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魔王の兄は転生者  作者: 民折功利
第九章 掌の上のお兄様

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平和は長く続かない

お久しぶりです

一ヶ月も更新が止まってた事に深い理由はないです。純粋に休んでました。

肉体は健康なのでご安心を。

では、本編どうぞ!


 世界都市襲撃事件。

 度重なる攻撃によって戦力の低下が見られていた世界同盟を狙っての攻撃……ではなく、世界都市に住む市民が無差別に襲われる。

 商業地区、時計塔、ユグドラシル中央学園、青の港、太陽教大聖堂、魔法学総合研究所、中央公園。

 この7つの施設が同時に襲撃を受けたのだ。




───時計塔


「いやー、絶景絶景。も少し日が暮れてくれると嬉しいんだけどなー!そう思わん?」


 屋根の上で弾む声をあげる道化師は、地上に向かって爆弾を落としていたが……ふと後ろを向き、真っ直ぐ自分の元に走ってきた敵を見る。

 そこに立っているのは、獅子の如く鍛え上げられた肉体を持つ王女───フェメロナ。


「知らん。絶景とか興味もないわ」

「わかる。俺っちも言ってみただけだもん」

「変なやつだな」


 彼女がここに登って来たのは、爆弾が空から降ってくる前。そう、道化師が暴れる前に来たのだ。

 フェメロナは嗅覚と直感で、ここに行けば何かいると思って、真っ直ぐ登って来たらしい。


 拳をポキポキと鳴らしながら、フェメロナはやりがいのありそうな敵を睨みつける。


「名乗れよ道化師。私はフェメロナだ!」

「俺っちは《道外の神徒ハーレクイン》。おまえら雑種を血肉に変えるのが大好きな道化さ♪」


 七色の髪を持つ道化師は、虚空から取り出した球型爆弾をジャグリングして笑みを深める。

 その内一つが輪から溢れて、床に落ちれば……


 緑色に発光して爆発。どういう仕組みか、屋根の一部が結晶化する。

 結晶の色は不気味な緑色。

 触れれば人体にどんな影響を及ぼすのか……フェメロナはわかってなかったが、直感でヤバそうだということは理解出来た。


 ただ一つだけ不可思議なのは、目の前の神徒がそれほど強そうに見えないこと。

 弱いわけでは無いはずなのに……


「楽しもうぜ?武闘派な猫ちゃん♪」

「獅子だ!二度と間違えるな!」

「キヒヒヒヒヒ!!わかったよライオンちゃん!」

「獅子だと言ってるだろうが!!!」

「えぇ!?」


 理不尽すぎて本気で驚いたのはまた別の話。




───ユグドラシル中央学園


「悪いアルネ。みーんな、死んでもらうアルヨ」


 中庭を悠然と歩く青白い肌の女。

 被った帽子には呪いのような文字が刻まれた札が貼られており、チラリと見える瞳には、その場で逃げ惑う学生達への、侮蔑の感情が宿っている。


 女が歩けば、足元に広がる草が枯れるように、いや腐るように茶色く変色していく。

 それを見た学生達は、二つに別れた。


「きゃー!」

「な、なんだ!?なんだアイツ!?」

「やべぇ、やべぇよ!!」


 脱兎のごとく逃げ始める者。


「クッソ!学園も襲ってくんのかよ!」

「後輩たちを先に逃がせ!」

「穿て!《フレイム・ランス》!」


 戦闘経験がある故に、攻勢に出る者。


 状況としては逃げるのが正解だろうが……

 何人かは覚悟を決めていた。神との争いに、学生である自分たちが駆り出されることを。


「弱きモノが足掻くナ。さっさと死ぬヨロシ」


 それに対して、冷たい視線を向ける女は、両手をダランと前に伸ばして……弱者を呪う。


「う、ぐぅ……!」


 首が勝手に絞まる。

 見えない手に掴まれているような感覚。透明な手があると思って首元を漁れば、何もない。

 そのまま窒息死しかける学生達。


「抗うナ。死は確実アル。肯定し───ロ!?」


 しかしそれは阻まれる。


「ほっほっほっ。大事な生徒を穢すのは止めてもらおうかの」


 女に向けて特大火球を投げつけて来た老人。

 齢100年を超える人間であり、魔法界の第一人者であるこの学園のトップ。


 ジェイド・グリモワール。


「老耄に用はないアルヨ」


 吸血鬼である自分よりも遥かに多い魔力量を持つと、肌で感じた女は札越しにジェイドを睨む。

 その視線を受けてなお、ジェイドは好々爺じみた雰囲気を消さずに言葉を紡ぐ。


「儂は用がある。何せ文献でも有名な吸血鬼の末席がこの場に居るのだから。そうであろう?」

「………そんな有名になった覚えは無いアル」

「あぁ、真祖に負けた敗北者として有名さ」

「っ!!」


 尚、その文献はどこぞの銀髪が妹の為とか言って燃やしたのでもう無い。


 沸点が意外と低い吸血鬼……《無明の神徒アイル》はギロリと老害を睨んで舌打ちをし。


「殺してやるネ」

「ほっほっほっ。血気盛んなことで」


 学園の明日が懸かった戦いが始まった。




───青の港


「命令とはいえ、やる気は出ないわね……」


 港に立つ緋色の粘液を纏う痴女がいた。

 ……正確には、人体以外を溶かす粘液のせいで服が着れない可哀想な痴女だが。


 《緋液の神徒ヌイ》は虚脱感を纏っていた。

 主と言っても自分が信頼している主ではなく、その身に巣食う方の主からの命令故に。

 彼女が従っているのは、あくまでもルーシィ。

 ゼシアに従う理由は、ただ一つ───…


「───《赤の海》」


 堤防の端っこに立っていたヌイの足元から、緋液が溢れ出て、港を勢いよく飲み込み始める。

 船や施設に緋液がかかり、そのまま覆っていく。

 ただ緋液に飲み込まれるだけで被害は少ないように見えるが、港の機能を停止させることは可能。海は赤く染まっていき、船の動力部に侵入して故障させていく。


「ごめんなさい」


 そう謝るのは誰に対してか。

 彼女に近付く気配に対してなのかもしれないが、それはヌイだけしか知らぬこと。


「あらも〜!綺麗な港をこんなんにしちゃって!イケない子なんだから!」

「アナタは…………えっと…」


 筋骨隆々の大男。しかし、女性のメイクをバッチリ決めている世界最強の武闘派オカマ。

 どこぞの鉄剣もってる最強とは違い、魔法も長けている拳闘士は無邪気な顔でヌイの前に来る。


 世界に三人しかいないSランク冒険者の一人。

 ラトゥール・ラブラプス。


「ラトゥールよ♡気軽にラトちゃんって呼んで?」

「………敵なので呼ばないわ」

「あら、それは残念」


 心底残念そうに首を振る彼ラトゥールは、戦闘態勢に入ったヌイに向けて、魔力を込めた拳を見せ。


「可愛い女の子に手を出すのは気が引けるけど……ごめんなさいね。私ってば、手加減は苦手なの♡」


 大きく振りかぶった。


「っ………嫌な人と当たった…!」


 正直言ってSランクを相手したくはなかった。

 絶望を感じるヌイであった。




───太陽教大聖堂


「この施設を壊せば!憎き太陽の力も弱まるならば!ソレガシ、この身を持って馳せ参じるなり!」


 溶けた人の顔に、獅子の鬣と顎、虫の触覚、一つの瞼の下に重瞳という複数の目を持つ異形の頭。

 上半身と下半身にも、人と獣と虫のあらゆる部位を接合、融合したような不気味な特徴を持つ大男が、聖なる大聖堂の前に、空から落ちてきた。


 それと同時に、大聖堂に向けて攻撃を始める。

 腕を振るえば関節があった腕は不可思議な程に伸びて障害物を薙ぎ払い、臀部から生えた尻尾を勢いよく振り回せば空気ごと建物を切り裂く。


「わはははははは!ソレガシの名はモスダート!世界最強の怪人!《怪人の神徒》であるなり!!」


 誰かに向けた訳でもない自己紹介をする神徒に向けて、慌てた様子で武装集団が防衛に出る。

 教会が保有する武装組織“聖騎士団”。

 神の名のもとに活動を許された矛と盾であり、信仰を守る為の信徒。選び抜かれた精鋭で構成された聖騎士団は、ただ大聖堂を守る為だけに動く。


「陣形!《クラール》!展開!」

「神の御加護を!!」

「邪悪を滅ぼしたまえ!!!」


 聖なる加護を授かる彼らは、モスダートに向けて聖槍を突き刺さんと飛びかかる。

 回復魔法による常時回復と、鎧に付与された身体強化によって常人よりも万全の状態で挑める彼ら。

 そんな強敵を前に、モスダートは興奮した様子で笑みを浮かべて……


 全ての攻撃を受ける。


「ぐふっ……わはははははは……!!」


 嗤う。ただ狂気的に、笑みを深めて。

 聖槍は刺さった。

 だが、モスダートはそんなもの効かぬと言わんばかりの笑みを浮かべて、暴れ続ける。


「なに……!?効いてない、だと!?」

「やはりこやつも神徒……一筋縄ではいかぬぞ!」

「怯むな!ソレイユ様のお加護を信じるのだ!」


 聖騎士団は、破邪の効果を持つ聖槍で突き刺しても死なないモスダートに対して、不気味な見た目をした神徒という存在に恐怖を覚える。だが、同時にそれを葬ることは崇める太陽神に貢献できると、彼らの信仰心は導き出した。

 そして、それは事実であり……


 彼らにとって、難しいこと。


「効かぬなり!《超人脚(スパーラル)》!!」

「ぎゃっ!?」

「なに……鎧が紙のように……!?」


 モスダートは足を刃のような形に変えて、迫っていた聖騎士を鎧ごと斬る。致命傷にはなっていないようだったが、重傷となった聖騎士は倒れる。

 その背を踏みつけて、高らかに彼は叫ぶ。


「ソレガシは最強!あらゆる生物の力を手にした最強なり!貴様ら程度、簡単に潰してくれるなり!」


 最強を叫ぶモスダートは、勢いよくその両腕を振り下ろして。


「《超人腕(スパーキー)》!!!」


 電撃を放ちながら、敵を殴り殺そうとする。

 その攻撃の先には、盾を構えるのが遅れた聖騎士が居て。

 もう助からない、そう誰もが確信した、その時。


「《鏡》」


 たった一言の声が救いを授ける。


「!? なんだ、これは……!?」

「この力…この加護は……!」 


 聖騎士達が振り向けば、大聖堂の扉を開けて悠然と歩を進める一人の青年がいた。

 身に纏う法衣が、彼を高位の信徒を証明する。


「フィリップ司祭!」


 フィリップ=アステノイド。

 枢機卿の一人を祖父に持ち、父は聖騎士団団長、義理の妹は勇者の仲間をしている特別生。


 そして、鏡面神という古き神の加護を持つ。


「神の聖域を穢す愚者を、私達が許すわけもない」


 彼の背後から、続々と聖騎士の増援が現れて。

 大聖堂にいる全ての戦力が、モスダートという殺しても殺せない大敵を滅ぼす為に集結した。


「護りは私にお任せを」

「「「はっ!」」」

「わはははははは!面白い!面白いなり!!!」


 聖なる戦いが幕を開けた。




───魔法学総合研究所


「ここが現代の叡智の結晶……俺とは方向性が違う分野ではあるが、見てみるのも悪くないだろう」


 大きなフラスコを背負った、血の着いた白衣を着ている研究者。

 彼はあらゆる魔法を開発する研究をする施設を前にして、研究者としての顔つきで見る。外から見ても分かるほど、精密に作られた結界を称賛する。


「素晴らしい出来だ……ここのトップを吸血鬼化させれば、我々は更なる進化を遂げるのでは……!」


 嬉々とした笑みを浮かべて、研究者は攻撃の構えをとる。

 背負っているフラスコに繋がれたホースに、毒々しい色合いの液体を流し込んで。


「さぁ、実験ショーの始まりだ!!!」


 結界を溶かし始める。


 勢いよく放射された液体は、結界という魔法に直撃すると同時に、その構築を分解していく。

 縫われた布を解すように、糸をバラバラにするように。


 結界が破壊され始めると同時に、警報が鳴り響く。滅多に鳴らぬアラートに、所属する研究者や魔術師が恐怖に怯えたり、狂気的に笑う中。

 誰よりも早く、入り口に現れた男がいた。

 無数の鉄の兵団を引き連れて。


「クフフ……これが、其方の戦力か……!」

「生憎と……相手に合わせる時間がない」


 魔法学総合研究所所長、アルトテリス。

 実は孤児のクロエラを拾って育てた張本人であり、あの狂気っぽそうでそうでない彼の人格を構成するに至った素晴らしい過去を作った御仁。

 本人は不服であるが。

 なんであんな風に育ったのだろう。もう少し他人への迷惑とかを考える心を育てるべきだった、と。


 アルトテリスの背後に控えるは、鉄の兵団。

 先日オークションにて暴れた機械兵団のようにも見えるそれは、彼が自分で作った完全オリジナル。

 銃やら近代兵器やらは詰め込んでいないが、魔法によるビームサーベルなどを仕込まれた作品達。


 隊列を乱さず、鞘から抜いたビームサーベルを構えて、主であるアルトテリスの背後に並ぶ。

 その忠実なコマンドを見て、目の前にいる男の素晴らしさを肌で感じ取った神徒は、本心からの笑みを浮かべて、彼を讃えて。

 名乗る。


「俺は《淵妄の神徒ディアジム》。禁帝神サマに従う忠実な生物学者だ」

「……アルトテリス。それなりに有名な者だ」


 瞬間、ディアジムの足元に穴が空く。

 穴は広がり、底の無い闇が広がっていき……


 不気味な身体の人間達が這い出てくる。


「……それが怪人、か」

「ご名答。俺が作った可愛い作品達さ」


 百を超える人智を超えた怪物達と、千を超える人智を超えた機械達が、群れを生して激突した。


 魔工学と生物学の、優劣は決まるわけではない。




───中央公園


「…………………」


 本来なら多くの子供で賑わうその場所。

 世界樹の葉の下に広がるこの中央公園には、彼を除いて人はいない。全員が、その場にいる彼から発せられた圧によって逃げたのだ。


 彼は直接的な危害は加えず、ただそこにいる。


「………やぁ、初めまして。騎士さん」

「アナタは……そうですか、アナタが……」


 そんな彼の元に、空から優雅に降り立つ青年が。

 ヘルアーク王国の王子であり、次期国王。太陽神の加護を一身に背負う身も心も白い美青年。


 ミラノ=ヘルアーク。

 彼は、公園を無人にした原因であるこの男……神の騎士ユステルと対峙する。


「お嬢様の為とはいえ……こんなことをするのは本心ではありませんが」


 《犠牲の神徒ユステル》は、帯刀していた神剣を鞘から引き抜いて、ミラノに向ける。

 その剣の名は《犠牲剣サークリフ》。

 装備者の怪我や死そのものを無かった事にできる不死身化の剣。


 吸血鬼を真の不死身へと変える代物。


「君を殺します。太陽の子よ」

「私はあなたを止めます。忠実なる騎士さん」


 太陽の加護を纏う神剣、紅陽剣シェメッシュを手に持ったミラノは、切っ先をユステルに向ける。


 両者共に、相手を侮る気持ちはなく。

 倒すべき敵として、守るべきものを守る為に力を振るう。片や未来の国王ではあるが、彼は守るべき民を、人の為ならば、力を使うことを惜しまない。


 ミラノの視線と、ユステルの視線が絡み合い。


「参ります」

「こちらも」


 ただ静かに、神剣は交わった。




───商業地区


「あらあら、物静かそうな見た目のわりに……戦い方は荒いのですわね?」

「これでもー、森の化身ー、だからねー」


 おつかいが神徒の介入で失敗したプニエル達を逃がしながら、ナチュレは自然を操る。

 相対するのはレティーナ。

 禁帝神の神徒であり、《死灰》の名を授かる魔族型吸血鬼。


 触れればほぼ即死の灰を広範囲に降らせながら、手に持つ扇で竜巻を起こすレティーナ。

 ナチュレは自然の化身の名の通り、建物や地面から大樹を生やしてそれをぶつけたり、蔦を鞭のようにしならせて敵ごと建築物を切り裂く。


 どちらも広範囲に被害を及ぼしているが、一見被害が多く見えるのはナチュレ。レティーナの灰を防御せずに浴びているせいで、所々身体の一部が溶けてしまっているのだ。

 あまりにも凄惨。

 しかし、ナチュレは悲鳴を上げる事無く植物を操ってレティーナを仕留める為だけに暴れる。


「やはり、大自然相手に(わたくし)の能力は劣勢となるのね……ふふ、やりがいがあるわね」

「ぜーんぜん楽しくないよー」


 そもそも痛覚という感覚が無いナチュレは、灰に侵されても堂々と立っている。

 と言うよりも、肉体がそもそも人間ベースではないのだろうか。植物が欠損部から生えて融合し、普段の白っぽい肌の色に変色して元に戻している。


 植物があれば永続再生できるナチュレに対して、死の灰と暴風を操るだけのレティーナは不利。

 だとしても、彼女は楽しそうに笑っていた。


「楽しいわよ……なにせ、《四神源徒》の1柱を倒せるのだから。その誉れ、誰でも求めると思いかますわ」

「えー。他の三人狙おうよー」

「ここにいるのはアナタだけですわ」

「……確かにー」


 納得しながら、ナチュレは口をモゴモゴさせる。

 それを見て顔を顰めたレティーナは、すぐさま危機を察して横に飛んだ。

 その動きを看破していたとでも言うように、ナチュレは口から風船ガムのような膨らみを作り……


「《妖蓮花》ー!」

「ッ!《疾》!」


 破裂。

 風船ガムのような花の膜の中から、大量の歪な形の種を吐き出す。

 その種は、触れた者の肉体に侵入し、魔力などを吸い取り開花する。


 レティーナは風を足に纏わせて離脱を計り、その余波で周囲の風を操り向かってくる種を避ける。

 風の壁は、普通の種ごときならば防げただろう。


 だが。


「なっ……やはり、一筋縄では行きませぬか」

「風は命を運ぶー。けれどー、芽生えを邪魔することはできないー……これは、常識ーだよー?」


 種は風の壁を突き抜けて、レティーナの身体に激突し……そのまま、肉体にめり込む。

 魔力を種から吸われ、体が悲鳴をあげる音を聴きながら、ニヤリと笑う吸血鬼を、ナチュレは説く。


「君はねー、やっぱり愚かなんだよー」

「……クスクス、侮辱ととってよろしくて?」

「君の父や兄はー、あんなにも偉大なのにー」

「……………………その口、縫い付けてあげますわ」


 わかりやすい激情。そして劣等感。

 地雷を踏んだナチュレは、然もありなんといった様子で顔を歪めるレティーナを眺めた。

 言葉を紡ぎながら。


「君はー…勝てないよ。彼の直系には、特に」

「! 死ね!《龍の(あぎと)》!!」


 正確には直系卑属……子孫。

 自分自身でもわかりきっている故の怒り。灰を乗せた暴風の塊をナチュレにぶつけるレティーナ。

 今ここで彼を殺さねば、自分の優越感は消えてなくなってしまうと、確信しているから。


 それほどまでに、彼女にとって家族は嫌いな要素でしか無かった。


 叩きつけられる暴風の塊。身体を切り刻まれるナチュレだったが、優しげな笑みで首を傾げた。

 包帯で隠された目には、何が篭っているのか。


 必要分の魔力を、吸い終わる。


「………無駄だよー」

「がっ……きゃっ!?」

「種は芽生える……開花するのは、当たり前ーだよねー?」


 レティーナの身体の至る所から、気持ちの悪い色と形をした花が咲き乱れる。

 その正体は、先程植え付けられた種。

 開花する為の魔力を吸い終わり、彼女の動きを束縛する枷となって咲き誇る。


「ぐ……趣味が悪い花だこと」

「それー、吸った魔力の質によって変わるんだー」

「っ……ぶち殺しますわよ」


 例え身体を拘束されても、灰は降り続ける。

 殺意を一切見せない森に神徒に不快な気持ちを抱きながら、レティーナは灰の降下範囲を広げる。


「クスクス……身動きできないぐらいで、空は私の色に染まりますわ」


 しかし、目的は既に達している。

 後は目の前の障害を除いて暴れ帰るだけでいい。それは拘束されながらでも、できる。

 問題は、ナチュレがどう動くか、だが。


「まー、僕はーえーっと、不殺ーっていうのを掲げてるからー……暫くそこに居てねー」


 そう言って、ナチュレは地面に潜り……


「………我ながら、無様なこと」


 溜息を吐くレティーナが残されたのだった。




 ────…そして、その頃。


「トゥルーエンドを目指そうぜ」


 無邪気な笑顔で、世界樹の枝の上に立つアレク。


 彼はただ眼前の惨劇を見ながら……魔力を練り続けている。

 何かに備える為に。

 何かを助ける為に。


 ただ結局は、己の為に。

投稿頻度が一週間に1回だと進みがやっぱり遅い。

ちょっと手を抜いてきた感があるので、これからは割と頻繁に投稿します。

がんばるぞー!

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