幕間:勇者天来
予選が終わったので丁度いいタイミングかな?
勇者のマサキ君が召喚された時の話です。
キイィィィィっ!
すぐ真横に迫るトラックが。
僕に思考する暇させ与えずに死を迎えさせる。
本来なら、僕はそこで死ぬはずだった。
………死ぬはずだった。
◆聖女ソフィア
「〜〜〜〜〜〜〜〜にて、勇者天来の儀を終わりとする…」
長く紡がれた詠唱はやっと終わりを見せた。
勇者を異界から呼び出す奇跡、『勇者天来』。
成功確率は低く、神々の手助けなしでは失敗していただろう。
儀式を始める一ヶ月前。
太陽神ソレイユにより、後に世界に悲劇が起こるとの天啓がありました。
そして、一ヶ月後に勇者を召喚し、世界を生かす為に手伝って頂け、と。
この天啓で、世界同盟や教会の上層部は大いに慌て、儀式の準備や各国への情報伝達などに時間をかければ、あっという間に召喚の日になってしまいました。
私…教会の聖女ソフィア=アークシアは、勇者様を呼ぶ為に三日間に及ぶ儀式を行っていました。
勇者天来は、三日三晩の儀式を行い、全ての句を唱えてから数分後に、光と共に勇者が現れます。
まぁ、兎も角。
私、すっごい疲れました。
常時魔力を凄い使うので、一時間に一回魔力ポーションを補佐の方から頂きながら頑張りましたし。
しかも寝てませんし。不眠不休で働きましたよ?
過労死しちゃいますよ……
「ソフィア=アークシア」
「!……はい、クリアス枢機卿」
クリアス枢機卿。私も所属する世界最大の教会、ソレイユ教の上層部に立つ七人の枢機卿の一人で、老いてなお熱心な信者。
善人にも悪人にも等しく優しいお方です。
私も、子供の頃からお世話になっていました。
「此度の勇者天来、三日三晩お疲れ様でした。しばらく休んでおいては……」
「いえ、クリアス枢機卿。勇者天来の全てを見終わるまで休むつもりはありません」
「……やはり貴女はお強いですね…では、共に勇者様をお待ちしましょうか」
「……はい!」
私はクリアス枢機卿の隣に腰を下ろし、勇者様の到来を待つ。
キュイィィィーン……
魔方陣から高い起動音がなり、白い光が儀式場を覆う。これは……!
「総員、配置につきなさい!勇者様をお迎えするのです!」
クリアス枢機卿の急ぎの言葉に関係者達が大慌てで儀式場の決められた位置に着く。
私は、魔方陣の目の前に立ちます。
勇者様を一番最初に迎える為に。
そして、光が晴れた先にはーーーー伝承通りの黒髪を持つ青年が目を閉じた状態で現れたのでした。
◆天堂正樹
「貴方はお亡くなりになりました。天堂正樹さん」
「はぁ……」
僕…天堂正樹の前には金の装飾が施された天衣を身に纏い、輝く太陽のような輪を背中に持つ、金髪朱眼の女性。
彼女は自らの事を太陽神ソレイユと名乗っていた。
……残念ながら、僕には判別はつかなかったけれども。
「貴方には二つの道があります」
「道……ですか?」
「はい。異世界で勇者となるか、このまま次の生を待ち続けるか、です」
「………勇者、ですか?何故?」
僕は疑問を放つ。
高校生活でも、顔立ちは良かったのが幸いして、色んな人が気軽に接してくれた。
でも、僕を勇者にするのは抵抗がある。
確かに、僕はゲームやアニメの影響で、ファンタジー知識はそれなりに持っている。
「これから貴方に行ってもらいたい世界……フォルタジアに危機が迫っているのです。まぁ、私の力でも、何年後に起こるかはわかっていないのが悔しいのですが…」
苦悶する様に眉をひそめる女神様。
「僕じゃその何かに対抗できるかわかりませんよ?」
「既に同世界に勇士を集め、世界を生かす為の準備を始めています。貴方には、その人達と共に、戦って欲しいのです」
「………まぁ、それまで異世界を楽しんでも良いんですか?」
「はい。有事の際は、私が夢に出ますので」
いや、それかなり怖いんですけど……
まぁ、本来なら終わる筈の人生に、次の道が標されたんだ。それに、頼まれごとを拒否するのは、僕の性格上無理だ。
「わかりました……勇者をやります」
「!……ありがとうございます。天堂正樹さん。ならば、貴方が異世界で戦える様に力を与えます。………どうか、立ち向かう困難に貴方が負けず進む事を此処で祈っています」
女神の声を最後に、僕の意識は薄れていく。
胸に残るのは、これからの期待と希望。
死んで異世界という嬉しい誤算に歓喜を覚えながら、僕は勇者としての生を歩み出すーーーーー
「〜〜〜〜〜〜〜!〜〜〜〜!」
誰かの声が聞こえる。
でも、何を言っているか、わからない。
徐々に意識は覚醒していき、僕は目を開く。
「!…」
目の前にいるのは、水色の髪に海の様な青い瞳を持つ神官服の美少女。
「…えっと……」
「……は!……えーっと、初めまして勇者様、私はソフィア=アークシアと申します。以後お見知りおきを」
「は、はい…天堂正樹です」
あれ?いつのまにか言語を理解している。
女神様から貰ったチートかな?
「マサキ様、ですね、あの……貴方に勇者としての役割を担って頂いてもよろしいでしょうか?」
ソフィアそんは、不安そうな顔で僕に質問してくる。
答えは決まっている。
「……やりますよ。勇者」
「!…ありがとうございます!マサキ様!」
これが、これから長い付き合いになるソフィアとの出会い。
そして、僕が勇者として戦う日々の幕開けだった。
二度目の人生を成功させる為に勇者を頑張ろうと決意して。




