特別生の教室
ユグドラシル中央学園への入学が決まって、遂に入学式になった。
学園長の有り難くて長いお話はとてつもなくつまらないので、半分寝てたのは内緒である。
この学園の制服は、男子は黒を基調とした学ランをモデルにしたような服で、前身頃はボタンで留めずに開けたまま、制服を縁取るように金色に近い色の装飾が施されている。
下に着るワイシャツは、学園で養成されている芋虫型魔物の特殊な糸らしい。
女子は、白を基調とした可愛いもので、スカートタイプのもので、色以外は男子とほぼ同じものである。
なお、その制服の内外側に別の衣服を着用することも許可されており、制服の下にパーカーだとか、上にポンチョを羽織ったりできる。
そして、貴族と平民とを見分ける為の紋章を表すバッヂを胸元の襟につける義務がある。
貴族は黒と金の洒落たバッヂ。
平民は白と銀の普通のバッヂ。
無論、俺は前者の黒金バッヂをつける。まぁ、見えづらい。黒い制服に黒いバッヂだからな。浮いている様には見えるが。
ニーファは、別に貴族でも何でも無いのだが、一応父さんの粋な計らいで黒金バッヂ。
そして、驚くべきはこの制服に付与された魔術。
『耐汚』と『耐魔法攻撃』、『空気調節』が付与されている。
『耐汚』は、制服に付着する汚れが限りなく着かなくなるもので、付着しても直ぐに汚れを落とすことが可能になる。
『耐魔法攻撃』は、文字通り敵襲を受けた際に大抵の魔法攻撃を弱化させ、被害を抑えることが可能。
『空気調節』は、身体周りの気温・湿度調節を行い、夏は涼しく冬は暖かい、便利な代物にするもの。
俺が普段冒険者で着ている、常闇の黒衣、なんてのにも、これを真似て付与した。
さて、俺達は入学式を終えて、各自の教室に向かうのだが、ホームルームの時間はまだたくさんあるので、のんびり歩いて行く。
従者と従魔のメリアとプニエルは学園に併設された寮でお留守番。
「てか、教室が遠い……」
「いや、普通に歩くだけじゃろう…」
そしてやって来ました、特別生の教室。
扉を開けて普通に入って、自分の席をまず探す。
「「「…………」」」
し、静かぁ………
予想以上の静寂な世界なんですけど。
「あれ?……アレク君じゃないか」
「んあ?」
俺に話しかけてきたのは……うわー……うわー。
金髪の好青年で、道を歩けば10人中12人が振り向くような美青年。
ヘルアークの王子、ミラノがいた。
「久しぶりだねアレク君。そして、ニーファさん」
「久しいの」
「……なんでいんの?」
「あれ?言ってなかったっけ?私は学園の二年生なんだよ。あの時は大会の件で国に帰っていただけだし」
「ほへー」
成る程な。つまり、コイツは俺の先輩か。
……絶対に敬意を払いたくないのだが。
「あ、ステラもいるよ。ほら」
そう言いながら、指差した先にはニコニコとこっちを見た爆乳美女のステラ嬢が。
うん。こんにちは。
「まぁ、宜しく、ミラノ先輩」
「いや、君に先輩って言われたくないのだけれど………」
ミラノとの会話を打ち切って、自分の席に着席。
席は最後尾で、ニーファが隣だ。
まぁ、席数は5×5の総勢25席並んでおり、全ての席が埋まっているわけではなく、俺を含めて10席ほどしか埋まっていない。
というか、特別生は少ないから、これしかいない。
「はい、皆さん揃いましたかー」
入ってきたのは、二十代後半の女性で、このクラスの担任を務める教師、リダ=フロイルだ。
「新入生の人は初めまして、この特別生クラスを担任するリダです。宜しくおねがいします」
今期に入学する特別生は俺とニーファの二人を含めた四人で、内一人は来ていない。
「では、二年生、三年生の順に自己紹介をお願いしますね?」
そう言って、リダ先生は生徒に話を振る。
まず最初に挨拶したのが、
「フリエラ=グリモワールと申します。学園長の孫ですが、気軽に話しかけてください」
あのお爺ちゃんの孫娘か。
長い黒髪を後ろで纏めた、見た目が委員長ポジの人だ。
「ミラノです。ヘルアーク王国の第一王子です。皆さんと仲良くできると嬉しいです」
「ステラと申します。ミラノ様の婚約者でございます。宜しくお願いします」
この夫婦は、まぁ、置いとこう。うん。
「エルフの族長の娘、ティターニアと申します」
長い金髪を垂らした長耳の美少女エルフ。
以上4人が二年生。
「魔王国のヘイドゥン公爵家の次女、ミカエラ=リル=ヘイドゥンよ」
燃えるような赤髪を持つ我が国の上級貴族の娘。
「三年のフィリップだ。太陽教の信者ではあるが……祖父の威光を使う気は無い。よろしく」
コイツは生意気そうな美青年で、どうやら祖父が教会の重要なポジションに、いるっぽい。
「獣王国の第二王女、フェメロナだ」
猫耳尻尾……いや、獅子か。獣王の家系はライオンだし。まぁ、脳筋っぽい女である。
んで、三年生はこの3人のみ。
次に俺達一年生。
まず最初に自己紹介したのが……
「どうも初めまして、クロエラです!研究に没頭してたら、入学してました!よろしく!」
眼鏡を掛け、ボサボサの灰色髪の少年。研究職らしく白衣を身にまとっている。
「ニーファじゃ。よろしく」
「アレクです。皆さんと仲良くできると嬉しいです」
こちらは2人揃って無難な挨拶をして終える。
「えーっと、あと1人、一年生には本日来ていない生徒がいますが、この11人でこれから過ごしていきましょう!」
俺の異世界学園ライフが始まったのだった。




