俺は心配されている
「うむ。体調は良くなったようだな」
「よかったわ〜。アレクちゃんったら突然倒れちゃうんだもの…」
目を覚ました俺に安堵の声を上げる夫婦。
魔王シルヴァトスと王妃エリザベートは破顔して俺の頭を撫でてくる。
…少しくすぐったい。
「もう大丈夫だから安心していいよ」
そう言うと、二人は安心したように、ホッと息を吐いた。
前世の記憶が蘇って、色々と曖昧で忌避的な部分が出てくるのではと思っていたが、そんなことは無く二人を自分の親として接することができる。
ラノベ系の親とのすれ違いが無くて良かった。
「よし、アレクが起きたし、もう夕飯の時間だ。三日ぶりの家族全員で夕飯といこうか!」
シルヴァトスはそう言って俺を食事に誘ってくる。
しかし…
「あらあら、アレクちゃんは起きたばかりだし、普段の夕食はきついんじゃないかしら?」
エリザベートはそんな風にやんわりと父の言葉を却下する。
うむ。今は普段の夕飯を食べることを少し避けたい。
普段の家の食事は、王族らしく豪勢で膨大な数の食事…という訳でも無く、美と味の調和を追求し、食べられる量だけの、いわば日本の普通の夕飯を少しグレードアップしたものだ。
しかし、病み上がりの今は、それも食べるのがきついと感じてしまう。
「食べるならお粥が良いです。父さん」
さりげなく要求する俺氏。さすが。
「うむ…そうだな。すまんなアレク。お前の体調を考えておらず…」
この人…魔族の頂点に立つ魔王なんだが、家族には滅茶苦茶優しい。親バカである。
「大丈夫ですよ。父さんが僕のことを心配してくれているのはわかってますから」
「………うむ。なら良かった」
少し嬉しそうに微笑む父。
「それじゃ、行きましょうか?」
「はい、母さん」
「うむ。アンデュラーには粥を頼んでおこう」
アンデュラー。魔王城の総料理長だ。
彼の腕に右に出るものはいないと俺は思う。
そうして俺は親子三人で、三日ぶりに自室の扉を抜けて食堂に向かった。