終わりの始まり
第九章最終話。
次回、登場人物紹介
「う、……なん、で……!?」
襲撃が始まってから数分後。
ルーシィは頭痛に見舞われながら、己の配下達が暴れ回っている現状を知り、混乱した。
信頼している二人の神徒までもが暴れている。
自分は命令なんてしてないのに。
でも、自ずと答えはわかってしまう。己の身に巣食う邪神が何かを始めようとしてるのだと。
何とかして止めなければ。
無駄だと心のどこかでわかっていながら、ルーシィは牙を剥いた。
「何、考えてんのよ……!」
【───全ては計画の内。器であるアナタが知る必要は無い】
「ふざけるな……これは、私の身体だ!!」
【───アナタは戦いを拒絶する。でも、ワタシはそれを望んでいる】
「!!」
【───邪魔なのはアナタ。寝てて】
「くっ……あぁっ……!」
意識が遠のく。
望まぬ結末が近付く中、抗うルーシィを神は平然と見放した。
意識が溶け、ルーシィは眠りに落ちる。
【───永遠に、そこで見ているといい】
ルーシィの金髪が濁る。
蝙蝠の羽は骨が浮きで、禍々しい模様が身体に浮かび上がる。
吸血鬼の真祖から、別次元の上位存在へ。
「【───さて……見届けよう】」
禁帝神ゼシアは、感情のない紫の瞳で、眼下に広がる世界を睥睨した。
「【───新たな神の誕生の瞬間を】」
◆アレク=ルノワール
「あっ!お兄様!!」
「ん? ───ユメじゃん。どしたん?」
「コケるぞ、慌てるでない」
世界同盟本部の前に降りて、ニーファと一緒に道端の石ころを蹴って隅に放っていた俺に、ユメが駆け寄ってきた。
魔王城にいるって話だったと思うんだけど……
ヒルデの転移魔法で来たのか。
「何故ここに?」
「同盟都市が襲われているなら、来るに決まってますからね!!」
「……んまぁ、そりゃそうか」
計算外だった。
でもまぁ……除け者にしたらしたで、酷いことをしてしまった感があるな。好都合かな。
ユメには悪いことだけど。
「お兄様、状況は……、っ!!?」
「っ……今、悪くなったな」
悪寒。
振り向いてはいけない。でも、振り向かなければならない。そんな台詞が出るぐらいの、悪寒。
振り向けば、ソレが発する濃厚な神気が、邪気を纏って空から降りてきた。俺達の目の前に。
「【───降臨。終わりの始まりを奏でにきた】」
禁帝神ゼシア。
真祖ルーシィを戻れない闇の深みに陥れた、産まれたばかりの幼き邪神。
三千年を封印によって眠っていた為、彼女の根幹はまだ幼いまま。知的好奇心が全てであり、自分を世界に認めさせる為に禁術を操り始めた邪神。
そして──…外の世界から迷い込んだ理外の神。
「ルーシィ、ちゃん……?」
「【───否定。ワタシと器は同一にあらず】」
見た目ルーシィの闇堕ちだもんね。本人だと思っちゃうと思います。
中身が邪悪なんだけど。
……あれ、ルーシィもけっこう邪悪だったよな?
「よぉ、禁帝神……オークションぶりだな」
「【───肯定。楽しくやろう】」
「えっ、えっ……お兄様、会ってたんですか!?」
「まぁな」
ユメの言葉をそこら辺に置いといて、魔神杖を握って禁帝神に杖先を向ける。それと同時に、あちらも俺の方に手を向けて……魔力を充填し始める。
これから何が始まるが……誰でもわかるだろう。
「ユメ、ニーファ。離れてて」
「えっ、あっ、はい!」
「わかった……うむ」
これから始まるのは、禁術の撃ち合い。
禁術を司るような邪神と、禁術を代償無しで行使できる俺の、タイマン勝負だ。
防御する為の魔力を一切使わず、全てを魔神杖に集束させて攻撃にのみ出る。
それは、あちらも一緒。
被弾すれば一溜りもない。ルーシィの身体を傷つけるのは嫌だが、死にはしないだろう。
妹の身体がそんなにヤワじゃないぐらい、わかってる。
「《インドラの矢》」
「【───《古代呪法ルドゥ・ミュール》】」
紅蓮に染まる裁きの雷は地上から。
爛々と煌めく邪なる雷が空から。
互いの間で激突する二つの雷が、拮抗すること無く、空気を鳴動させながら相殺される。
小手調べで相殺、か。
良い線いってる感じだな。互角とまでは言えない実力だけど、そこまで離れてるわけじゃない。
………俺も、化け物になったもんだな。
感傷に耽けながら、次の一手を待つ。普通の禁術勝負の時は、わざわざ相手の出方を待ってると一大事なことになる。でも、後出しの方が有利な時もある。
例えばこんな時に。
「【───《古代呪法ミーム・ミーム》】」
「環境汚染とか辞めてくんね?《完全なる絶対零度》!」
紫色の波動が空気を汚し、木を枯らし、周りのものを全て汚しはじめる。解析してみた感じ、あれ防御魔法とか結界とかも侵食してくるみたいだな。
防御不可能とかキツすぎ。でも、抜け穴はある。
絶対零度の凍てつくビームが波動を凍らせる。
概念ごと凍らせる禁術だし、込めてる魔力量もこっちの方が上だから、なんとか上回る。
次は斬るか。禁術を乗せて。
「【───やはり楽しい】」
「そいつはどうも!《魔斬天衝》!!」
「【───! 回避不能の斬撃……】」
獄紋刀を鞘から抜いた状態で右手に召喚し、ゼシアに向けて一閃。空間ごと切り裂く斬撃は、ゼシアの右腕を空間ごと切り捨てる。
そして、切られた空間は元の位置に戻る為に、質量と力のエネルギーを消費して、大きな質量をゼシアにぶつけながら正常に戻った。
斬られた彼女の腕は、地に落ちる前に塵となり。
切断面からボコボコと肉が溢れ出て再生する。
うーん、やっぱり再生能力って厄介。
切っても切っても埒が明かない。再生能力に限界ってのがあればマシなんだけど……
ルーシィは真祖だからなぁ……
「【───《召喚》《魔神剣カタストロフ》】」
「! それ出されたら、小手調べってレベルじゃなくなるんだけど?」
「【───でも、アナタは魔神杖を手にしている】」
「いやまぁそうなんだけど……まぁいいや」
魔神杖カドケウスと魔神剣カタストロフ。
俺らが生まれるよりも前に、別の異世界で死んだって話の魔神の遺品……名を魔神器。
魔神杖には“彼の意思”を。
魔神剣には“研ぎ澄まされた殺意”を。
魔神衣には“その身を守る闇”を。
魔神冠には“留まることを知らない欲望”を。
魔神鏡には“心を乱す邪気”を。
魔神の力の写しみが二つ、ここに集う。
「こうなったら、獄紋刀の出番じゃねぇな……しゃあないなぁ〜!合わせてやるよ。禁帝神」
魔神杖カドケウスに鋭利な魔力を纏わせ、魔神剣と切り結んでも対応出来るように。見た目は変わってないけど、今の愛杖には切れ味がある。
……あの魔神剣の切れ味は未知数なんだけど。
「【───どこまで持つか、楽しみ】」
「それは俺も思ってるよ」
「【───肯定。好きに暴れよう】」
「じゃあいつも通りだな……《魔斬天衝》!!」
獄紋刀で放ったそれを、魔神杖で放つ。
その空間斬撃を、ゼシアは魔神剣を横に構えて、少し押されながらも完全に防ぎきる。
「【───《縮》…《斬》】」
瞬時に攻防が入れまじる。
一呼吸で俺の懐に潜り込んだゼシアは、静かに俺に向かって一閃してきた。
「っ! ……おらぁ!!」
「【───……力で負けた】」
力で勝った。
危うく回復不能の斬撃をもらうとこだったけど、魔神杖を横槍させて吹き飛ばせた。
ただし、俺は切れなかったが……
後ろにあった建物が切れた。斬る衝撃が後ろに逃げたから、建物が斬れる流になったんか?
うーん、これは……決着つけるつもりないけど、やっぱり今の俺じゃ拮抗させるので精一杯か。
計画しといてなんなんだけど……
「───っ!」
「【───乱入か】」
その時、殺気を感じた。
でもゼシアは殺気を一切出さずに攻撃してくるし、今も尚、殺気は見せずに攻撃してくる。
だからゼシアの殺気ではない。
それに……殺気の方向は、俺の遥か後ろから。
「っ! ユメ!ニーファ!お前らあっちやれ!」
「えっ……っ!なんです、この圧は……!」
「なるほどの……承ったぞ」
手が空いてる二人に任せる。
プニエル達はナチュレとメリアが異空間に避難させてくれたから良し。
だけど、五人を守る為に二人は手が空いてない。
だから……《四神源徒》の相手を、二人に任せるしかない。
ニーファは兎も角、ユメは危ないかもしれんが。
「【───《炎》と《海》……平気?】」
「平気だろ。何せ俺の家族だからな……こっちもさっさと進めるぞ。時間が勿体ない」
「【───肯定。手早く済ませよう】」
つい先日ぶっ潰した犯罪組織。
ゼシアの存在を世に知らしめたあの戦いで、俺とこいつが結んだ提案……一つの儲け話。
美味い飯にありつけるのは俺だけだが、混沌とした世界を望むゼシアはそれを許諾した。
「始めようぜ──…」
「【───この世界に終わりを告げる】」
「迷惑かけ放題プランをな!」
いやホント、関係者諸君には後で謝ります。
「殺したらゴメンな?」
「【───そうでなくては面白くない】」
禁術勝負と魔神器対決は同時並行。
割と精神が磨り減るが、大丈夫。ここで幾ら磨り減ろうが結局はゼロになるんだから。
そう、この戦いの終着点は────…
◆ルーシィ
夢を見る。
屋根の上で、銀髪の魔族が此方に向けて何かを話している光景を見る。
真下では闇が蠢き、悪意の獣が跋扈している。
泣き叫ぶ金切り声が耳を劈き、自分のせいでこうなった事実に胸を締め付けられる。目を背ける事は叶わず、私は涙を流す。
精神での話だけど……肉体の主導権はアイツにあるから、実際には涙は流れていない。
それにこれは……………私の記憶じゃない。
私に巣食う神の目線だ。
銀髪の魔族……彼と何を話してるのだろう。
見覚えのある屋根からして、オークションの時だとはわかった。でも、疑問が先走る。何故彼がここにいるのか、何故彼が戦わずに話しているのか。
何故、彼は……禁帝神と話した後に、平然とした顔で私に笑いかけたのだろう。
兄だから、とでも言いたいのだろうか?
「─────」
「【───……──────】」
「───────」
読唇術なんて持ってない私は、音のないその会話を理解することは叶わない。
知りたい。知りたいのに、知れない。
「 」
前世の兄の魂が入った彼が何かを言っている。
何故だか耳を塞ぎたくなる。その先を聞きたくないって、本能的にその光景を否定したくなる。
やめろやめろやめろ。そこから先はいけない。そんな物語、誰も望んではいない。別に、あなたが同じ道を辿る必要はないんだ。やめてやめてやめて。
これ以上、自分を傷つけないで。
繰り返される。まるで、私に理解さそるように。
「 」
ジョジョに鮮明になっていく。
血が滾る。涎が止まらない。全神経が敏感になって、言うことを聞かない。身体の主導権が無いのにも関わらず、何とか耳を塞ごうと必死になる。嫌な汗が背を伝う中、意思に反して物語は進んでいく。
兄の開閉する唇は、まるで喜劇を語るように楽しげに動いている。
怯える私とは正反対に、楽しそうに。
────起きろ、ルーシィ
何の前触れもなく、突然引き上げられる。
あまりにも鮮明な夢の中から、地獄のように成り果てた現実へ。
何を間違えたのだろう。
何をすれば良かったのだろう。
何をすれば……
…………ここは?
勝手に動く身体に引っ張られながら、広がった視界に意識を裂く。
映るのは……舞う血飛沫と、世界を彩る禁術。
世界同盟本部らしき建物は既に崩壊していて。周りの建物も、奈落に落ちたようにひしゃげている。
それをやってるのは……“私”と“兄”。
肉体の主導権は相変わらずゼシアのもので、私に残されたものは意識だけだ。
どこか他人事のようで、実感が湧かない光景。
「【───《古代呪法セミラス・エンデッド》】」
私の口が勝手に動いて、別世界の禁術を───…
あっ……それはダメだ!その呪法は……!!
真紅の光が両手から溢れ、怪しく輝き、禍々しい神気が光を中心に、渦を巻いて景色を歪める。
なんとか発動を抑えようと踏ん張るが、主導権があちらにあるせいで私は何もできなかった。
虚しい。苦しい。何故こんなにも私は弱いのか。
真紅の光は怪しく煌めく。
周囲から生命エネルギーを吸い取りながら、真紅の光を纏う最恐の古代呪法が炸裂して。
真紅の光が迸り、世界都市を一瞬紅く染める。
「っ……いなくなった……!」
閃光から目を背け、視界を奪われるのを防いだアレクくん。彼は背後や上を注意しながら、消えた私を魔力探索も使って探している。
あぁ、声が出ないのが……もどかしい。
転移した私の身体は、アレクくんの感知網を掻い潜って、彼の懐に……胸元に突然、姿を現した。
気づいた時にはもう遅い。
思考がグルグル回る。後悔の渦に巻き込まれる。
頭が痛い。ほんの数秒、まるで時間が停まったような感覚に襲われる中、私の脳は壊れ始める。
もし、あの日外に出ていなければ。
転生しなければ。命を絶っていれば。再会を喜ばなければ。記憶を見なければ。彼に甘えなければ。
もし、もし……彼が死んでしまったら。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。逃げて逃げて逃げて逃げて。ダメだダメだダメだダメだ。止まれ止まれ止まれ止まれ。やめろやめろやめろやめろ!!!
これ以上、私から……奪わないで!!!
願い虚しく。
私の叫びは虚空に溶けていく。
「っ……やっば……!」
「【───チェックメイト】」
真紅の光が、彼の胸を─────…
「あぐっ……!?」
貫いた。
◆
貫かれた背から、真紅の光がまっすぐ伸びる。
「がっ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
口から血を吐きながら痛みに悶え叫ぶ。
予想以上だった。アレクは舐めていた。死という痛みを甘く見ていた。
胸から、腕が引き抜かれる。
心臓はもう、原型を留められないほどにぐちゃぐちゃになっている。
「はぁ……はぁ……ははっ…まぁ、いいか……」
古代呪法セミラス・エンデッド。
真紅の光に焼かれたものは、いかなる手段でも回復することは望めず。やがて塵芥となる禁術。
ましてや、心臓を貫かれたとすれば……
「えっぐいやり方でやりやがって……」
「【───そうでもしなければ、アナタを殺すことは不可能。最早、アナタはその域に達する者】」
「そいつぁどうも……何分持つかな……」
並の人ならば会話すら不可能な状態。
半神であるから故、何とか持ち堪えているアレクの生命力は確かに高い。だが、時間の問題だった。
……例え、彼の計画が、自分自身の死が引き金になるものだとしても。
「アレク!!!」
「お兄様!?」
「っ! ……悪ぃ、お前ら」
ニーファとユメが駆け寄る。
突如現れた二人の神徒に対して、ニーファは無傷で完全勝利し、空の彼方に蹴り飛ばした。
ユメは苦戦を強いられたが、駆けつけたニーファが神徒を腹パンして退ける事に成功した。
そして、世界都市の夜空を紅く染める閃光に気付いて、アレクの元に駆けつけ……今に至る。
胸に穴を空けたアレクを見て、二人は困惑と同時に悲鳴を上げる。死なないと思ってた彼が、今まさに死にそうになっていて、声を荒らげる。
ゼシアはそれを見て、ただ静かに浮いている。
「お、お兄様……っ、うそ……ですよね…?」
「……アレク、死ぬのかの?」
「ごめん……ははっ。二度目の死だぜ?」
笑い事ではないが……アレクは笑っていた。
そして……身体がボロボロと崩れ始め、アレクの身は塵となり始める。
神を確実に葬る為に与えられた、“死”。
「お兄様、本当に……本当に死んでしまうのですか……!?」
「……悪いな、ユメ…」
「嫌です……そんなの、嫌です……!!」
大粒の涙を流すユメは、崩れゆく兄の身体を、しっかり手で支える。
下半身が完全に崩壊するのを見て、指が粉になっていく様を見て……涙が止まらなくなる。もう、何が何だかわからないぐらいに。
否応にも、最愛の兄の死を突きつけられる。
「っ……ルーシィちゃん……!!」
ユメは縋るような目でゼシアを……いや、その中に眠るルーシィを見る。
でも、答えは帰ってこない。
もう、ルーシィは表に出てこれない。
ただ、無表情で死にゆくアレクを見つめるゼシアは、感情という人間性が一欠片も無いことが伺えた。
だが、だが。
ユメは見つけた。
頬を伝う涙を。
それが、ルーシィのものであると。
一欠片の奇跡を信じて、願って、手を伸ばそうとするが、それを隣に座るアレクに制された。
「ニーファ、ユメ、ルーシィ」
「! お兄様……」
アレクの声が、次第に弱まっている。
彼はニーファとユメ、ゼシアの中で自責の念に駆られるルーシィに声をかける。
「遺言、言っていい?」
「……うむ。良いぞ」
「はい……はいっ…!」
ニーファは真顔で、ユメは泣きながら、聞く。
「“常識で計るな”。以上、解散!」
「……なんです、それっ……」
「何巫山戯とるお主」
「叩くな叩くな。塵にさせるな」
最期の最後で巫山戯るアレクの頭を叩くと、頭頂部にヒビが入り、ボロっと崩れてしまう。
ギョとするニーファだったが、彼女はユメとは正反対に、すぐに冷静さを取り戻す。
「のぉ、お主……いや、やめておく」
「なんだよ気になるじゃん」
「ふん。続きは地獄で聞いてやるわ」
「………………ワァー、タノシミー」
全ての企みを開けやかにされてる気分がして、恥ずかしくなってきたアレクは目を瞑って、思う。
トラックに轢かれて、嫌々転生したのが始まり。
記憶を奪われ、記憶を求めず、記憶を封じられたままの生を真っ当していた。
前世とは比べ物にならない数の人と出会った。
やれ記憶を取り戻してみれば、目の前に立つ神竜に恋い焦がれていて。
生まれて初めての愛に戸惑いながら、彼女の手を握った。
全くもって楽しい人生だった。
終わらせるつもりなど毛頭ないが、頭打ちとなったアレクは、終止符を打つ為に……
肉体を手放す。
「なぁ、俺さ……」
痛覚は最早無いのか。アレクは笑みを浮かべ、手のひらのない腕を広げ……朽ちながら言った。
屈託のない笑みで、塵芥になりながら。
アレク=ルノワールは、
「今世は楽しかった!来世もよろしく!!」
笑って、散った。
アレクの企みとはなんなのでしょうか。
是非考えてみてください。
……第十章で直ぐに明かされますけど。




