五時限目:ダンジョンGO.2
「…………燃やせるかね?」
「いや、やめとけ。ダンジョン内で炎はマズイぞ」
「ほら、もう虫なんていませんから、ね!?」
どうも、皆さんこんにちは。
世界樹のダンジョン探索をしてたら蟲の被害に遭った、虫嫌いのアレクです。
何度も炎魔法を使おうとしてるんだけど、ニーファとメリアに止められながらも進行中。
「………目が幽鬼のようだな」
「…あの罠は私でも嫌ですわ………モチモチしてますわ」
ゴードン先生と班長のミカエラが、先導を行く俺の後ろについてきている。
プニエルはミカエラの腕の中に収まっている。相変わらず、この子の弾力に魅了される人が多い。
現在、俺達がいるのは8階層目。
まだまだ序盤なのに、あのトラップ。
きっとこの迷宮の主は虫が大好きに違いない。そうだ、きっとそうだ。
「偏見じゃぞ。もしかしたら可愛い女子かもしれんぞ」
「いや、それは無い。きっと全身が木で出来たバケモンが出てくるに決まってる。………あと、平然と心を読むな。そんなスキルないだろ」
「…………普通に声が漏れとったぞ?」
談笑しながら歩いていると、目の前からは無数の魔物たちが道阻む。
今回の授業では10階層まで行って帰ってくるのだが、魔物とのエンカウントはそれほど多くない。精々5回だ。多分、少ない方だろう。
まぁ、まだ潜って1時間しか経ってないし。
おっと、魔物を倒さなければ。
目の前にいるのは、トレントが一匹とゴブリン集団の小規模の群れ。
トレントは、お馴染みの歩く木。お化け屋敷よろしくの顔をした人面樹だ。
ゴブリンは言うまでもない。雑魚だ。
「よし、メリア!君に決めた!」
「は、はい!?え、えっとわかりました!」
ちょっと、某アニメを意識して命令してみた。
メリアは俺特製武器―――――轟砕の爆戦棍を振るい、前に並んで粗末な棍棒を持つゴブリン達にぶつける。
ドガァンッッッ!!
激突粉砕したゴブリンは悲鳴をあげる間も無く血肉と成り果てた。まぁ、爆風で消し飛んだと言う方が正確かな。
「……………(シュッ)」
トレント達は口がある癖に喋らず、無言で枝を伸ばして刺し殺さんと攻撃してくる。
まだまだ戦闘経験の浅いメリアは、その全てを防げず、何本かは俺達の方向に突き進んできた。
「えい」
燃え盛る獄紋刀を振るい、枝を真っ二つにした上で燃やす。その炎が水分とか全部無視してトレントの体にも燃え広がり………黒ずみになった木が誕生した。あ
いやぁ……焚き火の音が心地よい。
「おい、その剣の火は消せないのかよ?」
「まぁ、これがデフォルトだしね」
「……何言ってんのかわかんねぇが、常時火が出ることはわかった」
仕方ないのだよ。ごめんなゴードン先生。
この刀から溢れ出る黒い炎は常時点火状態。
止めるなら、鞘に収めるか、紋を開いてフォルムチェンジするしかない。
俺がトレントを燃やしたのを最後に戦闘は終了したようだ。
「メリア、何本か掠ってなかった?」
「……すいません、実力がたらなくて……」
トレントの伸ばした枝が体のあちこちに傷をつけているのだが、貫通してなくてよかった。
「いや、まだまだこれからだから、頑張れ」
「そうじゃぞ?なんせお主に我もついてるのだからな。安心して戦って良いぞ」
メリアは、ニーファの援護射撃により、どうやら自信を保てたらしく、頰を緩ませ、
「はい!これからも頑張ります!」
うんうん。頑張って、俺の護衛として育ってくれ。
あ、君の方が年上だったか。失敬失敬。
「………いや、あの年齢でこの実力は無理があるぞ。従者の嬢ちゃん」
「先生、アレクさm……さんに常識は通じませんわ」
ミカエラさん、さん付けしっかりしてね。
あともう少しで様付けになってたよ。
8階層の階段を降り、9階層にやってきたのは良いのだが、魔物とのエンカウントが増えてきた。
トレントやゴブリンは相変わらず出てきているが、スライムやコバルトも出てきた。
どうやら、多種多様な魔物が現れる迷宮のようだ。世界樹の迷宮らしく、全種類の魔物が揃ってますよー、とかだったら倒し甲斐が……あるのか?
話は変わるが、ここのスライムは階層を重ねるに連れて様々な個体がいる。
そして、ノーマル以外の殆どのスライムが攻撃してくる。
つまり、変哲も無い普通のスライムはただ動いてるだけで、俺達に何もしてこない。
一応、ダンジョンモンスターは迷宮を守るのが仕事だと勝手に想像してしまうのだが。
例えば、自然界のように群れの仲間が少なくなれば撤退、なんてのが迷宮では無いし、ちょっと凶暴になって襲ってくるのだが。
気まぐれに、目の前を通る透き通った青い体を持つスライムがいるので、ちょっと近寄る。
基本的に、ノーマルのスライムは人畜無害だ。毒や麻痺を持っているものは、表面の色で大体察しがつく。
普通のスライムは、様々なものを溶かして栄養にすると言っても、凄い溶けるわけではない。
一応雑食で、なんでも食べるのだが、人を溶かしきることは出来ないらしい。
基本的に生き物の死骸や、落ちた木の実、木片や雑草と片っ端から取り込んでゆっくり消化するらしい。
人間の顔に張り付かれたら取るのが困難……ということなく、簡単に引きはがせる。
その時はヌメヌメとした液体が顔についてしまうのだが、とにかく危険度が低いし、皮膚が溶けることもない。
基本的に、ノーマルに敗れるのは赤子ぐらいだ。
……その点、うちのプニエルはヌルヌルしないんだよなぁー。エンジェルスライムっていう特殊性からかな?
にしても…………………
「………………」
「……どうしたんじゃ?スライムなんか見て」
『んー?なかまー?』
「……えっと?」
「何かあったのかしら」
俺がスライムを凝視しているのに気づいた三人と一匹が近寄ってくる。尚、ゴードンは興味を示さず水筒の水を飲んでいる。
「あのスライム、洗って滑りを落として、袋に入れたらいい枕になりそう」
「「「…………ふむ」」」
『まくらー?』
「革の袋に詰めて冷やせば、弾力のあるヒンヤリ枕とかできそうだな……」
「「「…………」」」
俺がそう呟くと三人は想像したのか真面目な表情になる。
「夏とかに弾力あるヒンヤリ枕で眠れば気持ちいいだろうなぁ……」
的確な使い方を言うと、三人から喉を鳴らすような音が聞こえる。
「………ちょっと実験用に捕まえるか」
「………我のぶんは?」
「我儘言わずに自分で取ってきなさい」
「……ケチじゃのぉ」
その後、スライムを数匹生け捕りにし、耐水性のある革袋に個別にしまい、往復して無事迷宮探索は終わったのだった。
「アレクさん?これは?」
授業が終わったあと、俺が机に一匹のスライムと革袋を並べて考えているの見て、リダ先生がやってきた。
「いや……スライム枕つくろっかなーって」
「スライムの……枕、ですか?」
「はい」
先生は少し悩む素振りをしてから、何かを決定したらしい。
「ではアレクさん。明日スライム枕の授業をしませんか?」
「はい?」
なにいってんだ、この人。
スライム枕。
ちょっと欲しいよね。
 




