その頃、現世
壁|ω・)チラッチラッ…
えーっと、その。お久しぶりです。
お伝えするの忘れてたんですけど、投稿頻度、めーっちゃくちゃ下がります。
倦怠期じゃないよ?
アレクが地獄でローグライムと会話していた頃。
現世。
ユグドラシル中央学園兼世界同盟臨時本部。
生徒が避難訓練に勤しんでいるのを余所に、特別に貸し切られた教室内に数人の英傑が集っていた。
「何の召集ですかね? 今回は……」
窓から差し込む陽光を浴びて輝く、白い鎧を装備した、少し不思議な雰囲気を纏う黒髪の青年。
人類を救う希望の剣。
───《聖剣の勇者》マサキ=テンドウ。
「戦力集結、かな?」
真っ白な軍服を身に纏い、王族としての気品を包み隠さずオーラとして放つ金髪の美丈夫。
太陽を背負う光の王。
───《聖王子》ミラノ=ヘルアーク。
「腹減った……誰か飯くれ〜」
野蛮な雰囲気と簡素な格好を纏っているが、列記とした王族の一員である雌獅子。
暴れ獅子の後継。
───《獣姫》フェメロナ=ライオンハート。
「お、じゃあこれ食うか? 美味いぞ〜?」
嫁が作った軽食を渡そうと手を伸ばすのは、無骨な鉄剣を背負った、約束された最強。
人類最強。
───《鉄剣》リョーマ=スガワラ。
「あらも〜、愛妻弁当なんて羨ましいわぁ♡」
甘ったるい言葉を投げかける声の持ち主は、筋骨隆々とした身体をピンクのタイツで覆う強者。
魔法の拳を持つ幼子の守護者。
───《塔の魔術師》ラトゥール=ラブラプス。
「良い題材はないの……?」
カラフルな絵の具で全身を染め、キャンパスと筆を両手に持って悩む異端のエルフ。
精神を汚す画家。
───《夢幻創師》ウィズリム=アタルマテォク。
「よーっし、王様だーれだ!!」
楽しげに声を上げるのは、全身を銃器で武装した異世界からの冒険者。
軍事崩壊。
───《魔弾の射手》レンヤ=ホシミヤ。
「あっ! 私だ!」
王に選ばれたのは、戦いを司る天使達の力を身に宿す戦場の救済者。
恋する天使。
───《戦乙女》アカネ=マイナミ。
「変なお題は出さないでくださいよ……」
眼鏡を持ち上げるのは、獣王国の外務大臣である事を示すバッジが目立つ神経質そうな青年。
尋問のプロ。
───《政帝》トウマ=タカハシ。
「そもそも〜☆王様ゲームって何〜っ?」
頭の中を空っぽにして首を傾げて笑うのは、海洋国家らしい服装をした釣りギャル。
海の巫女。
───《水守》カリン=ハセガワ。
「この気配は……成程、そういうことですか……」
教室に近付く馴染み深い気配を感じ、両手を合わせて祈りを捧げる聖職者。
癒しの光。
───《聖女》ソフィア=アークシア。
「マサキと離れちゃったわね……」
扇で口元を隠し、遠目に勇者を見つめるのは彼の仲間の一人であり、家の為に奮闘する美女。
潰えぬ紅き貴族。
───《赤の令嬢》クレハ=ウィエル=バンフォーレ。
「う〜……プニちゃんいないのー?」
机に突っ伏し、足を所在なさげにブラブラさせると同時に、尻尾を悲しげに揺らす猫童女。
童心のアサシン。
───《猫手の閃光》ミュニク。
「精霊の力が弱まってる……?」
帰郷して状況を確認せねばと気を引き締め、精霊の力を宿す杖を力強く握るエルフ。
精霊の愛を授かる者。
───《先見の精霊士》シリシカ。
「あの、ここまで持ってこなくても……」
困惑した様子を見せるのは、全身を紅く着飾った魔族の令嬢。
四天王の末席。
───《紅焔の魔女》ミカエラ=リル=ヘイドゥン。
「無理です。過労死はしませんから大丈夫です」
書類の束を前に半ば社畜と化しているのは、漆黒のドレスを身に纏う最も高貴な魔族。
寵愛されし真の魔王。
───《黒薔薇の魔王姫》ユーメリア=ルノワール。
彼ら16人の英傑達。他にも彼等に連なる者達はいるにはいるのだが、ここにいるのはこの16人のみ。
とある人物と関わりのある英傑のみが集められている。
本来なら、まだ数人いるのだが……一人は死亡、二人は招集拒否、二人は行方知らずとなっている。
「────おっ、全員しゅーごー!したかな?」
「遊んでないで、早く始めますよ」
ガラガラガラと音を立てて開けられる教室の扉。
満を持して現れたのは、この世界を治める最高神である二柱。
《夜天神》アンテラと、《太陽神》ソレイユ。
集合を呼びかけた地上種の味方が後光をささずに降臨した。
「アンテラ様!?」
「お会いできて光栄です、太陽神様」
「わぁーお……」
集められた面々が、それぞれの反応で女神達を迎え入れる。神がわざわざ下界に降りたという驚きに教室が満ちる中、二柱は切り出した。
「いや〜、ごめんね? 皆忙しい中呼び出しなんてしちゃってさ……」
「本当にごめんなさい。私達、神の争いにあなた達を巻き込んでしまって……」
謝罪から始まる言葉に、面々が受け入れたり否定したり気にするなと言う中、話は本筋に入る。
アンテラが教壇の前に出て、口を開く。
「今日呼んだのは君達に慣れてもらいたくてね」
「慣れ……?」
彼女は右手に光のオーブを出現させる。
それを無言で見つめながら、オーブは膨張し、やがて──…光球が破裂し、教室内に聖なるエネルギーが充満する。
「うおっ!?」
「ぐっ……!」
濃厚なそれ───…神気を、地上では基本的に味わうことの無い力を全身に受ける。
だが、度重なる堕神の襲来、神化していた魔族の魔法に含有、などの特殊な理由で彼らは神気を知っている。
しかし……アンテラが放つ神気は、それまでのものとは比べ物にならないものであった。
「君達には、この神気に慣れてもらいたい。……天父神が放つ神気に、ね」
天父神が世界を創り、星を創り、生活圏を創った過程で、真っ先に創造された恒星と衛星。
昼と夜を照らす星を冠する女神は天父神が最初期に創った子に当たる。放たれる濃厚な神気は、彼女らの格の高さを著明に表していた。
「これがっ……!」
「神ってのは理不尽だな……!!」
「おもしろっ……!」
未だ残る堕神──…《機甲神》《禁帝神》《天父神》の三柱との戦いに向けて。
彼らはそれぞれの思いを無念に、立ち向かう。
◆
「このボクに!!不可能など……っない!!!」
「…すごいすごい」
某所。煉瓦で舗装された地下空間は暗く、ランタンの灯りを頼りに暗闇の中を歩くのは二つの影。
ボサボサの灰色の髪と、左目を守るモノクル、汚れた白衣が特徴的な狂気の天才研究者。
服、魔女帽、髪、瞳のあらゆる箇所を青でコーディネートしている物静かな小さき魔女。
その名は、《孤高の魔工学師》クロエラと、《氷心の魔女》マール。
アンテラとソレイユの招集を無視した英傑が、この地下空間に訪れていた。
目的はたった一つ。たった一つの目的の為に、彼らは禁忌を犯そうとしていた。
「…本当に…ここなの?」
「あの古文書が正しければ……この《アヴァロン地下迷宮》の最奥に行けば……!!」
そう、この地下空間は《アヴァロン地下迷宮》。
かつての妖精郷が眠り、魔統神ダグロスが最期を迎えたイビラディル大陸の地底世界。
その深奥に向けて、クロエラとマールは歩く。
「目的はただ一つ!!!」
近寄る魔獣には興味も無いと言わんばかりの大声が、通路を反響する。
それに嘆息するマールが、クロエラの声を邪魔する唸り声を一つ一つ凍らせ、砕き、滅ぼす。
「──────地獄への片道切符だ!!!!!」
そして、彼らは失敗する。
彼らが開くのは、地獄への扉ではない別のモノ。
だが、二人は……特に、魔法と科学を極めし天才は後悔などしないだろう。
失敗したのは仕方ないと割り切って、次の策を実行しようと足を進めるだろう。如何に命の危機に陥ろうとも、彼は気にもとめないだろう。
この戦争に混乱を齎す“災厄”を、呼び覚ますだなんてつまらないことを。
◆
深い、深い闇の底─────
肢体が赤い液体に沈んでいく。小金色の髪は赤に沈んで、その輝きは霞ませている。
【───閉ざされた未来に救いはあるのだろうか】
女神の独白が虚空に溶ける。それを聞いている筈の少女は、心を閉ざして無を貫いていた。
沈んでいく少女を後目に、女神は天を仰ぐ。
【───アーク・ルノワール。《大天敵》たるアナタが……】
禁術を司る堕神は、血の海の上を揺蕩いながら、闇が深まる漆黒の天を睨みつける。
【───最後に掴むのは、何?】
その問いに答える者は、誰もいない。
◆
眼下に広がるのは白と青。
地上より上に広がる青い空と、空に浮かぶ無数の雲を視界に収めながら、彼女らは歩く。
足場は雲。雲に突き刺さる廃墟や結晶には目もくれず、奥に聳える巨大な門を目当てに進む。
『天窮の摩天楼』。
天界へと足を運べる正規の場所にして、資格ある者しか立ち入ることができない領域。
そこにいるのは9つの人影。
銀色の龍、桃色の兎、紅色の鳥、植物の塊、進化した幼き天使、不定形の三姉妹、時空を司る小狐。
その誰もが人外で、人智を超えた力を持つ者達。
「行くぞ、お主ら」
その筆頭────《神竜》ニールファリス率いるアレク一派が。
天界への入り口、『天空門』を開いた───…




