ヘルアーク武闘大会-本戦開始
誤字報告してくれた人ありがとうございました!
武術大会を武闘大会に変更
予選を勝ち抜き、本戦出場権を獲得した俺達は今、出場者控室で順番待ちをしている。
プニエルはニーファの腕の中で他の出場者を興味深げに眺めている。プルプル。
本戦は三日間に分けて行われ、初日である今日は二十五人の出場者の内、二十三人が組み合わせが発表される為ここにいる。
居ない二人は、前大会優勝者のSランク冒険者『鉄剣』のリョーマと、ヘルアーク王国の第一王子で特別枠参加のミラノ=ルーベル=ヘルアーク。
『鉄剣』のリョーマは、Sランク冒険者最強の座に着く人類最強の男。そこらに売ってる革鎧と異名の代名詞である鉄剣一つで、天災級の魔獣をも一撃で仕留める実力者。簡単に言うと、人間を卒業しちゃってる強すぎるヤバイ人。あと、黒髪黒目で鉄剣に刻まれた文字が地球っぽさを醸し出してる。ヤバイ。あの可能性がありそう。
ミラノ王子はある女神の寵愛を授かった寵児と公表されており、家族にも民にも力と性格を認められている理想の王子。本戦出場者として恥じぬ実力者らしい。俺も王子だけど、まったくもって逆の存在だと思う。
まぁ、本戦を勝ち上がればぶつかる可能性は高くなるのだが。
できれば戦いたくないよぉ〜。僕みたいな非力な男児は健全な道を歩みたいなぁー!
「お主の何処が非力なのか教えて欲しいのだが?」
「心読むの止めてくんない?」
まったく。失礼な!プンプン!まぁ、自覚症状あるし?言ってみただけだし?ズーン。
控室の片隅で存在(人はそれを影という)を薄くしながらコソコソ作業していたら、毎度ハイテンションの司会さんが壇上に立つ。
「みぃ〜なぁ様!おぉまたぁせいたしぃました!これより、本戦の組み合わせを発表させていただきまぁす!」
そして、壁に吊るされている白い大布がバサッと剥ぎ取られ……トーナメント表が現れる。
(残念ながら作者の都合上&技術力の問題で、トーナメント表の作成を断念致しました。なので、挿絵としてお見せできません。大変申し訳ございません。我が語学力で堪能してください)
ふむ………ほっ、決勝まではニーファと当たらないな。よし。
トーナメント表を見る限り、俺が最初に戦うのは、勇者マサキ君か別の人……ぶっちゃけ興味ない人……らしい。まぁ俺より多く試合をする勇者君が勝ち上がるだろうけど。
「………ふふっ、お主と殺り合うのはお楽しみと言ったところか」
「えー。お前、一番最初にあの鉄剣様と殺りあうんでしょ?俺と戦う前に負けそうじゃん。なのに俺と殺り合うの?馬鹿なの?死ぬの?」
そう。この駄竜ちゃん、前大会優勝者と本戦最初に戦うんだぜ?ヤバくね?
「ふん……我が敗北するとも?」
「うんうん」
「…………本当に頭くるな。お主」
睨んでくるニーファを軽く横目に流し、観戦者達の歓声を聴きながら俺は、
「ま、かの伝説の竜と有名な剣。どっちが勝つかは俺にはわからんが………まぁ、なんとかなんだろ?」
ニヤニヤとしながら挑発的に問う。
「………お主は素直じゃないな。普通に勝てと言えば良いのに」
「あ、あらぬ誤解を受けている…だと」
いつも通り駄弁りながら、俺は試合に出場する為にリングに向かうニーファの背に視線を送る。
「ま、暴れて来いや」
「…望むところよ。お主の情けない顔を拝む為にも勝ってくるわっ!」
本戦第1試合は、『銀竜姫』ニーファと『鉄剣』リョーマの戦いで幕を開ける。
◆神竜二ールファリス/銀竜姫ニーファ
彼奴に張り切って啖呵を切って控室を出た我は、そのまま、リングに向かって足を進める。
「あ!ニーファ様ですよね!?」
「む…………そうだが?」
「はぁはぁ、ちょ、ちょっと待ってください…」
息を切らしながら話しかけてる、恐らく大会関係者の若い女。
ふむ………なんじゃこいつ。これが所謂ナイスバディと言うやつか。うらや…けしからん。
「わ、私、本戦出場者の方々をお呼び出し、リングまで案内する係の一人でございます。なので、リングまでご案内しても宜しいでしょうか?」
見た目が子供の我に畏怖の目を向ける案内人。
……まぁ、予選であんなに暴れたからの……そりゃ恐怖するのも目に見えていた。
「うむ。ではよろしく頼むぞ!」
なるべく笑顔を作って案内人を促す。
…………上手く笑顔を作れているだろうか?
「……は、はい!では、私につ、ついて、いてきてください!」
少し頰を赤く染めながら我の前を行く案内人。
………何か恥ずかしい事でもあったのだろうか?
「〜〜〜〜!?(なになに!?あの、可愛い笑顔!?凄い可愛い!萌え死にそうっ!)」
案内人の心中を我は一生知らなかった。
まぁ、知らぬ方が良いのだろうが。
案内人と別れ、リングに上がる。
瞬間、闘技場全体を揺るがす様な歓声がこの身を揺らす。
「……よろしく頼むぞ?正体隠した……竜人娘って呼べばいいか?」
会って早々、こちらに疑問を投げかけてくる前大会優勝者にして人類史上最強の冒険者、『鉄剣』のリョーマ。
「ふん……魔眼持ちか。好きに呼べ」
「おう、わかった。……まったく、驚いたんだぞ?予選を見てたらヤバイのがいんだもんな」
魔眼。魔力を多く持つ者の中でも、稀に保有する特殊な眼。それは様々な効果を発揮する。
そして、此奴の眼は……
「いて悪かったの……識別眼か?」
「正解正解。話しながら俺の能力の一部を炙り出すの辞めてくんないか?」
「いや、その眼はオマケにすぎんだろう?」
「……まったく。これだから伝説を相手にすんのはやなんだよ……」
識別眼。視界内に写ったものを解析、鑑定し教えてくれる便利魔眼の一つ。
そして、リョーマの装備は、布の服に市販の安い革鎧に何の変哲も無い鉄の大剣、ただそれだけ。
だが、刀身に刻まれた楔形文字が、ただの鉄剣ではないという風格を感じさせる。
そう、楔形文字。
この世界に、楔形文字という古代文字は、無い。
つまりこの男は、アレクや若い勇者と同じ異世界人の類い、と考えて良いだろう。
まぁ、我の主観と憶測だが。
「まぁ……我があの馬鹿に鬱憤をぶつける為に胸を貸してくれると嬉しいのだがな」
「そいつは無理だが……そいつはあの死神君か?ま、お互い実力の半分程度で戦おうか?」
「……名案、じゃな」
我と此奴が全力本気で殺し合ったら、この王都が滅びるだろう。
当然、多くの人が死ぬ。
奴と過ごす中で、我の感性も少し変わってしまった……らしい。
今までは減っても良い虫螻の一つと考えていたニンゲン共を、殺すのが惜しい、と考えるまで堕ちてしまった。
まぁ………それも、成長と言うのだろうか?
取り敢えず、我は此奴を倒す。
真の姿で無く、このニンゲンの姿で。
「それでは第1試合、銀竜姫ニーファと鉄剣リョーマ様の戦いを開始カウントダウンします!」
司会が高らかに声を上げ。
「………3………2………1…試合開始です!」
記念すべき最初の戦の火蓋が落とされた。




