第1章
人間は不平等。スタートラインは人それぞれ、笑えるくらい違ってる。学校の先生あたりが怒りだしそうな気もするけど、事実だからもうはっきり言っておいたほうがいいと思う。わたしみたいなのでさえ気づいてるんだし。
陸上競技百メートル走の決勝に、アジア人が並んでるのを見たことある?女子の世界記録が男子を上回ったことは?スポーツだけじゃなく、最初に配られたカードで決まってしまう分野なんて、幾らでもあるのだ。
ただ、それでもゼロではない。可能性がない、とは言いきれない。だから人は、ほぼ無駄だとわかっている努力だってしてしまう。そんなボク一途でカッコイイ、そんなワタシ悲劇的でカワイイ、なんて思い込みながら。現実と夢の狭間あたりで。
えー、わたし個人の考え方を述べることにすると、そういう痛々しいの、やめました。もう高校生だし。二年だし。どんな改造してみたって、軽自動車ではレースに勝てません。まあ女は比較的、割り切れる生き物なんじゃないかと思う。その点、男はある意味で尊敬に値するよね。いい年になっても熱い熱い。ちょっと鬱陶しくなるくらい。嫉妬するくらい。
授業が終わり、今日もわたしはすぐ帰宅。部活、なんて熱いのは避ける方向で。ただ、帰ったら帰ったで多少うるさい場所に顔出さなきゃいけないのが面倒ではある。まあ、我が家の商売が立ち行かなくなったらわたしも困るから仕方ないけど。一応、看板娘だからね。わたし以外に女のいない場所だから。
十五分ほど歩いて、さあもう家が見えるっ、て時。不穏な風景が視界に入った。
周囲の大人は見て見ぬ振りで通り過ぎて行く。
気持ち悪い大声。
とっても育ちの悪そうな高校生の男女が、おとなしい印象の黒髪ロング女子を壁際まで追いやっていた。しかも黒髪女子のほうは、わたしと同じ制服。
「ねーまじ、こいつむかつくんですけど。ほら謝らせてよ」
「わーったわーった。おい謝れよ、こら」
「……すいませんでした」
「でも謝っただけじゃ何も解決しないよねー。この鞄、弁償してよ。ほら見てここ。傷」
「うわ、まじ?うわ超ひでー傷じゃん。まじ弁償だなこれ。おい金だ金」
「……すいません」
そいつらがあまりに気持ち悪かったので、わたしは胸のあたりからこめかみまで体温急上昇、頬が二回ほど痙攣した。まあ冷静にいこうか。ね。と自分の心に呼びかけながら、現場へつかつか向かって行った。
瞬時に作戦を立てる。あの子の名前はそう、ヨーコでいこう。ボクサー具志堅用高からとったのだ。会話はあいつらアホ二人の知能レベルに合わせて。