ヘルアーク武闘大会-決勝戦前夜
俺とニーファ双方の試合も順調に勝利の道を歩み、遂に決勝戦に出場する事が決まった。
齢11歳の少年魔族と年齢不明の少女竜人が争うという異例の決戦。
そんな試合明日迎えるという事で、俺達二人はいつも以上にピリピリしている……訳でも無く、宿で一緒に寝転んでいる。
既に八時を過ぎており、明日の九時までに闘技場に向かえばいいので早く寝るつもり……なのだが、俺達は目を瞑る事も無く、ただボーッと呆けている。二つの離れたベッドの上に寝転んで。
「…………明日かぁ」
「……明日じゃのぉ」
『すぴー……すぴー……』
プニエルの無意識な念話による寝息が静寂な空間を通り抜け、一種の膠着状態にリズムを刻む。
「………………勝てっかなぁ」
「……………どう潰すかのぉ」
互いに明日の敵が共に居ると言うのに、二人はなんの気も無しに作戦を練る。
それがこの場に居づらいからなのか、気晴らしでやってるのか、二人には理解できなかった。
「……おいお主」
「!………なんだぁ、って」
突然、ニーファが喋りかけてきたので少しビクつきながら振り返り、そして驚き、赤面した。
すると、先程まで隣のベッドに居たニーファが音も無く此方のベッドに乗っていた。
しかも、振り向いた俺の顔の至近距離で。
「……なんじゃ、顔が赤くなっとるぞ?」
「っ……な、なんでもねぇ……で、どうした?」
直ぐに前を向いて、わざと話を遮る様に続きを話す様に促す。流石に至近距離はヤバい。相手はあの駄竜だが、流石にダメだと思う。
「なに……明日は負けん、と言おうとしただけじゃよ」
「……………へっ」
俺は思わず笑ってしまう。時間が時間なので、近所迷惑を考えて口元を押さえ、必死に笑い声を押さえ込む。
「な、なんじゃ?何が可笑しい」
「いwwやww…俺に勝てる自信が満々で……なwにwがww明日は負けんだよwwそこは御都合主義で俺が勝つに決まってんだろwwww」
「御都合主義って何じゃ!!そんな物へし折ってくれるわ!」
少しお怒りのニーファを一応宥める。明日の試合で鬱憤を晴らされたら、俺は兎も角、会場どころか王都が消滅するかもしれん。
………積年の怨を晴らされてもおかしくない事したしなぁ。
「ま、観客共の度肝を抜いて、好き勝手に暴れまくれば良いんだろ?なぁ?」
「……それが我等らしい、か」
適当に語ってみたら、何か共感を得た。
………まぁ、明日は楽しい決勝になるでしょう。




