第16章
わたしは付き合ってやる素振りを見せ丸戸が近づくのを待ち、打ってきた高い位置からの右ストレートにダッキングからの左フックをカウンターで叩き込んだ。同時に相手の左に回り体を入れ替え、丸戸をロープに追い込む。
多少のダメージがあったんだろう、丸戸は驚いたようにガードを上げ、体を丸める。間髪入れずその上から軽めの四連打を浴びせ、わたしは再び距離をとった。
どう考えても余裕。弱すぎ。これが日本ランカー?
その後も突っ込んでくる丸戸にカウンターを決める流れを二回。まだ一分しか経ってないのに、あっちの顔が腫れている。
「頭振れ、頭、もっと低く」焦った板頭会長の怒声が飛ぶ。うちの会長は黙ってにやにやしてる。
丸戸の心が折れたら楽しい時間が減って困るので、ちょっと遊ぶことにした。
突っ込んできた丸戸のパンチを、顔は避けるけどボディはブロックしつつ、真っ直ぐコーナーに詰まる。わたしは左腕を折り曲げて腹の前に下げたまま、ラッシュを受けてやることにした。にやにや笑顔で。
「後悔すっぞ、バーカ」
ようやく威勢が戻った丸戸は、わたしを釘付けにできたと思ったのか、強打をまとめてきた。
右、ヘッドスリップ。
左フック、スウェーバック。
ボディストレート、肘ブロック。
左ボディ、肘ブロック。
ワンツー、ウィービング。
オーバーハンド、ダッキング。
左フック、スウェーバック。
一発も当たらなくて苛立ったのか、丸戸は体ごと右を振って頭をぶつけようとしてきた。それは左肘で跳ね退ける。今度は左腕を押し付けてわたしを抑えようとしたので、そこにショートの三連打を返して最後のアッパーと同時にコーナーを抜け出した。
起こる歓声。下界を見渡すと、わたしの動きに驚いた間抜けな顔でいっぱい。
あはっ、けっこう楽しい。これで三万か。
丸戸は再び頭を振って迫る。バカの一つ覚えが。わたしは左回りにジャブを五連打、うち三発が顔を捉えて丸戸の進撃が止まったところでブザー。一ラウンド終了。




