次代の魔王
ターニングポイントです。
俺たちが買い物から帰って来るとき、広場の掲示板に目立つ大きな紙が貼ってあった。
そこには、
『明日、午前10時より魔王城門前にてシルヴァトス陛下による直々に発表があり。国民は門前に集合すべし』
……父さんが発表?何を?
「なんか発表されるみたいじゃの」
「みたいだね。何かは知らんけど」
『ふーん。美味しいの?』
プニエルさん。君だけ話題から逸れてますよ。
魔王城に帰宅して、王族の居住区域まで歩いていたら、目の前にユメがピョコッと出てきた。
「兄さん!ニーファさん、プニエル、おかえり!」
「ただいま。……どっから出てきた?」
「ただいまじゃ」
『いまー!』
「兄さん、父様が執務室に来いって伝言を貰いました」
「え、面倒い」
「いや、行ってね?多分、明日のことだと思うの……」
えー。十歳の僕に何を言うんだい?父さん?
「で?十歳の僕に何か用ですか?父さん?あと、なんでヘイドさんがいるんですか?」
はい。父の執務室にやってきました。
今から父に明日のことを聞く予定です。
というか、ここには俺と父ともう一人、四天王が一人いた。
四天王《棺》のヘイディーズ・エンド。骸骨の体を持ち。黒い闇のローブを身に纏う死霊術のスペシャリスト。生前の姿は誰も知らず、永き日を魔導に費やした古代の賢者である。見た目は怖いが、喋ると気さくな好好爺であり、王城で働くメイド達からはおじさまと敬称されることが多い。
愛称は略してヘイド、である。
「なーに。少し陛下と話していたら、アルク殿が来ただけですよ」
「へー」
「まぁ、ともかく。よく来たなアレク。お前にはユメより先に話すべきだと思ってな」
そんな言葉共に父の話は始まったんだった。
翌日の午前10時。魔王城門前には多くの民が集っている。
もっとはっきりいうなら、門前の開けた場所や近辺の場所に国民が集まっている。
俺やユメなどの王城側、つまり門の奥に並んでいる。
そして遂に魔王シルヴァトスが現れ、門前に置かれた台座に立つ。
瞬間、国民全員が膝まづく。
「皆の者。面を上げるが良い」
シルヴァトスの声と共に国民が皆、膝まづきながらも、頭を上げ、魔王を見つめる。
それを見た魔王は、満足したようにウン、と首を振る。そして彼は発表する。
「皆の者、今日はよく集まってくれた。突然だが、諸君に我の後釜…つまり、次期魔王を発表する」
「「「「「「お、おおぉぉぉぉぉ!」」」」」」
次期魔王を発表する。その言葉だけで国民全員が歓声の大声を上げる。
「それでは発表しよう。次期魔王になる者は……魔王国第一王女、ユーメリア=ルノワール!我が娘にこの国の未来を託す!」
「「「「「「おおおぉぉぉぉぉ!」」」」」」
「それでは、これにて発表を終了とする!ユーメリアには七年後、彼女が十六になった時に戴冠式を行うと!以上!」
そう言って、台座を降りるシルヴァトス。彼は国民の歓声を背に浴びながら、こちらに戻ってきて、俺たちを一瞥した後、そのまま王城内に帰って行った。
…魔王に選ばれたのは我が可愛い妹、ユメ。
そんな彼女は、歓喜と驚愕と疑問が入り混じった顔で茫然としている。
「…おめでとう。ユメ」
その言葉と共に彼女は、ハッとした顔でこちらを見てくる。
「に、兄さん…私、魔王に選ばれた…兄さんじゃなくて…どうして……?」
ふむ。彼女は俺が魔王に選ばれると思っていたらしい。
「君の方が相応しいと判定されたんだ。良かったじゃないか。九歳で未来が確約されてるんだぞ?嘘でも喜んどけ。皆見てるぞ」
「う、うん……」
その言葉で、彼女は満面の笑みを国民達に向けた。そして、国民達がより大きな歓声を上げた。
母エリザベートはそんなユメに抱き着いて微笑ましい状態である。
俺はそれを横目に見ながら、王城に歩み去る。
「…良いのか?魔王にならなくて」
隣にいたニーファが俺に疑問を投げかけてくる。
「いいんだよ。魔王なんて面倒だし、自由気儘に自分勝手に過ごすのが俺の人生だと決めてるからな。……ユメに押し付けるようで悪いが」
「…そうか」
「お前はどうする?このまま城に食客として残るか?」
「その言葉から推測するに、お主ここを出るのか?」
「もちろん。ちょくちょく帰ってくる予定だけど、放浪生活でも送るつもりだよ。……俺がいても、目の上のたんこぶ扱いされそうだしな。改めて聞くが、どうする?」
「ふん……忘れたか?我はお主が気に入ったから共にいるのだ。ついて行くに決まっとるだろう?」
「………好きにしろ」
そう言って俺とニーファは城に帰って行った。




