第13章
当日。土曜で学校も休みだったし、朝十時過ぎまで寝ていたら玄関のベルが鳴った。ユーリが起こしに来てくれたようだ。
「あー、ユーリ、おはよ」
「あ、おはようございます。レナさん、スパーリングは午後一時からって……」
「うん、そだね」
「起きてなくて大丈夫なんですか?」
「大丈夫だよ、それよりユーリはもうご飯食べた?ちょっと食べてく?」
「え……」
この子は心配性みたい。そこが可愛いんだけどね。
部屋でユーリとテレビを観ていたら、下から父の呼ぶ声がしたので、いい加減に返事して着替え始めた。
「はいはい、お待たせ」
「おいレナ、もう相手来てるんだぞ」
「いつもこんな感じじゃん」
「まあそうか。ユーリちゃんも、レナが真面目に動く貴重なシーンをちゃんと観ておくんだよ」
「は、はいっ」
「わたしは天然記念物か」
三人で勝手口からジムに入ると、珍しく人がいっぱいで、テレビカメラは二台も入っていた。
「お待ちどうさん、板頭、うちの娘だぞ」
「おはようレナちゃん、久し振りだねえ」
手足の長い犯罪者顔のおっさんが近寄ってきた。板頭ジムの会長だ。今となっては世界王者も在籍してるジムだし、うちとはえらく差がついたもんだ。
「お久し振りです。今は女の子まで売り出すようになったんですねー。アイドル路線ですか」
「おーおー、つんつんしてるのは相変わらずだな。親によく似とる」
後ろに今日のお相手、丸戸杏の姿が見えた。じかに見るとやっぱりひょろ長い。顔は、馬っぽいけどまあ可愛いほうか。半端に長い赤髪がバカっぽい。
「丸戸です。はじめまして」
「あー、佐藤です。よろしく」
後ろのカメラマンが握手を要求してきたので、仕方なく営業スマイルでやってやったら丸戸のアホが本気で握ってきた。でも大した握力じゃなかったし、されるがままにしておいた。