奴隷巫女メリア
先日、仕事帰りに倒れた奴隷少女を一人拾って、騎士団に救出を求めた俺達一行は現在、王城の外側にある近衛騎士団の詰所に来ている。
既にあれから1日が経過し、やっと彼女が目を覚ましたので、と騎士からお呼び出しを受けた俺とニーファ、プニエルは一応そこに出向いている。
「えっと……助けてくださりありがとうございました」
少し怯えと敬いを帯びた風体で礼をする少女。
名前はメリア。兎人族の奴隷。
身長は165cmありそう……てか、今の俺よりも背が高いかな?絶対に抜かしてやる。
救出時には薄い貫頭衣を着ていた為、ボディラインが非常に良くわかってしまったのだが、今はゆったりとしたワンピースを着用している。
腰まで伸びた薄いピンクの髪を下ろし、垂れた白兎耳と兎のような赤い目が特徴的。
「どうも。体調はいかがですか?」
「は、はい。問題ないです」
……………何故かぎこちないのだが。疑問。
「アレク殿、ニーファ嬢に少しお願いがあってお呼びいたしました」
「「お願い?」」
お願いってなんだ?
まさか、この娘を買ってくださいとかじゃあないよね?
あ、やべ。フラグを折らな…………
「彼女を買ってもらいたいのです」
うぇーい!やったー!想像通りだね、チクショー!
買うってなんで?奴隷なんて買ってもさー……戦力的には十分なんですけど!?
規格外なドラゴン娘が此方には居ますし!!
「何故、買わねばならんのじゃ?」
ニーファは、目の前に販売対象が居るにも構わず問いただしている。
度胸あるよなぁ。
「いえ、彼女の職業…いや、加護が問題でして」
「夜天神か?」
「……………既にお知りになっていましたか」
あー………まぁ、王城の魔道具なら簡単に加護とかステータスを見れるか。
魔王城にも鑑定の玉とか言う魔道具が有ったし。
「夜天伸の加護に問題ですか?」
「はい、神話で上級神の一柱である夜天神の加護持ちを奴隷として扱うと、その、宗教的な意味合いもあって色々と大変でして………」
「あー……宗教はめんどくさいですねぇ…」
この世界の主要な宗教は主に二つ。
ソレイユ教とアンテラ教。
太陽と光の女神ソレイユを崇め、方や月と闇の女神アンテラを崇める二大宗教。
大昔はこの二大宗教同士の戦争が勃発し、大陸を巻き込んだ戦に発展したらしい。現在は世界都市の東と西に本部を置き、所謂監視状態でお互いを牽制しているらしい。まぁ、昔よりも関係は良好らしいが。
……ん?……アンテラ?どっかで聞いた気が…
いや、そんな事はどうでも良い。今はメリアの奴隷の件だ。
「で、俺達が彼女を買わなければいけない理由は?」
「……実は…」
「そこは我から話そうじゃないか」
ドンっと勢いよく扉を開けて現れたのはヘルアークの国王陛下。
「へ、陛下っ!?」
その場にいた騎士やメリアは跪き、俺とニーファはめんどくさいと訴えるような眼で彼に目を向ける。プニエルは先程から状況がわかっていないのか、プルプル震えているだけだ。冷たい。
「で、何故国王ともあろう方が此処に?」
「いや、説明が居ると思ってな。我から話そうと来た次第だ」
「いや、スタンバイしておったろ?気配を薄くまでして」
「ん?バレておったのか」
え?俺は気付かなかったけど。てか、そこまで気配に用心してなかったわ。今度から気をつけよう。てか、俺達の無礼は無視ですか?床に平伏している騎士達がプルプル震えてますよ?
反感買ったかな?
「まぁ良い。騎士諸君、楽にしたまえ。無礼講だ。此奴らに礼儀などは必要なかろうて」
王の言葉で渋々立ち上がる騎士達。
少し俺達の対応に納得していないようだが………気にしても意味が無いな。
奴隷のメリアちゃんは緊張でガチガチに固まってますね。
「まぁ、そこの少女……いや、巫女と言えば良いか、お主らの手の届く範囲に居れば問題ないのでは無いかの、と思った次第だ…………お主らも加護持ちであろう?」
「「サッ」」
「………二人して目を晒すな」
「何故知っているのか、尋も……質問しても宜しいですか?」
「耳に入れてはいけない単語が聞こえた気がするが……まぁ良い、この城に出入りする際に通る門があるであろう?その門自体が巨大な鑑定魔道具でな。入城してきた者、退城した者を簡単に把握できるのだ。そこでお主らの加護を知ったわけだ」
「そ、そのようなものが……」
あれ、近衛騎士でも知らない新事実。
「まぁ、鑑定の事を知り得るのは王族と五大臣、近衛騎士のトップ二人、そして鑑定結果を確認する部署の者のみだからな。それに一応諸君らのことは箝口令を出しておるから、広がる恐れはあるまい。あ、お主らも黙っておれよ?」
「は、はい!」
場に居合わせた騎士にも箝口令を軽くし、俺は説明を促す。
「そこで、同じ加護持ちの二人に少女の買取を頼みたいのだ」
「奴隷解放は無理なのか?」
「無理じゃ。如何なる手段を使ったのかわからんが、術式が異常でな。手が出せん。まぁ、実害は無いと結論を宮廷魔術師が出したから、問題は無いだろう」
「………どうする?アレクが決めて良いぞ」
「ニーファはどう思う?」
「いや、我はどちらでも構わんぞ」
二人で目の前の少女、メリアを見る。
「……………君は俺に買われたい?それとも……」
「か、買ってください!お願い、します」
間を空けずに答えるメリア。
「………いくら?」
「お主らに引き取ってもらうようなものだ。金は取らんよ」
「ふーん。じゃあ、宜しくメリア」
「は、はい!」
奴隷少女……もとい、奴隷巫女のメリアが仲間になった。
場所は変わって俺らが借りている宿の一室にいる。俺は新たに一人分の追加料金を払ってメリアが住めるようにして、部屋に戻ってきた。
「よし。じゃあ取り敢えず自己紹介をしようか。俺はアレク。Bランク冒険者だ」
「ニーファと言う。アレクとは同業者じゃな。で、この金と白が入り混じったスライムがプニエルだ」
『ぷるぷる〜宜しくね〜』
「えっと、奴隷のメリアです!宜しくお願いします……えっと、旦那様と奥様?」
「「ぶっ」」
何言ってんのこの娘。吹いちゃったじゃ無い。
「違うぞ?断じて否だ。俺とコイツはそう言う関係じゃ無い」
「シュン……」
「……ん?ニーファどうした?」
「………何でもない。気にするな……」
「そ、そうか」
うん。顔が真っ赤だぞ。これは気の所為じゃないな。絶対。だがまだ俺は11歳。恋愛沙汰に巻き込まれるのは早いのだよ。だから俺は鈍感主人公を演じる。
「あはは…えっと、できることは少ないですけど、宜しくお願いします」
「あぁ。俺の呼び方は好きにして良いぞ」
「………では、御主人様?」
「えっ………いきなりレベル高くね?」
「えぇ?…じゃあ、主様?」
「あぁ……んー」
悩むねぇ。呼び方って一番困るよね。
御主人様って、自分よりも年上っぽい人に言われても何かね。
「妥協点ではないか?それで良かろう」
「えっ……あ、はい」
何故か発せられた無言の圧力に耐えきれませんでした。まぁ、『主様』でも問題ない、か。
「まぁ………これから宜しく」
「はい!」
肉うどん、美味しいよね(唐突)




