ヘルアーク武闘大会-神竜と鉄剣
武術大会を武闘大会に変更
技名を少し弄りました。
ルビ振ったり、《》付けたり。
最初に動いたのはどちらだったのだろうか。
試合が始まった瞬間に、リングに立つ人影が消えて物凄い爆煙と破壊音を立ててリング中央にクレーターができたのが、見えただけ。
戦う二人を観客達も参戦者も。誰も最初は二人を見ることができなかった。
やっと見つけることが出来たのは、彼らが足を止めた瞬間だった。その姿には塵一つ、傷すらつかずにその場に立っている。
二人は好戦的な笑みを浮かべながら、動かずに睨み合っている。
「ふっ……!」
「……」
次に動いたのはニーファ。金色の魔力を右拳に込めてザッと足を踏み込み、リョーマにただ愚直に一直線に突撃する。
しかし、リョーマは跳躍してその場を離れる。彼が居た所には…新たなクレーターと微笑む竜人が佇む。リョーマは空中で鉄剣を構え、斬り下げる。その刀身はニーファを両断しようとし、質量を持った剣の圧………剣気が彼女を襲う。
ニーファは難なく離脱するが、彼女が居た場所から背後の結界が、鉄剣の剣気により……
両断された。
「「「「「「……………は?」」」」」」
観戦者も参戦者も。誰も理解出来なかった。
「は、ちょ、え?……あ、あの結界って古代期のアーティファクトで、魔術師ギルドの叡智が集まって作られたトンデモ品じゃ……」
司会が闘技場全員の心の声を代弁する。
「あ、あり得ん……あ、あの結界は…」
その場に居た魔術師ギルドのギルド長も悲鳴を上げる。
そう、リング全体を覆う結界は、古代の遺物であり、魔術師ギルドが総力を挙げて二重の結界を張っている。
が、彼はただ、鉄剣を振るっただけで切り裂いた。普通ならあり得ない話だろう。
しかし、それをやるのがこの男。
Sランク冒険者最強の男。『鉄剣』のリョーマ。
彼の覇道を阻める者は誰もいない…………が、それを目の前で受けたニーファは、流石に驚いたが、誰よりも早く態勢を整えて鉤爪状に魔力を固めて彼に振り下ろす。
だがリョーマはそれを鉄剣で受け止めながら、叫ぶ。
「やっぱり、強いのと殺り合うのは楽しいが……好きにはなれねぇなっ!」
「どの口が言いよるっ!」
鈍い鉄色の剣線が。
輝く金色の魔力が。
ぶつかり、跳ね除け、斬り合い。
リングを。闘技場を。王都全体をーーーーーー
揺らす。
爆煙が。爆音が。破壊が。終末が。
崩れる結界とリングから始まる世界の終わりを体感するようだった。
でも、何故か。
それを間近に体感するニーファは……ただ普通に。いつものように。退屈そうな顔をしていた。
「……どうした?」
リョーマも、ニーファの変わり具合に疑問を持ったのか、話しかける、が。
「なーに。よくある前哨戦はそろそろ止めようと思ってな」
「前哨戦……?よくある、だと?」
挑発的に語るニーファは、いつも見る、悪戯餓鬼のような笑みで。
「我にチョッカイ掛けてた昔の人間共は……これぐらい普通にやっとったぞ?その程度で顎が外れる奴等の見物になるのは気に食わん。故に……このどうしようもなくツマラナイ遊びを終わらせて貰うぞ?現代では最強の人間」
語ると共にニーファから放射される無数の熱線。本来なら、当たっただけで死を迎える程の熱量を持ち、大地を焦がし、溶かす力に
「ふん……言ってくれるな」
リョーマは鉄剣を振るいながら突撃する。
何も恐れず。自分の生命力を。攻撃力を。防御力を信じて。ただ愚直に飛ぶ。
「「終わりにしよう」」
二人が偶然にも同じ言葉を発して。
「……《神竜の息吹》」
「……《混沌の断罪》」
自らの持つ普段の半分の力で。
口を中心に作られ、回転する銀と金の魔方陣が。
黒いオーラを纏い、穢れと神秘を背負う鉄剣が。
両者を仕留めようと。
神竜の代名詞たる破壊光線が。
転生する為に神を倒した力が。
闘技場の、全てを破壊しようと。
相手を。リングを。結界を。観客席を。
「キャァァァァァッ!?」「逃げろ!逃げろ!」「う、うわぁー!?」「な、なんなんだよぉ!」
観客席の連中の煩い悲鳴が耳をつんざく。
しかし。力の奔流は観客達を恐慌状態にしただけで。物理的な害を与えずに。
本戦最初の、決勝戦と思えるような戦いが。
終わった。
煙が晴れ、両者ともに立つ姿は、どこか誇らしく、美しく、見惚れてしまう。
リョーマは鉄剣を、ニーファの頭の横に置くように。
ニーファは竜鱗剣をリョーマの首元にスレスレに当て掛けて。
そして。あの最強の男リョーマが。
「…………降参だ」
自らの敗北を認めた。
おおおおおおオォォォォッ!?
観戦者も参戦者も。先程の状態と打って変わって。会場の熱に飲まれ歓声を上げてしまった。
「しょ、勝者、『銀竜姫』ニーファっ!!」
こうして。本戦最初の試合は、次の出場者達に大きなプレッシャーを与えたまま、幕を下ろした。




