ヘルアーク武闘大会-決勝戦round2
あー。マイクテス、マイクテス。
本日の中継は、ヘルアーク武闘大会決勝戦に参加しております、『か弱い一般人』のアレクがお伝えいたします。
現在、リング上空にて目の前のニーファ選手の猛攻を必死に避けたり迎撃したりを繰り返して生き残っております。
そしてニーファ選手、私に向かって破壊光線を撃ってきやがりました!
お、おっと。口調が荒れてしまいましたね。
兎に角、避けないとヤバいんですが………無理っぽいですね、はい。
それでは皆様、これにて中継を終了させて頂きます。ありがとうございました!
「お主、さっきから何を語っとるのだ!?」
「新番組『3回目のおつかい』だけど?」
この謎宣言により、観客席に居た勇者Mと鉄剣Rの二人は、このように発言したらしい。
「「はじめて、じゃないの??」」
……………違います。3回目です。
「取り敢えず、さっさと敗北して俺が奢ってやった飯の数々……計86,000ロールを返せ!」
「嫌じゃ!たくさん持ってるんじゃから、良いじゃろぉ!!」
「駄目人間の発言じゃねぇか!!」
地味に泥仕合になりながらも武器を振り回す。
「よし…………前哨戦は終わりにしようか。本番にいくぞ………《獄紋刀・第一紋》」
俺は、言霊により、獄紋刀の第一の力を発動する。
瞬間。刀身の刻印が一つ紅く光り……刀から溢れ出る黒炎が途絶え、代わりに黒い煙が立ち上がる。
獄紋刀。俺の手で生み出した打刀だが……これを造る時に、後半は何故か別視点から見る様な感覚になり、気付いたら完成していた謎現象が起きた。この事はニーファにも話していないのだが、疲労かな?と思っていた。
………まるで、誰かに体を操られていた様な感覚ではあったが。
が、その謎現象中に俺は刀身に何故か五つの紋を刻んでいた。
疑問に思えば、その紋の意味と使い方が脳裏に浮かぶ。………何故か。
それでも、使えるからと五つの紋を順に使用したのだが、今の俺に扱えたのは第二紋まで。
何かよくわからないが、あの時の俺は何故、まぁいいかと放置したのだろうか?今になって思えば謎だ。謎すぎる。
ま、まぁ取り敢えず。
刀身から立ち上る黒煙を横目に獄紋刀を構える。
「………行くぞ?」
挑発的に微笑んで、刀を上げ、振り下ろす。
本来なら、刀が届かぬであろう距離。
しかし、刀身の黒煙が集束し、一つの大剣を作り、伸びて物凄い速度でニーファに斬りかかる。
「……っ!!」
危機一髪。残念ながら切られてしまった髪の毛先が飛び散る。
だが、それだけでは無かった。
伸びた黒煙の刀身がニーファの後方に広がる結界を、文字通り斬り裂き……その衝撃が広がって木っ端微塵にする。
鉄剣に続いて二人目の結界切断者。そして破壊。
もう見る事は無いと思っていた観客も審判も司会も、目と口を大きく開いてしまう。
だが、その壊れた結界が一瞬で修復される。
いや、修復されたのではない。張り直された。
銀竜姫ニーファ、改め神竜二ールファリスの手によって。
「《神竜絶縁結界》」
古代竜の中でも最高峰の大結界。
先程までの結界よりも性能、強度は遥か上。
「……初っ端からやるのぉ」
「……ヤベェ結界張りやがって」
つまり。ニーファが造った結界という事は、このリングは彼女のフィールドとなる。
丁度良く来た魔法を反射するだけでなく、足場を生み出したり、形を自在に変えたり……結界の常識を超えたことができるのが、ニーファの結界。
味方の時は頼もしいが、敵になると厄介な技。
「今度はこっちから行くぞ……」
ニーファの言葉に、より一層警戒を強める。
「ふぅ……《天の叫》っ!!!」
彼女は空に向かって咆哮し……俺らが戦う空よりも遥か高くに……巨大な魔法陣を形成する。
神々しくも恐ろしい魔法陣が光り、無数の白槍が降り注ぐ。
一つ一つがランクSの白槍達。
それが、結界内に絶え間なく隙間なく降り注ぐ。
俺は黒煙を操って白槍の位置をずらし、命を落とす覚悟を持って避け続ける。
当たれば即死。
既に地面は槍で串刺しになり、歪な白一面。
止むことのない槍の雨の中、俺は魔法を行使する。アイツが態々降らしてくれた槍を利用する。
「《白槍掌握》《念力操作》」
地面に突き刺さる槍を魔力で支配下に置き、地から抜き、空にーーーニーファに向ける。
「行け……敵を串刺しにしろ!」
俺の合図と共に上空に飛ぶ千を超える白槍。
「クッ……利用するとわ……っ!!」
ニーファは空の魔法陣からの白槍供給をやめない。永遠にも降り続ける槍の雨。
それが突き上げられた白槍と迎え撃ち、中空でぶつかり合う。
その槍に隠れて俺は移動する。
…………トドメを刺すために。
同じ事を考えたのか、ニーファも移動して、軈て槍の雨によって見失う。
そして、地面の槍の在庫が無くなり、上空からの雨霰は止まらずに降り続ける。
「《黒煙隠霧》」
獄紋刀から溢れ出る黒煙を操り、リング内を覆う様に広がる。視界を閉ざす為に。
そして、刀の切っ先を前方に向けて決着の伏線としての技を繰り出す。
「《波動之砲》」
青いエネルギーが切っ先に集まりだす。徐々に球体を形成し、高密度なエネルギーの弾となる。
「《神滅殺龍皇砲》」
ニーファは初対面時に使った光線の上位互換を使うらしい。
威力は知らんが。てか長くね?
雑念を抱いた瞬間、魔力がチャージし終わり、波動砲を、ニーファも同じタイミングで、撃ち出す。
衝撃波で黒煙は晴れ、天空の魔法陣が壊れかけ、周りの槍は爆散する。
そして拮抗。俺は魔力充填を続ける。押し負けぬ様に。
そして、また別に魔力を循環させ、練り上げる。
目の前の光線で膨大な環境魔力が暴走する為、敵が別の魔法を唱える事に双方気付けない。
が、俺はギリギリ押し負ける、というところで勝利の一手を掴む。
「っ………よし!《星淵魔砲》っ!」
二つの目の砲を発動する。
俺達の拮抗状態が続く、その上空で。
「なっ!!自滅覚悟か!?」
「それぐれぇしないと勝てんだろぉ!」
驚愕するニーファと共に俺が持つ魔法の中でもヤバイ威力のエネルギーが……リングを飲み込んだ。
……………静寂。
観客達の多くは気絶し、何とか目を覚ませば極太の光線が天から落とされた瞬間。
誰もが息を呑み、顔を青くする。
光線の力が切れ、結界に阻まれて空高く立ち上る土煙を観客は見遣る。
そして、煙が少し晴れ、見つけたのは……地面に傷だらけで立つ、二人の少年少女だった。
いや、それだけじゃなく。
少女……ニーファが少年の胴体の真横に天罪紫刀を浮かせて。少年……アレクがニーファの首元に獄紋刀を当てていて。
「………頭にくるのぉ……降参じゃ」
「やった勝った」
ニーファが負けを認め、アレクの勝利が決定したのだった。
………うおおおおおおおおおおお!!!
少し間が開きながらも、会場の熱は伝染し、大歓声を、今までよりも大きな大歓声を響かせるのだった。




