閑話:巫女の内心
閑話にしたった
◆奴隷巫女メリア=ナイツミディン
私の名前はメリア。
代々夜天神アンテラ様を崇める巫女の家系の長女でした。
そう、過去形の『でした』です。
半年前までは。
夜天教の神殿近くにある丘の里に私達ナイツミディン家の本家は、分家の者達共にしっかりと職務を遂行していたはずでした。
日々を、神に祈りを捧げる為の儀式や修行に費やした私の、何が悪かったのでしょうか?
ある日、
分家筋の者達が本家の私達を裏切り、襲撃した。
父様と母様は討死、妹のリニアは行方不明。
そして、私は奴隷落ち。
全てに絶望してしまい、私は生きる希望を失いました。
違法の奴隷商の豚男に連れられて運ばれる日々。
僅かな食料や水を与えられながら、汚く過ごしていた毎日。
いくつもの国を、違法の奴隷商の馬車に乗りながら旅していたら、ヘルアークの王都に近づいたとき、私達は襲われた。
側から見れば只のオークだったが、その実は我が分家の……襲撃の主犯格の男が得意で、神の加護の劣化版、下位互換の紛い物を付与する力。
それを付与されたオークの集団。
どう考えても、私ごと奴隷商を排除するものだったのだろう。
でも、私は、生き残った。
歴代の中でも強力な夜天神の加護持ちだった私は、その力を意図せず発動させ、敵を蹴散らしてしまった。
生き残ってしまった。
一体、私はこれからどうなるのだろう?
辛い日々を思い描きながら、私は暗い沼に埋まるように、意識を手放した。
それから。
私はヘルアークの近衛騎士団の皆様に保護され、私を救ってくれたお方に出会った。
第一印象は、子供。
でも、途轍も無い力を持つ、不思議な子達。
いや、でも。
二人とも、私よりも遥かに超えるあの方の力が見え隠れしている。
…………咄嗟に買ってとお願いしてしまった。
でも、二人に……特に、私よりも背は小さいが、度胸とか精神とかは上回ってそうな少年について行きたいと思ってしまった。
…私は、夢の中でのみ、夜天神様と低確率で出会える。
いや、夜天神様の干渉により無理矢理脳内に姿付きで語りかけてきて、愚痴を聞かされる事が多くて、実は、その………少し迷惑なんですが。
子供の頃から、時たま夢に現れて、助言をしてくれた。時には、役に立たない様なものもあったが、為にはなりましたけれど。
そんな、夜天神様とお話をする時の安心感が彼にはありました。
その後の自己紹介で、私の主人となった少年の名と、その隣の竜人族の少女の名を聞きました。
魔族のアレク様と、竜人族のニーファ様。
アレク様を主様と呼ばせていただき、 ニーファ様達の奴隷として過ごし始めました、が。
今までの常識が軽く崩されてしまいました。
簡単に。
まず、主様の転移魔法で何処かの地下にある秘密基地に招待されました。
そこで既に私は、ポカンとしてしまいました。
次に、出来る事を探す、とのお題を受けた私は家事掃除、そして戦闘を監視の元やりました。
高評価なのは幸いでしたが、戦闘面ではもっと鍛えて使い物にするなんて言われました。
なんでも、イビラディル大陸の魔獣を蹴散らせるぐらいですって。
はっきりと申します。無理ですよ、そんなの!?
それに、一緒に出来る事を探していたニーファ様の力が……もう、形容し難いぐらいに凄かったです。
しかも二人共、あの有名なヘルアーク武闘大会での優勝と準優勝を勝ち取った若き猛者。
…………まぁ、これからの私の努力次第ということで。
せめて、主様に安心して背中を守らせて頂けるぐらいに強くなりたいです!
今では、奴隷巫女の名も、恥ずかしくなくなりました。私の今のあるべき姿だと思っています。
突然ですが、主様の年が11で、もう時期誕生日を迎えるらしいです。
そして私が15歳。
…………いや、年齢なんて関係ないですけど、ただ確認しただけですけど。
今はニーファ様の御年齢を知りたいです。
見た目は私よりも年下なのに、祖父母の様な感じがしましたし。
竜人族の成長は遅いのでしょうか?
あ、睨まないでください。
ニーファ様の年齢なんて興味ないですから。
ほ、本当ですよ?
だから、その手に持つモップを持ち上げないでください。
ニーファ様が床を汚したのがいけないんですからね?
主様の命令、というかお怒りの言葉通り早く掃除してください。私も手伝いますから。
………父様、母様、リニア。
私は今、あの辛い時を忘れる為に必死です。
でも、必ず。
幸せを勝ち取ってみせます。
天国から、私の頑張る姿を見ていてください。
ナイツミディンの名に恥じぬ働きをしますから!
あ、プニエル様、勝手に棚の上のお菓子を食べちゃダメですよ。
あとで主様とニーファ様の二人からガチ怒が来ますよ。
あ、私にもくれるんですか?
ありがとうございます。
パク。モグモグ。
あっ。
私も共犯者になってしまった。
どうしよう。困った。
私の新たな日々は、まだ始まったばかりです。




