第18章
また丸戸が前に出てくる。もう右目が腫れて半分しか開いてない。
わたしはガードを高く上げ、サークリングしながらジャブを出していく。教科書の動き。丸戸の頭がぽんぽん後ろに跳ぶ。こんな鈍い女、ジャブ一本で殺せそう。
フェイントに引っかかるのが楽しくて、しばらくジャブを顔とボディに打ち分け続けた。相手が左を返そうとしたら右クロスを被せる。
手が出なくなり、あからさまに怯えた表情になるのが官能的。ダメだ、にやにやが止まらない。わたしは君の目にどう映ってる?
いじめっ子?殺人鬼?強姦魔?えへへ。泣いちゃう?
すると丸戸は意を決したように、ガードを固めて頭を下げ、突っ込んできた。ジャブを二発刺しても止まらない。覚悟ができたのか。
打ってきた左は明らかにローブローで、退いたわたしの左脚に当たった。下腹部、それに加えて意識が下にいったわたしに頭をぶつけるのが狙いだろう。
まあスパーだからレフェリーもいないし、このくらいのラフファイトは許容範囲かな。許さないけど。
わたしはサークリングを再開、再び突っ込んできた丸戸の頭を全力の右アッパーで跳ね上げた。ガードの上からだったけど、多少ぐらついたので左スイングをまた全力でレバーに打ち込む。
「ぐふうっ」これは直撃、丸戸の体が痛みに対する拒否反応を示すように丸まった。
「くはっ、う」
あ、もう倒れちゃう?終わっちゃうの?
嫌だ。ダメ。もっと君が苦しむとこ、見たいよ。