はじめてのおつかい
最近は経済とか色んなものが混乱している。
本当に四墮神は迷惑極まりないので死んでもらいたい。ルーシィは除く……あ、もう一柱死んでんだったな。
天父神と機甲神と禁帝神許さん!
で、なんで今回、経済だのなんだのって話になったかと言うと……
「プニ、おかいものしたいー!」
「デミもー!」
「ご主人様!」
「〜〜〜♪(いきたーい!)」
「父様!お願い!」
子供たちがお買い物したいと騒がしいのです。
事の発端は2日前。転生者達の襲撃の次の日に、ニーファとプニエルの三人で商店街を歩いていた時に、プニエルがおっきなケーキにご執心。買っても良かったんだが、この子が言った一言はこちら。
「プニがかいたい〜!」
で、ある。
これに触発されたデミエル、ウェパル、エノムル、タマノちゃんがも買い物の主張を開始。
現在に至るというわけだ。
うーん、気持ちは分かるんだけど……今のご時世なぁ。危ないんだよ、外は。いつ敵が襲ってくるかもわからないし。
……あ、そうだ。そういえば《《今日》》か。
危ないからナチュレを密かに連れてかせよう。
「ナチュレ〜、おまえ今暇?」
「んー?暇だよー?」
「ごにょごにょ…」
「?……うん、わかったー」
ナチュレの壁や床に潜れる術は隠遁能力が凄いからな。そんじょそこらの敵にはバレないだろうし、プニエル達も気付かない筈。
「仕方ない、はじめてのおつかい、良いよ」
「「「「やったー!」」」」
手を叩き、跳ねて喜ぶ五人。
はじめてのおつかいとは言うけど、実際はプニエルが欲しいケーキを自分で買いに行くなんだけど。
はじめてのお買い物の方が正しいかな?
「楽しんで来なー?」
「はーい!」
こうして、五人のお買い物が始まったのである。
◆『はじめてのおつかい』START☆!!!
「ふっふふーん♪」
ご機嫌な様子で街を歩くプニエル。その後ろを楽しそうについて行く子供たち。
目的はケーキ。人目見て気に入ったもの。
みんなで分けて食べるんだ。独り占めはしない、それに……いつもお世話になっているから。
渡された、販売価格よりもかなり多い額のお小遣いの入ったカバンを肩掛け、プニエルは歩く。
「プニ、うれしそーだね〜!」
「うん!」
デミエルの声に、心の底から嬉しそうな声で答える。瓜二つの顔を持つ妹分と手を繋ぐ。後ろにはウェパルやエノムル、友達であるタマノもいる。
最近はアレクとの二人っきりの冒険だった。ユメたち親達と触れ合うことも多かったが、基本的にマスターである彼と一緒だった。そこにニーファが加わり、メリアが入り、妹が増え、友達ができた。
ただのエンジェルスライムは、今日も好奇心とワクワクに連れられて生きる。
「あった! おみせ〜!!」
「目的地はアレなのですか?」
「うん〜!」
ウェパルの疑問に答えながら、視界に入ったケーキ屋さんに足を向ける。目指すは生クリームマシマシスペシャルケーキ。プニエルは生クリームが大好きなのである。他のスライムたちもそうだが。
タマノちゃんは嫌いではないが特別好きというわけでもない。食えないわけではない。
「いらっしゃいませー」
入店。愛想のいい女店員に出迎えられ、色とりどりのケーキに囲まれる。鼻腔をくすぐる甘い匂いに釣られながら、我慢して目的のモノを選ぶ。
「これくらさい!」
「はい、お金は持ってる?」
「うん!」
生クリームが大量に乗せられたケーキ。いちごやキウイなどの果物が白い海に浸かっているようだ。
包装してもらい、お金を渡し、会計を手短に終わらせる。その際、ウェパルやタマノからのフォローがあった事を付け足しておく。
「〜〜〜♪(かえろー♪)」
「うん、かえろ!」
エノムルの声に頷いて、退店。店員の言葉を横耳に、子供たちは帰路につく。しかし、無駄に多く渡されたお金があることで、帰り際に玩具や駄菓子に手を出すのはご愛嬌。それも視野に入れての金銭讓渡だったので、問題は無い。
「いっぱいかったね〜」
「おもーい」
「むむ、む…!」
「持とか?」
「〜〜〜♪(いっぱーい)」
日は落ちる。
プニエルは両手でケーキの箱を持ち、デミエルは玩具がたくさん入った袋を抱え、ウェパルは両腕でお菓子を持つ。タマノはウェパルと同じ量を持ってながら、手伝おうと手を伸ばす。エノムルは皆より多くの物資を持っている。子供の買い物にしては多すぎるが、欲しいものがいっぱいあったのが悪い。
「……んん?」
空から白い何かが降ってくる。
「なにこれー?」
「……灰?噴火しました…?」
「? 灰…?」
ウェパルとタマノがキョロキョロと降ってくる灰を見て疑問符を浮かべ……
タマノは気付く。
「!? 神気!?」
「え?」
神気。神が持つ力であり、攻撃などに含まれる科学的に説明ができない粒子。
それが、灰と共に降ってくる。
「か、かえろ!」
「うん!」
怖がるデミエルに従って、学園寮に向かって小走りに走る。
しかし、荷物が重いせいで進みは遅い。
灰は降り続ける。世界都市、プニエル達の上……つまり、商店街内に降り続けていた。
降りた灰は人肌に触れ、その身を──…
蝕む。
「あがっ!?い、痛い…!?」
「なんだこれ、なんなんだ…!!?」
「たす、助けて…!」
身体が溶ける。徐々に徐々に、時間をかけて溶かされていく。
被害に合ってるのは、どれも男。
それも屈強な体躯の持ち主だったり、むさい男らしい感じの男性ばかり。子供や顔立ちの良い青年などは被害に合っていなかった。
それは勿論、プニエル達も。
「な、なにこれー?」
「こ、こわいぃ…」
「早く、行こっ…!!」
「〜〜〜!?(不思議!?)」
「荷物置こ!」
買ったばかりの物を置いて、走る。しかし、プニエルだけはケーキの箱を捨てない。
自分が食べたい為だからではない。
大切なものだから。
いつもお世話になってる彼に、あげたくて。
「きゃっ…!」
ぶつかる。目の前に立っていた灰色のドレスにぶつかって、プニエルの大事なケーキが箱ごと落ちた。
「あ、あぁ……うぅ…」
泣くのを我慢する。今ここで泣いたら、ダメだと思ったから。
他の面々は、固まっていた。
プニエルがぶつかった相手からの、プレッシャーによって。
「……あらあら。どこの童かと思えば。かの有名な彼のところの小娘たちでないの……」
死の灰を降らす、ドレスの女。
プニエルも、言いようのない恐怖で身を竦める。隣に立って怯えるデミエルの袖を持って。
「そうね……消してしまいましょう。ふふ、さすれば、激昂する彼の姿が見れるのかしらね?」
口元を隠していた扇を、プニエルに向けた。
「や、ゃぁ……」
「やではありませんの。必然なのですわ」
絶体絶命。死の危機が身に迫る。
しかし。
「ストッープ。だめーだよー…!」
「!」
「あっ……ナチュレぇ…!」
壁や床から長い蔦が伸び、突き刺さり、女と子供たちの間に仕切りをつくる。それをやったのは、ストーカーという名の護衛を任されていたナチュレ。
「私の邪魔をするの?《森の神徒》」
「僕はー、アレク君のー陣営だからねー《死灰の神徒》さんー」
包帯で隠された目と、真紅の闇の瞳が睨み合う。
「吸血鬼がー動くにはー、まだ日が出てるよー?」
「ふふふ、私は他の奴らとは違うのよ……そう、王の血を受け継ぐ者なのだから!」
二つの神格が、ぶつかる。
片や子供たちを守るために、片や全てを蝕む為に。
「今宵は満月。吸血鬼の夜遊びの始まり始まり〜」
屋根の陰から世界都市を一望する道化が囁く。
死の灰が降る場所以外でも、吸血鬼の神徒による惨劇は起きている。それに対処するために、夜の攻防へと舞い降りる同盟の戦士たちの影。
はじめてのおつかいは、定刻通りに遅いに来た吸血鬼の神徒たちによって失敗に終わる。
「マシタ…」
プニエルの目は、涙で濡れていた。




