航海二日目
初の航海から二日目。波に揺られても、睡眠に支障が出なかったのは良かった。
……もしこれで眠れなかったら、何処ぞの駄竜が船に穴を開けるかもしれない。
「ふぁーー。……お主、心の中で我の事侮辱しとるじゃろ」
「え、あー、いやいや?してないよ?」
「では何故そんなに挙動不審なのじゃ?」
「いやー?気のせいじゃ無い?別に駄竜とか思ってないよ?」
「ガッツし言うとるじゃないか……」
客室の中で駄弁りながら、寝間着から普段着に着替える。プニエルはまだ夢の中だし、少し明るくなり始めた早朝になったばっかりだ。他の客も寝ているのが多いだろうし、船員達は今日も汗を流しながら働き始めた時間だろう。
騒ぐと文句を言われる可能性が高くなって、厄介事に巻き込まれる確率も上がるので、静かに器用に言い合いをする俺たち二人。
「む………。お主、あっち向け」
「ああ?…………あー。うん。わかった」
女子のプライベートシーンを見るつもりは無いぞ。安心してくれ。
「…………良いぞ」
「うっす。……お前さ、着替えた服をベッドに散らかさんとくれます?観察し放題なんすけど」
「んあっ!?……いや、服なら良いか……?」
「へー?んじゃ、ホイッと」
ふむふむ。ニーファさんの下着の色は水色か。古代を生きる竜の癖に可愛いもん履きますなー。
「ん……?って、馬鹿者!?勝手に触るでない!」
「減るもんじゃないよ?」
「そう言う問題では無いわっ!」
日常的なじゃれ合いを続けていたら、プニエルが起きたので喧嘩は中止。俺たちは食堂に向かった。
ガヤガヤ……
朝早いながらも、既に席に座っている客がいたり、せっせと料理の準備をする料理人達の姿を見たりしながら、俺たちはメニューを眺める。
「『剣魚のアヒージョ』……これにしようかな」
「『弾丸鮫のスープ』と『海鮮サラダ』にしようかの」
『うーんとね『海鮮丼』食べたい!』
剣魚はソードフィッシュの別称だ。そのまんま。
弾丸鮫もダンガンザメの別(ry
「おばさん、この四つください」
「はいよ。合計400ロールだよ」
「はい」
「毎度あり。あっちで並んで待っててくんな」
「「『はーい』」」
そんなこんなで買った朝ご飯。
俺は剣魚…ソードフィッシュのアヒージョをナイフで切り分け、口に入れる。
……おぉ。調味料が素材の味を引き立てていて美味いな。
「うむ………美味いの」
ニーファのダンガンザメのフカヒレスープは濃厚なフカヒレの味を凝縮して最高な感じだ。味見させてもらった。
海鮮サラダは、色取り取りの魚の身を盛り付けた物だった。最近でも、生魚を食べる人は陸に行くほど少なくなる。その為、忌避している人が多い為、身を焼いてあるのだが、生でも充分美味いと思う。
『おいしー!』
プニエルの海鮮丼は、地球の海鮮丼とあまり変わらないが、素材が良いのか美味い。
食べ比べしながらの朝食は味を楽しみながら終わった。
今日は、海の景色を楽しむのも味気ないので、船室の中で娯楽を楽しむ。
俺の服装は民族衣装と言っても過言では無いもので、袖が長い。その袖からチェスを取り出してニーファと遊ぶことにした。
「お主の服はおかしいのぉ……」
まぁ、ただのアイテムボックスなのだが、漏れ出る魔力が無ければ感知できまい。
「よし、やるか」
「今日こそ勝ってやるぞ」
俺とニーファの本気のチェス。
黒い軍と白い軍の戦いは熾烈を極め、最終局面へと至る。
「ふっ……貴様のキングを奪えば俺様の圧勝だな」
「くぅ……っ…」
結果、俺の黒駒達がニーファの白駒を蹂躙して圧勝した。
この世界の娯楽は、チェスやトランプの他にも、ヒューマンド大陸の東側にある島国から流れた囲碁や将棋などもある。結構、暇を潰せる遊びが多く浸透しているわけだが。
ヒューマンド大陸の東側にある島国。
囲碁や将棋の他にも、和服や和菓子なる物が存在するらしい。
……完璧に日本やん。
そして、ニーファに再戦を申し込まれ、また封殺して駄竜を泣かせるのだが、二日目の航海も無事に終わったのだった。




