雌獅子と決闘
「それでは始めようか!」
意気揚々と声を上げるフェメロナ。
ご存知の通り、現在は学園敷地内にある闘技場に来て、俺は決闘を申し込まれたので戦いを始めようとしている。
観客席には、ニーファを含めた特別生全員が見学に来ている。
リダ先生は審判役として、リングから少し離れた台座の上に立っている。
俺の心情?
そら勿論、早くお家に帰りたぁーい、だよ?
俺、平和主義やから。
戦闘なんて好きじゃありませぇーん!
……外面的には戦闘狂に見えるのだろうか……
「お手柔らかにお願いします。フェメロナ先輩」
「なに、気にするな!かの大会で優勝した貴様なら、私の攻撃にも反応できるであろう?」
「さぁ?やってみないことには……」
「わからないだろう?ということで始めようか」
ダメだ、この人。
戦うことしか頭に無い!
「それでは、フェメロナさんと、アレクさんの決闘を始めます!ですが、その前に安全上の問題の為、クロエラさんの協力のもと、結界を張らせていただきます!」
「はい、張ります!」
クロエラが闘技場に下りてきて……なんか荷台を持ってきた。しかも上に103型のテレビ程の大きさを持つ機械が。その形状は直方体に前面にノズル?がついたもので、どこからどう見てもヤバイとわかる機械。上部には謎のタンクが取り付けられている。
「これは、《擬似霊素防壁》を張るための魔導装置でして、このボタンを押すと……」
言葉と共に、クロエラがボタンを押したら装置の上部に取り付けられたタンクの中身がキュイィーーーンと音を立てながら渦巻き始め、ノズルから白い粉塵が放射。
それは綺麗に球体を作り、リング全体を覆う。
………なるほど、確かにダンジョンの結界を再現したものだ。凄いなクロエラ。
まぁ、王都フリードゥンの闘技場の下位互換だが。
「それでは準備は整いました!行きますよー………試合、はじめ!」
瞬間、フェメロナが足を踏み込み……砂煙を後方に飛ばしながら、俺に突撃して……はやっ!
ドゴオォォォオオオオォン!!!
「地味に危なかった……」
「ははっ。流石に避けるか……いや、避けれなければ、それまでよ!」
「なんか自己完結してますけど、やめてくださいませんかねぇ!!」
フェメロナが墜落した場所を見れば、大きなクレーターが出来上がっていた。
いや、それよりも注目すべきは……
「……それが《真獣転身》か?」
フェメロナの足と腕は、金色の獅子のような体躯のものに変化し、さながら半獣人状態になっていた。
文献で見たときの《真獣転身》は、獣人族の中でも上位に値する強者が持つ力。
そこいらの鎧よりも硬い獣の体躯と、動体視力を得ることができる、獣人の奥義。
だが、その姿は全身を獣に変身させるはず……
「残念だが、これは《真獣転身》ではなく、《限定転身》だ。体の一部を我が胸に宿る真の獣に同調させることによって発動する近接戦最強の力だ」
成る程な。
別バージョンの《真獣転身》……接近戦最強は伊達では無い、か。
これは、近づくと下手なことになるぞ…
「転身にも色々あるんですねぇー…ってことで」
「むっ……」
俺は影からヘルアーク武闘大会の決勝で使用した武器で、我が二大主要武器の右翼。
漆黒の刀身を持ち、黒炎を巻き上げる唯一無二の素敵な刀、《獄紋刀》を取り出す。
「下手したら切り落とすかもしれんが……治すから良いよな!」
「ふん!我が肉体を切るだと!ほざくなよ!」
フェメロナは獅子の脚力で空を飛び、俺に向かって拳を叩きつけようとする。
俺は、燃える獄紋刀を振り下ろし、撃退する。
黒炎がフェメロナの腕を覆うが、彼女はそれを薙ぎ払うように動かして消火してしまう。
普通なら、腕払うレベルじゃ消えない炎なんですがそれは。
「熱いだけでは、私にはきかん!」
「うわー……力でなんとかするタイプだ」
ニーファとかリョーマでも出来るだろうけど、流石に自分から炎に当たって特攻したくは無いわぁ。
………あ、いいこと思いついた。
「…戦闘中に、何か思いついた様な顔をするのは……命取りだぞ!!」
「あ、出てましタァ?今後気をつけますんで」
俺は爽やかに、黒い笑みを浮かべながら刀を振るう。
そして、魔力をたくさん練り上げながら右に左に縦に横に、武器を薙ぎ黒炎を視界を埋めるほど撒き散らす。
「はい、せーの《百火繚乱》っ!!」
「ぬ!?」
黒炎で埋め尽くされた世界に、白い炎が点々と輝き始め夜空の様な美しさを見せる。
……ま、まぁ実際には夜空なんて素敵なものではなく、体が焼け落ちる程の熱量を持つ地獄なんですがね。
しかも、この白い炎。絶対温度は軽く行ってますね。普通ならあり得ないことをしでかすのが魔法。いやぁ、魔法って素晴らしいなぁ。
総勢百の火の玉ーーー大玉ころがしに使うサイズーーーがフェメロナに迫る。
「うおおおおおおおおおおおっ!!!」
…………………はい?
えっと、状況報告!状況報告!
ふぇ、フェメロナ先輩が百の火の玉を掴んでは遠くに投げを繰り返して、黒炎を突破してきてます!
いや……おかしいだろう!?
絶対温度だぞ!?
獣化の力でも普通ありえんぞ!?
「なぁ………それ、王族特性入ってます?」
「ハッハァ!我が国の《転身技術》は、始祖の血が濃ければ濃いほど強くなる!特にそれが表に現れるのが、私たち王族だ!」
「……普通の獣人だと、死にますよね、この炎」
「む?………まぁ、そうだろうな」
認めたよ。この人。
そっかぁ……やっぱりこの魔法、普通なら相手は死ぬのか。封印するか。うん。
蘇生魔法って覚えられないかなぁ……探すか、あとで。
「考え事とは悠長なことだな!舐めているのか!?」
「ソフトクリームって美味しいですよね」
「あぁ!?」
取り敢えず煽っとくスタイル。
うーむ。どうするか………よし。
「先輩……死なないでくださいね?」
俺は獄紋刀を構えなおし、柄に刻まれた紋に触れて魔力を流し、言霊を発する。
「《獄紋刀・第二紋》」
黒き炎と刀身は消え、代わりに冷気を帯びた白い刀身が現れる。
つまり、氷の刀。本来は炎の刀に対して、逆の効果を持つのだ。
周囲の熱々の黒炎が霧散した代わりに、マイナスを軽く超えさせた冷気が周囲を覆う。その威力は、リング全体に雪を降らせる。
「さむっ!」
「いやぁー、寒いですねぇ」
学園の制服は、基本的に季節の気温に左右されない様になっているが、急激な温度変化には耐えれなかったらしい。
「よっ」
本来なら俺も凍えているはずだが、先に保温系統の付与の力を倍増させていたので大丈夫……ていうか、この制服は俺好みに魔改造が行われているので。
「がっ……体が!!」
急激な温度変化による体の硬直。
フェメロナはその動かしにくい体をなんとかしようとするが、俺はそれを不可能にする。
「一閃」
「あっ……」
獄紋刀を振るい、フェメロナ先輩の首元にあて、気絶させる。
倒れ崩れるフェメロナ。
瞬時に試合終了を告げるリダ先生。
「………《真獣転身》を使えば結果は変わったんじゃないですか?」
俺は気絶しているフェメロナに問いかけるが…
どうやら直ぐに目が覚めた様で、
「……私はな、《真獣転身》を使うなら《限定転身》を使って勝ちたいのだ。前者の場合だと簡単に勝利がついてしまう。……だが、後者だと…」
「戦闘が楽しめる、と」
「………ふふっ、正解だ」
起き上がったフェメロナ先輩に手を伸ばし、握手を求める。
「色々と面倒でしたが、良い経験になりました」
「こちらこそ、無茶を言って済まなかった」
無事に終わって良かった、良かった。
「よし、ということで、また決闘しよな!!」
………………………………………………………………………………………。
「寝言は寝ていえ」
「ゲフッ」
取り敢えず帰って寝よう。




