旅立ち
一週間後の今日の夜。
誕生日である今日を迎えることで俺は十一歳。とうとう2桁の年齢に突入する。
……前世の年齢を加えれば既に2桁の年齢に達していたのだが。
「兄さん!パーティやるよ!早く来て!」
『マシタ!早く!』
「ほれ早くせんか。お主待ちだぞ」
三人娘が早く部屋を出ろとうるさいでござる。
「はいはい。今行くから一時間まて」
「一時間も何するつもりじゃ!早く出てこい!」
「わかったわかった。出るって」
駄竜にはジョークが通じる時と通じない時があるが、今回は通じて欲しかった。
「アレク、十一歳の誕生日おめでとう!」
「「「「おめでとー!」」」」
そんな感じに始まった誕生日会。
今回の参加者は我が家族にニーファとプニエルが加わって増えたが、特に変化は無い。
「ありがとう」
一人一人に挨拶をしながら父母の元へ。
「おめでとうアレク。これから頑張るんだぞ」
「はい。それなりに頑張る所存です」
「それなりは困るんだけど〜」
談笑をし、料理を食べ、今回の誕生日会は終わりを迎えたのだった。
「はぁー」
自室のベッドにダイブして俺は溜息をつく。
明日に魔王城を出るのだ。一ヶ月に一度は帰ってくるよう言われていたが、一年に一度に伸ばされていた。なんでも、毎月帰宅するのは面倒だろう、という親の粋な計らいである。
『プシュー。プシュー』
プニエルは隣で既に夢の中。明日は早く出るのでもう寝よう。
……あ。ユメに城を出ると言ってなかった。まぁ、大丈夫か。怒られたらその時はその時だ。明日の俺、後は任せた。
そして俺も眠りにつくのだった。
朝日が昇り、俺は家(魔王城)を出る日が来た。朝食を食べ終わり、俺はニーファとプニエルを連れて城を出ようとする。すると、
「兄さん!」
「グフゥッ」
ユメが走って飛んで体当たりしてきた。正確には抱きついてきた、たが。いや、それでもさすが次期魔王。九歳、直に十歳にしては素晴らしい力をお持ちのようで。
「いっぢゃやだぁ〜」
泣きながら抱きついて俺を引き止めようとするユメちゃん。まじ可愛い。
「ごめんな?ユメ。俺は決意したんだ。城を出て生きるって。だから行かなきゃならないんだ」
「それらしい言葉を並べるんじゃ無い。本心を言え。本心を」
「自由気儘に自分勝手に好きなように楽に生きたい」
「ダメ人間の発言にしか聞こえん……」
うるさい。だまらっしゃい駄竜さん。挽肉にしてハンバーグにするぞ。
「うおっ!いま寒気が………」
おっと。俺の恨言が届いたらしい。
「兄さん……」
いつのまにか泣き止んだユメは俺の目をじっと見つめて。
「また会える?」
と、首を傾げて問いてくる。この場合、答えは一つしかないだろう。
「もちろん。また会おうな。ユメ」
「うん!」
俺とユメは別れの挨拶を終え、父が発注した馬車に乗り込む。
その馬車は黒塗りで貴族のようなものだが、装飾も程々になっている。しかも、様々な魔道具が設置されており、冷暖房完備、衝撃吸収の車輪や、自動修復、隠密などの魔法も付与されている。いたせりつくせりである。
馬車を引く馬は同じく黒い体躯を持ち、精神力や持久力が凄い馬だ。実は魔物の一種らしいが、品種改良によって生まれた存在らしい。
「それじゃ、行ってくる」
「気をつけるのだぞ」
「元気に生きるのよ〜って、アレクちゃんに言っても無駄かしら?」
「バイバイ、兄さん……」
『バイバーイ!』
「さらばだ。世話になったな」
こうして俺とニーファとプニエルは、魔都を辞し旅を始めたのだった。
まずは冒険者になることから始めよう。
まぁ、決まり文句をいうとしよう。
「俺たちの冒険はここからだ!」
「完結するのか?」
「いや、しないよ?てか、メタイよ?」
最後まで締まらない俺たちだった。




