ヘルアーク武闘大会-VS勇者round2
武術大会を武闘大会に変更
切られた天敗釘打棒の代わりに新たな武器を手品のように手から出す。
それは音符のト音記号の形をした物。
美しい翡翠色の光沢を持つもので、分類としては杖に当たる武器だ。
音のトレブルクレフ:魔王の兄が作った杖。様々な音を収束、反響させて相手を混乱状態、鼓膜を破って倒すなどの攻撃が可能な音響兵器。分類では杖だが、本当に杖なのだろうか?ランク-B。
素材はウラバラの森の大洞窟を掘削掘削掘削しまくってたら一軒家程の大きさを持つ翡翠石を発見して加工。一部分をこの音響兵器の一部に組み立てた。何故か、音響兵器という響きが気に入って作業に没頭していたら気付いていたら完成したいたのがこの杖のような何か。不思議だ。
「また、不思議な武器を出しますね……」
「ト音記号型の武器だぞ?音楽好きには堪らん武器だぞ」
「素直に喜べませんよ……」
「まぁ、これだけじゃないけど」
「っ!?」
言葉と共に俺が片手から出現させたのはパーティ専用を思わせるカラフルなバズーカ。
虹の砲:魔王の兄が造った悪戯兵器。火水風土光闇無の七属性のどれかをランダムに発射する。材質は超硬ダンボールなのは内緒。ランク-C。
超硬質のダンボールを使って作成し、強化魔法で上でジャンプしても潰れない強度を誇る。中には七属性の魔核があり、魔核のエネルギーを凝縮したエネルギー弾を発射し、それぞれが様々な効果を発揮し、連射すれば相乗効果も発揮する。
俺は右手にト音記号を、左手にバズーカを背負って勇者に黒い笑みを浮かべる。
「本当に変な武器ですねっ…!」
「ハッハッハッ!まぁ、兎も角、行くぞ」
宣言通りト音記号を盾にして突撃。バズーカを二発連射。
赤と緑……火と風のエネルギー弾。
勇者の目の前に業火が咲き乱れ、暴風がそれを巻き上げ……即席の《火災旋風》が完成した。
勇者諸共を巻き込み、火炎が身を焦がし、剣風が切傷を付ける……のだが、勇者はそれを新たな聖剣で身を守る。
「クッ……《聖刻の天盾》っ!!」
「おい!盾じゃん!剣じゃないやん!」
名前詐欺かよ!何が《聖剣錬成》だよ!!
勇者の身を守るように現れた半球体の白盾が彼を火災旋風から救う。
「厄介だな……」
ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!
バズーカを連射して盾を壊そうとする。
青の水属性の大激流が。
黄の土属性の大地隆起が。
黒の闇属性の金属腐食が。
白の光属性の閃光が。
透明な無属性の虚無が。
聖なる盾を、嵐ごと消し去ろうと襲う。
さらに盾で身を守るしかない勇者に近づき、トレブルクレフを発動する。
キイィィィィィッン!!!
「ガァァッ!!」
中から勇者の悲鳴が。外側から内側に浸透し、近くで居るだけでも耳を防ぐのも無駄な音波が会場を振動させる。
そして連射連射連射連射連射連射連射連射連射。
四方八方を飛び回りながら盾を壊す。
聖なる盾を蝕み続ける。
徐々にヒビが入り、勇者の姿が見えてしまう。
(ーーーー今ぁ!!)
空いた穴に向けて、俺はバズーカの銃口を突きつける。
打ち出したのは無属性の虚質崩壊。
全てをゼロに還す、無属性魔法の中でも上位に位置する力が。
天盾を。勇者を。大地を。
消滅させようとするーーーーーーーーが、彼は寸前の所で能力を解除して盾を消滅。必死に破壊から逃れる。
「はぁ!!」
その勢いで俺に日本の聖剣を浮遊させたまま、発射するかの如く撃ち出す。
「クッ……そいやっさ!」
トレブルクレフをいい加減に振り回して勇者を薙ぎ払おうとする、が難なく避けた勇者は聖剣を振るう。
袈裟斬り、逆袈裟切り、左薙ぎ逆、右の切り上げ、唐竹、切り上げ、 袈裟斬り、右薙ぎと、俺と武器を一刀のもと斬る為に振るい続ける。
パキイィィィィンッ!!
「!?」
トレブルクレフを勇者の耳元で態と折り、甲高い耳鳴りを引き起こす音波を出してその場に落ちる。
勇者は耳元で鳴り響いた狂音で少し悶えるが……
「終わりだ!!」
俺はその隙を見逃さずに虹の砲を右手に構え、彼に銃口を向ける。
ドン!
撃たれて飛び出ようとする闇が、光の彼を蝕まんと襲い掛かる……はずだった。
彼は身を捻ってそれを避け、バズーカの銃口に聖剣を突き刺した。
瞬間、バズーカから出損ねた闇が暴発。超硬質のダンボールでも耐え切れず、俺を巻き込んで。
「ッチ!」
俺は右手を犠牲にしたまま、彼の顔に触れようと左手を伸ばして、
我が言霊魔法を発動する。
「《操作不能》」
皆様はゲームで体験した事は無いだろうか?
コントローラを操作して、足を右に動かそうとしたら左に動いてしまう、などのやろうとした行動の逆や別の事を行ってしまうアレ。
この魔法はソレを現実に引き起こす。
「え!?………な!?」
彼は戸惑い、沈黙する。
恐らく聖剣を振るおうとしたのだろうが、彼は聖剣を腰に収めてしまった。
頭に無数のクエスチョンマークを浮かべる勇者に向かって足を進める。
「この魔法の効果内では行動に気をつけたほうが良い……死ぬぞ?」
魔法効果内に入ってる筈の俺は何の障害もなく、迷い無く足を進める。
既にこの魔法による対策は練っており、訓練を1日漬けで頑張った記憶が懐かしい。
そして俺は父からの誕生日プレゼントであるミスリルの短剣を彼の首筋に当てて。
「………………降参です」
残念そうに。悔しそうに。彼は負けを認めた。
「しょ、勝者!アレクっ!!!」
オオオオオオオオオオォォォォォォォ!!!!
観客の歓声が舞台に響き渡る。
俺は魔法を解除して勇者から一歩離れる。
「くっ……すまない、ソフィア……」
「みっともねぇ顔してんなぁ!」
ケラケラと笑う俺を少し睨む勇者。
「まぁ、目当ては霊薬なんだろ?」
「っ!?………何故、それを?」
「勘」
「勘、ですか……」
俺は今にも泣きそうな顔の勇者に優しく、語りかける。
「仕方ない。もし優勝したら霊薬をくれてやる」
「…えっ!?……何故そんな事を……」
「仕方なく、だ。それに………」
俺は勇者に向けて笑い、
「目覚めが悪いからな」
気分的な問題で当たり前の事を言いのける。
「………フッ、フフ」
「何がおかしいんだ?勇者」
「……勇者じゃありません」
「はぁ?」
何故か手を差し伸べられ、困惑する俺と吹っ切れたように笑う勇者。
何だよ?勇者辞めんのか?
「勇者、では無く、マサキと呼んでください…アレクさん」
「…………検討しておく」
名前呼びを強要かよ。
俺は、勇者……マサキの手を取って、二人で軽く笑うのだった。




