大食堂三階
フェメロナ先輩との決闘を終え、俺は昼食を済ませる為に食堂に向かっていた。
ユグドラシル中央学園の大食堂は、三階建となっていて、一階は平民やその他大勢、二階は下級〜中級貴族、三階は上級貴族や王族、特別生専用のものとなっている。
俺達特別生たちは、学園初日の親交を深めるという事で揃って食堂に来て、好きなようにメニューを頼んで、学食を食べていた。
やはり、雲の上の存在とも言える上級階級の人が来る三階の食堂なので、味も申し分ない。
今回俺が選んだものは、オーク肉を使ったステーキと野菜類である。
ニーファは俺が龍泉霊峰から連れてくるまでは、数百年以上前の食しかしらず、現在の料理に感動を覚えて何かと食べており、今日はミートスパゲッティを食べているらしい。
俺がそれに舌鼓をうっていると、先輩の1人…フィリップ先輩が話しかけてきた。
「アレク、少し聞きたいことがあるのだが」
「…モグモグ………なんでしょう?」
「君と、あとニーファさんは……何かしら加護を持っているのか?」
ナイフで切り取ったステーキを頬張っているとそんな質問をしてきた。
加護って言うのは……夜天神のアレか。
「まぁ、持ってますね。先輩が崇めてる宗派とは別の神ですけど」
「そうか……いやなに、私は加護について興味があってだな。色々と調べたり、聞き回ったりしているんだ」
「へぇー……先輩も加護をお持ちで?」
俺が疑問点を聞くと、先輩は少し困った顔をして、
「まぁ持ってはいるが……私が太陽教の者であることは言っただろう?」
「えぇ。一応知ってます」
「だが、私が持っている加護は、鏡面神という神でなぁ……」
鏡面神。聞いたことないな。
字面からして鏡に関係する神様だろうか?
「なぁ、ニーファ知って……」
「……む?なんじゃ、呼んだか?」
ふと振り向けば口元を赤く染めたニーファが。
……あ、ミートスパゲッティが原因か。
拭かないと話にならんな。
「あ、ちょ、口に布を……むぅ…」
無言で口周りを拭いて、話を戻す。
「鏡面神?……あー、確かソレは…」
「知っているのか!?」
「!?……ん、うむ。一応な」
何故か食い気味に迫るフィリップ先輩。
どうした一体。目を凄い見開いてどうしたんだ。
「いや、すまない。実は教会の書庫で神について調べたんだが、鏡面神の陳述が無かったんだ……」
「あぁー、鏡面神は古き神でな。伝承に残る前には神界に引きこもったという話じゃったかのう」
「……成る程、ところで何故ニーファさんは知っていたんだ?」
ギクッ。
やばい、ここでコイツが『我は神竜だから何でも知ってるんじゃよ』とか言ったら笑えるんですけど。
まず信じてもらえないでしょうが。
「む?あぁ……以前、神の歴史を受け継ぐ巫女に会ってな。そこで聞いたんじゃよ。口伝てでしか伝わっておらんらしい」
「成る程……どうりでわからないわけだ」
「おい、ニーファ、その話本当か?」
「うむ。嘘ではないぞ。ただ、500年も前の話じゃ。その一族は既にいないかもしれん」
「……メリアは関係あるか?」
「いや。メリアとあの巫女はまず宗派が違う。奴は記録を司る書庫神の巫女だったからな」
また聞いたことのない神の名。
あれか、八百万のレベルでいんのか?この世界。
「取り敢えず、ありがとう。2人には感謝する」
「いえいえ。お役に立てたようで何よりです」
「気にすることはない。困った時はお互い様と言うのじゃろう?」
そのまま、フィリップ先輩は自分の席に戻り、食事を再開した。
にしても、太陽教の信者で、祖父が重要な職についてんだろう?なのに持ってる加護は別の神。
……大丈夫なのかな?
「アレク様。こうして喋るのは久しぶりですね」
ん?誰だ………あ、やべ。
目の前にいるのは、ミカエラ=リル=ヘイドゥン。
魔王国アヴァロンの二大公爵家の一つ、ヘイドゥン家のご令嬢。
またの名を、『紅焔の魔女』。
紅い髪とその瞳、そして得意とする魔法から名付けられた異名。
俺が幼少期に城のパーティで何度か話したが……それだけだ。
一応、身分は秘匿しているので、そのまま話を進めよう。
「……何処かで会いましたっけ?」
「ええ、まぁ何処、とは言いませんが、同じクラスになれて良かったですわ、王子。(訳:身分は黙ってあげますから、これからも宜しくお願いしますね)」
最後の二語は口パクだが、隠してはくれるらしい。
「そうですか……私も有名なミカエラ嬢に会えて光栄ですよ。それと、私のことは普通にお呼びください(訳:どうもありがとう。それと、様付けはやめてくれ)」
いや、良かった良かった。
ここで俺の身分をぶっちゃけられたらめんどくなる。今はタメで話しかけてくるクロエラとか、俺の身分を知らない連中は絶対に距離を置くだろうな。まぁ、今、だったらの話だが。
「あれ?先輩とアレク君は知り合いだったんですか?ティタ、知ってた?」
「ううん。知らなかったわ。ミカエラ先輩、2人の知り合ったのってどんな感じだったのですか?」
そうやって現れたのは、フリエラ先輩とティターニア先輩の2人。
この2人は学園でも有名なほどの仲良しらしい。
しかし、この質問にミカエラは少し困った顔をこちらに向けてきた。
………俺に丸投げなんてしませんよね。
「………ま、まぁ、アレクさ……君は魔族ですから、国であったのですわ」
「ええ。先輩の言う通りですね」
その言葉に納得したのか、2人は俺をマジマジと見てくる。
「魔族?………あ、ホントだ。耳がちょっと長い」
「エルフと違って少し尖ってるだけなのね……あ、どうも既視感があると思ったら、ミカエラ先輩と同じ魔族耳だったからですか 」
「えっ!!アレク君って魔族なのか!?」
驚いたとばかりに、出てきたのはクロエラ。
「ん?なんか問題でも?」
「いや、逆に大歓迎だ!ニーファ君は見た目からして竜人族だとわかったけど、魔族だったんだな!」
「……何が大歓迎なの?」
「いやなに!俺の研究室に来て少しサンプルを貰えれば……」
「「いいえ、結構です(じゃ)」」
「えぇ〜〜〜……少しだけ!先っちょだけだから!」
特別生全員……ではなく、来ていないもう1人の一年を除いて、俺は会話し終わったのだった。




