閑話:アレクという少年
不思議な少年だ。
我と出会い、普通の者ならば恐怖で震えながら剣を向けるか、脱兎の如く逃げ出すというのに、この男は逃げ出すどころか、面倒くさそうにこちらを見上げてくるだけ。
そこから、変わった奴だなとは思っていた。
十歳にして我との戦いについて来れる強さ。あの尋常じゃない量の魔力。そして、手に持つあの杖。全てにおいて非常識な奴だと思う。
……先日の戦いで本気など出してはいない。
我が本気を出せば、あの山一帯は灰燼とかす。あそこはそれなりに気に入っているので、本気は出さなかったのだが、それでも。我について来た奴は凄いと、今でも感心している。
あの厳つい魔王から後継者を発表された時も、平然として、妹に祝福を述べていた。大抵の王族なら、その瞳に嫉妬や憎悪の念を宿すのだが、こやつは負の念を宿していなかった。
それどころか、あの瞳には、何も写っていなかったように思える。前々から思っていたが、奴の眼は死んでいるようにボケーとしている。
しかも、本人に聞いてみれば、面倒事を押し付けたー、とかほざきよる。
……本当に変な奴だ。
ここ最近は退屈で仕方なかった。
やってくる者は大抵勝負を挑んでくるか、媚びへつらってくる愚か者しかおらんかった。しかし、奴はこちらの斜め上を行く。
……見ていて面白いとも感じるし、好意の念を抱いているのも事実だ。
アレクは、我を神竜としてでなく、個の二ールファリスとして見てくれる。
彼は後どのくらい生きるのだろうか?
願わくば、長き日々を彩らせてくれるだろう彼と、いつまで続くかわからないこの幸福に。浸らせてくれることを祈りたい。




