ヘルアーク武闘大会-VS勇者round1
「初めして、アレクさん。知ってるかもしれませんが、マサキと申します」
「わざわざ丁寧に挨拶しなくても良いのに………ま、よろしく」
律儀に、丁寧に挨拶をしてくる勇者君。こんな事するから好感度が上がるんだよ!
「そう言えば、勇者君は何で大会に?」
「…………………それは秘密です」
まぁ、会ったばかりの奴に言えないわな。
推測は簡単やけど。
噂で勇者の仲間の一人が腕を失ったから、それを治す霊薬を求めて大会に参加するっていう、何処から流れたのかわからない噂。
…………事実だとは思うが。
現に、先程の人外連中と話していた間に透視で観客席全体を盗み見して可愛いk……じゃなくて面白そうな物を探していたら、勇者パーティが談笑している姿を見てしまった。
その内の一人……水色の髪の美少女の左腕部分の服が垂れていた。
恐らく、彼女の事だろう。
流石イケメン。仲間を助ける為には必死になるだろうね。俺には考えられな……くもない行動だね!
「ま、俺はお前より若いけどお互い頑張ろっか」
「はい……身長と喋り方は大人びてますけどね」
ま、この冒険中に身長が160に到達したからな。魔族ならではの急成長だ。
実は俺もビックリしたよ。前世の平均身長がそのまま来ると思ったら、11歳で伸びたよ。
「こぉれより!勇者マサキ様VS死神アレクの試合開始を宣言しまぁす!!」
会場は盛り上がり。
「…3……2……1……試合開始っ!!」
司会が開始を宣言して。
キイィィィィン!
同時に甲高い金属音が鳴り響く。
勇者の手には眩いほどの輝きを持ち悪を薙ぎ払う浄化の純白の剣ーーーーー聖剣が。
俺の手には素朴な色合いをした棒に無数の釘が刺さった鬼の武器ーーーーー釘バットが。
「釘バットっ!?」
「只の釘バットじゃねぇ!俺が真心込めて一本一本宮廷魔術師五人分の魔力を込めた特注品!本体の木はエルダートレントの高級木を使用!正直言って勿体けど作ってみたかったから作ったシリーズの一つ!その名も『天敗釘打棒』っ!」
「説明長いし、何か物騒な名前っ!?」
「名の由来は天に敗けた者達の武器だからだ!」
天敗釘打棒:魔王の兄が造った高級品と技術の無駄遣いを集結させた武器。天に見過ごされた悲しき民衆達がリアルに充実している彼等の泣き叫ぶ姿を見るまで血華を咲かせ続ける。ランク-B。
なんか魔王城出る前に造って鑑定してみたら表示されて草。あと何でか相棒の魔神杖カドケウスは鑑定できなかったぜ。解せぬ。
「さぁ!世の非リアの恨みを思い知れ!ハーレム勇者っ!」
「良い事言ったぞ死神ー!」「やれやれー!」「俺達の怨を晴らしてくれー!」「リア充爆発しろぉ!!」「あんたら恥ってのは無いのかい!」
「「「「リア充倒す為なら恥なんていらねぇ!」」」」
「ほら。皆んなが俺を応援してくれてる。ドンマイ」
「………なんか切なくなってきましたよ…」
うん。俺もこんなになるとは思わなかったよ。
世の非リアは怖いな。
「でも………勝たせてもらいます。そんなふざけた武器で……」
バコォン!ピキピキ………
「「「「「「「……………………」」」」」」」
俺は何となく怒りを込めた風に地面にバットを叩き込んでリング全体にヒビを入れてみる。
うお、予想外にバットが強いかも。
「何ガ、フザケタ武器ダッテ?」
「いえ。何も言ってないです。気にしないでください」
「嘘嘘。冗談だから安心しろって、ってな!」
俺は話しながらバットを振り回す。
「クッ!」
勇者は危なげなくそれを避け、聖剣で俺を斬ろうと斬りかかる。
打棒と聖剣がぶつかり合い、斬り合い、叩き合う………どちらも、ヒビも付かずに、壊れずに。
とうとう、長い斬り合いと叩き合いに飽きた俺は、このバットのグリップエンドにある不自然な魔力紋をなぞり、
「……掃射」
「っ!?」
言葉と共に刺さった釘が怪しい紫色に光って弾丸の様に飛び出し、勇者の首を狙う。
器用に聖剣でいなし、交わし、避けて、飛び回る釘と対峙しながら聖剣を光らせ、ワザと土煙を上げながら俺の目を潰そうとしている勇者。
俺は、自分の魔力が浸透した針達を無属性魔法の《念力操作》で動かし続ける。
やがて全ての釘を払った勇者も、息がキレキレ。しかし、その顔は一仕事終わったかの様で。
「おいおい、釘の攻撃が終わったと思ってんのか?」
そう言いながら俺は地面に突き刺さった無数の釘を四方八方、勇者を囲う様に動かす。
「いいえ……既に僕の勝ちが決まりましたので」
「…………………は?」
ズシャッ!!
「ガッ……!?」
腰に衝撃が走り、俺の体が離れる様な感覚。
周囲に浮かせていた釘も、集中が途切れて落としてしまう。それほどの、痛み。
見れば、純白の大剣が俺と天敗釘打棒を真っ二つに切り裂いていて。
これはーーー砂埃に潜めて………
「《聖刻の大天》。先程の攻防で創らせてもらいました」
「……!?ま、まさか、聖剣を創る能力……?」
紅い血をダラダラと流し続け、息も微かになりながら彼の能力に気づく俺。
「はい。僕の勇者スキル、《聖剣錬成》で」
「うわぁ……」
負けた。結界内だから死ななくて済むけど、これは外で殺りあったらヤバイな。
「どうします?試合続行しますか?貴方は降参した方が身の為だと思いますが」
「…………ク、クハ、クッ、クク」
「……?何が可笑しいんですか?」
「フハハ…ハーッハッハッハッ!」
俺は途切れ途切れの三段笑いをして、消える。
「!?」
勇者も、観客も、消えた俺を探す為に視線を巡らす。
「いやー?…何が『僕の勝ちが決まりました』だよ。アホか?そんな簡単に勝敗が着いたら観客達もツマラナイだろうに」
「なっ!?」
俺は、勇者の遥か後方……結界の端っこに陣取っていた。
勇者は見た。あり得ない者を見る様に。
観客は見た。顎が外れんばかりに驚いて。
神竜も見た。二度見して呆れた。
鉄剣も見た。凝視して飲み物を吹いた。
魔王は見た。あぁ、流石我が息子。
俺が、死神なんて不名誉な名前で呼ばれるアレクが洋風のチェアに腰掛け、紅茶を啜る無傷の姿を。
「どういうことですか……!?」
「え?お前が釘と戯れてる間に嫌な気がしたんで実態のある幻影を設置してスタコラサッサと」
「げ、幻影、ですか?」
「うん。俺が戦闘時によくやる方法。実際に触れるし、血も出るし。あ、主に保身の為と、敵が無様に踊る姿を見て笑い転げる為にやってる」
「クッ……騙された、ということですか!」
勇者は少し憤りながらも、俺の方向に聖剣を向け、左右に先程と同じ大聖剣を二本浮かべる。
「騙した?何を人聞きの悪い事を言ってるんだ?お前はこの世界で何を学んだんだ?」
「!?」
勇者は驚いた様な顔で此方を凝視する。
そして俺は、演劇風に語り出す。
俺はティーカップをマジックの様に異空間に消して、チェアを蹴り飛ばして仁王立ちし。
「魔法のあるトンデモ世界での戦いに………卑怯も何も無いと俺は断言する!」
俺は前から心の底で思っていた事を叫ぶ。
「いや、それは無理があるじゃろ」
「うんうん」
どっかから人外レベル二人から非難の声が聞こえた気がする。後で捌こう。
「そう、ですか……………じゃあ、次で決めさせてもらいますよ!」
「やれるもんならやってみな!」
俺と勇者は頰を歪ませながら睨み合い、
またぶつかり合う。
死神(断じて否)VS勇者(優良物件)の、
第2ラウンドが始まった。
天敗釘打棒が切られたのが地味にショックなのは内緒だ。
世の非リアは恐いですよー。
主にリア充な幸せな方々に祝砲(意味深)を打ち上げてくれるのだから。
まぁ、アレク君も大概ですけど。




