表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王の兄は転生者  作者: 民折功利
第十章 非日常とお兄様

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

304/307

地獄旅


 視界が切り替わる。

 瞬間、俺の全身に悪寒が走り、環境に慣れるのに時間がかかってしまう。

 あぁ、やっぱり現世や天界と比べてキツイな。


 目の前に広がるのは紅と黒の世界。

 地平線の先まで広がる黒い大地。空は真っ赤に染められて、黄色く濁った雲が点々と浮かぶのみ。

 現実離れした、瘴気が蔓延する光景。


「ここが地獄……うん、半神半魔でも生きて帰って来れるかビミョーだったかも……」


 俺の転移先は地獄。

 最高神の一柱である閻魔大王が君臨する裁判所、悪魔が跋扈する死の魔窟、やってきた罪人を虐める為に作られた鬼の拷問世界。

 うん、現世よりすっごい物騒。


 通常手段だと地獄はまず死ななきゃ来れない。

 てかそれ以外ではほぼ無理。抜け穴はあるけど。

 ……え、今お前普通に転移で来てんじゃん?……こ、こまけぇこたぁいいんだよ。


 死んだら普通、魂は冥界に飛んで、地獄に送られ、なんやかんや審判されて来世が決まる。

 でも俺はなんやかんや異空間で復活したじゃん?

 輪廻転生の輪とか無視しちゃってるじゃん?

 通常ルート通れないわけじゃん?

 んで、ここに悪魔公爵から貰った招待状があるわけじゃん?


 ………いやぁ、使う時が来るとは思ってなかった。


 大悪魔ローグライム。

 地獄の公爵であり、指一本を生贄に召喚できるというお手軽な悪魔。召喚主の言葉に耳を貸し、己を受肉させて主の願いを叶えようとする……のは嘘。

 実際は受肉させたらトンズラこく。上位存在すぎて上級神レベルに片足どころか上半身までズブズブ埋まってるから召喚主如きの命令は聞かない。そして好きなだけ暴れて楽しんだら勝手に自滅する。

 すっっっごいめんどくさい悪魔。

 対策としては受肉させなければ命令に抗えないので、召喚して直ぐに命令すること。それを知っていた魔統神はローグライムをダンジョンのボスにさせることができたっぽい。

 

 ……なんか胃がキリキリしてきた。俺らしくない。


 アイツに会う必要性はない。ないんだけど、せっかく地獄に来れるようになったんだし。

 なんか気に入られてるから、最大限利用しようってのが根本的な理由。アイツ従えれたら強くない?

 え、今までの説明を思い出せって?おいおい、俺をそこらの凡人と同じにするな。大丈夫、絶対セイコーするって。あの黒モヤ悪魔なんざ即堕ちさせたるわ。


「だけど……はぁ〜。……転移失敗か」


 理論上では、招待状を使った転移なら例の悪魔のどこまで行ける筈。

 だが……


「なんもねぇ」


 荒廃した大地が広がるばかりである。

 う〜ん。何も無いですね(溜息)……。あるのは紅い空と黒い土、あと枯れた木とかですね。

 ふざけやがって。何処にいるんだあの悪魔!!


「歩くかぁ〜」


 とっとこ歩くよアレ太郎〜♪

 ……あれ、歌詞違くね?なんか違和感。あのアニメ今やってんのかな……親の関係が粗悪になってから見る機会なくなったからわかんないんだよね。

 …………いや、流石にやってないかな?

 生き返ったら正樹にでも聞こう。


 無人の荒野を独り歩く。

 歩く歩く歩く。たまに走ったり跳ねたりホップステップジャンプの連続。

 ……あ、暇だから話すわ。なんとビックリ、地獄だと幽霊みたいにうっすらしてる俺の身体、なんかくっきりしてんのです!

 お化け扱いされなくなっただけで、本質は変化しておりません。見た目だけ〜みーたーめだ〜け〜!


 スン。

 立ち止まる。


「……………………ぼっち辛っ」


 自発的に暗躍行動しなければだいたい隣に誰か居たけど、なんか寂しい。これが孤独……? あ、前世でクソほど味わったわ。……今世の俺って恵まれてたんだなぁ……なんかしみじみ思うわ。


 再び前進。ただ只管に前進。


 歩く歩く歩く。

 黒い土を踏み締め、やがて地平線の先に紅い葉が生い茂る暗い森を視認した。

 そして、その奥に鋭く立ち並ぶ剣山を。


「……………ん。こっちだな」


 漠然とだが、あのダンジョンで浴びた邪悪な気配が剣山の向こう側から感じ取れた。

 多分、まっすぐ進めば……会う必要性はないけど会っといて損は無いだろう悪魔の場所に着く筈。


 ……ショートカットしよう。いちいち森の中を歩く必要もないし。


 俺は森の500メートル前の地点で背に黒翼を展開。全身をバネのように弾ませて跳躍し、地獄の空気の流れに身を踊り出して翼を羽ばたかせる。

 紅い空に飛び立つ俺は、眼下の目に悪い森を一気に飛び越え────


 れなかった。


「GRYUUUUUUUUUUUUUUUUU!!!!」

「っ!? なに!? なにごと!?」


 轟音。

 それは紅い森を突き破るように現れ、俺を捕食せんとその大きな口を開き、口内にビッシリ生え揃った毒付きの歯を見せつけてきた。


 多分、それは現世に存在するワームの変異種。

 紅い森に擬態するためか、紅い皮の上に紅い苔が生えている。巨大な芋虫がそのままビルサイズまで大きくなったような……すっごい絵面的にヤバい魔獣。


「えぐっ!? 気持ち悪っ!?」


 あと臭い。

 いやほんと、腐敗臭が凄い……!!ちゃんと口の中を洗えよ!!


「GRYUUUUUUUU!!!」

「るっせぇ!!! あークソ!」


 ここで問題が発生。

 地獄のルールが俺を攻撃できなくさせる。


 “地獄の住人以外は地獄で管理者及び準管理者の許可なく戦闘を行ってはならない”


 “地獄の住人以外は地獄で殺生してはいけない”


 地獄住人超依怙贔屓法律かな?

 地獄の管理者である閻魔大王が定めたこの二つのルールによって俺はこのワームを殺せない。

 破ればいい?無理。閻魔大王からの生きるよりも辛い拷問生活が待ってるとか無理。攻撃禁止だから攻撃魔法も武器も使えんのよ。別に魔法全般が禁止されてるわけじゃないって事なのが救いだけど……


 ワームの口から逃げ、旋回し、離脱。

 流れる景色の後ろにキモイのが遠ざかるのに安堵しながら、俺は思考を巡らせる。

 後ろから続々と顔を見せてくる別のバケモン達に気を取られながら。


 地獄のルールは基本的に堕ちた罪人が反旗を翻えさない為のもの。

 だから自主的に来た俺には通用しない……という甘え考えも通用しそうだが、実践するのは辞めた方がいいだろう。アンテラとかソレイユだったら幾ら機嫌を損ねても大丈夫ではあるが、色々と未知数な閻魔大王とかは怒らせたらダメだと思ってる。

 だって、相手はアンテラよりも年上だぞ?

 ……理由になってない?どっちにしろ相手は神なんだから敬え?

 ………アンテラとソレイユ以外は敬うわ。

 あと四堕神とその神徒以外は敬う。あと……アレなんでだろう。この世界って敬えるような神がそんないなくないか?なんか、凄い俗っぽい奴らばっかというか……うん、アレだなぁ……取り敢えず。


 閻魔大王には逆らわない。


 この方針は基本にしよう。


 ……まぁ、流石に無視できない事態になったら逆らうけど。ニーファを殺せとかルーシィを見殺しにしろとかアンテラに従えとか言われたら。

 俺は笑顔で反旗を翻すかもしれない。

 短気は損気って言うけど、それ体現するかも。やべー、耳塞いどこ。


 ん?あれ? ……逆らわないって方針が一瞬で矛盾したんだけど?

 これが俺クオリティなのか。

 納得。


 …………あれ、納得する要素なくね?

 ……………………。

 …………はぁ。


 俺は思考を捨て去って無言で空を飛ぶ。

 気持ち悪いバケモン達の追っ手は、まだまだ俺を放置してはくれないようだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ