が激しく痙攣し始めた瞬間、わたしの体も少し跳ねた。声が漏れてしまいそうだった。


 口の中が甘い。胸が、パンツの中が熱い。背中のぞくぞくが止まらない。


 わたしはこの感情を誰にも悟られないよう、くるっ、と彼女に背を向けてマウスピースを口から半分出し、ニュートラルコーナーへ歩いた。ロープを両手で掴み、震える体を抑えながら目を閉じて、余韻に浸った。

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