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魔王の兄は転生者  作者: 民折功利
第九章 掌の上のお兄様

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転生者VS転生者 後編


「なんか負けてね?」

「ぼかぁ戦闘風景すら見えないんやけど……」





 久我昂輝の世界同盟本部襲撃。

 それを阻むは天堂正樹。敗北した剣聖レミーロの代わりに、師匠の代わりに敵を討つ。


「《正義─・─執行》ッ!!!」

「無駄撃ちですよ」


 昂輝の広域斬殺攻撃を、聖剣で対消滅させる正樹。


 しかし、転生したばかりの昂輝と比べて、六年以上は勇者として活動している正樹との差は大きい。

 戦歴も、経験も、全てに差があった。


「なぜ!!俺の攻撃が……当たらないんだ!!」

「知りたい?後悔するよ?」


 正樹は無表情で、突きつける。


「君が弱いからだ」

「ッ!?」


 正樹は戦ってきた。

 山獅子、花の魔女、鬼王、魔王の亡霊、紅蓮スライム、冥王龍、移動要塞ローレッグ、死剣、百鬼夜行、クラーケン、増殖卵、柔剛、兵装etc…

 武闘大会では大天敵とも殺りあった。


 時には一人で、時にはパーティと共に。

 多くの敵と渡り合い、打倒し、和解し、滅ぼし……勇者としての研鑽を重ねてきた。

 新米の、真の勇者と吠える男とは、格が違う。


「出直してこい、自称勇者くん」


 言外に……お前は違うと。

 そう言われていると理解した昂輝は、怒りに頭を支配される。

 聖骸剣を握る手が震え、込める力が強くなる。


「ふざけるな……!!」


 怒りは力に、力は敵に。


「俺は勇者だ……俺は主人公なんだ……お前みたいな紛い物に、心を左右される存在じゃない……!」


 聖骸剣から邪悪な光が溢れる。

 触れた者を皆傷つける破壊の光。それは所有者の昂輝も例外ではなく。彼の手は火傷を負うように痣が広がっていく。


「死ねっ……《天羅─・─破断》!!!」





 最古ゆゆは目の前の敵を御しきれなかった。

 前世では、とある国の裏社会でそれなりに有名な暗殺者だった彼女を、少年は軽くあしらっていた。


 慣れたから。


「超高速連続ナイフ攻撃なんて五分もすれば目で追えるようになる。攻撃無効化なんて違法解析すれば簡単に対処可能になる。敵の身元なんて鑑定すれば素性からマル秘情報まで丸わかりになる」


 ゆゆの高速移動しながらのナイフ捌きを、獄紋刀を適当に見える動きでブンブン振り回して防ぎ、悠長に独り言を紡ぎながら余裕の表情を見せる魔族。


「最古ゆゆ、生まれは新潟、育ちは上海。“鴉”と呼ばれる男に育てられ暗殺者として大成。好きな食べ物は苺、嫌いな食べ物は師が作った青椒肉絲……」

「個人情、報ッ!!」

「知ってて流してるんですけど??」


 アレク=ルノワール。

 短期間の戦闘でゆゆのほぼ全てを問答無用、無許可で簡単に解き明かした姿はまるで犯罪者予備軍。

 しかし王族特権で全てが許される。


「転生特典は《天衣無縫》と《宵の使者》で……前者がさっきの攻撃無効化の主軸スキル。後者は分身を作り出して遠隔操作できる。……あ、確かもう使ってましたねー!これは脱獄されちゃいますね〜」

「ッ!全部、わかってて……!?」

「YEEEEEEEES!!!あの青…青ひ?青髭?えーっと何だっけ、あの青なんとか君には俺は興味ないのでお好きにどうぞ?俺以外は文句言うだろうけどね!」


 煽る煽る好きなだけ煽る。煽りたいから煽る。

 これがアレクオリティ。敵にいくら嫌われようとも関係ない。最初から警戒されてんなら無駄に慎重になる必要なんてねぇと。


 ……現に今、宮藤青久の地下牢前にはゆゆの分身が既に到着しており、解錠に成功していた。


 全てを見透かされているゆゆは、仮面の中で冷や汗を流す。予想外の連続が、身を襲っているから。


「くっ……!」

「ほらほらほーら、攻撃が当たっちゃうよ〜ん?」

「まだまだ…!」

「頑張れ〜……ん?お?ははーん?新手か」


 戦闘中だと言うのに、余裕綽々なアレクは更に天井を見上げ始める。正確には、更にその上。


「……?」

「良かったね、助けが来たみたいだよ?」

「ッ!まさ、か…!!」


 ゆゆが戸惑って驚いた瞬間、アレクはゆゆの背後をとって……背中を大きく強く蹴った。

 それはもう力強く。出口まで飛ぶ勢いで。


「きゃっ!?」

「もう帰っていいよ」


 そのまま視界の外まで吹き飛びそうだったゆゆを、突然現れて助けた青年がいた。

 白いフードを翻し、誰にも顔を見せない青年。腰には冷気を放つ刀を装備した転生者。


「じゃあ貰ってくわ」

「ッ!……ムクロ、さん…!?」


 白いフード改め、ムクロ。


「……は???」


 その光景を見て……いや、ムクロ単体を見て、苛立った感じの声を出すアレク。


「……なんだ、お前?」

「俺はムクロ。しがない死体だ」

「……ふーん」


 興味無さそうな振りをしながら、鋭い目でムクロを睨み続けるアレク。

 それに対して、困ったようにムクロは手を振る。


「なんでほんな怖い目してんの、俺なんかした?」

「……べっつにー?」


 不貞腐れたように答えるアレクに、ますます訳が分からないと首を傾げるムクロ。

 ムクロの腕の中で戸惑うゆゆは、既に蚊帳の外。


「あ、ゆゆちゃん、青久は?」

「救出、済み。別ルート、で外に、案内中…!」

「了解。よくやった」


 ゆゆを腕の中から解放したムクロは、アレクに向かって取り繕った笑みを浮かべて武器を構える。


 冷気を纏った……いや、霊気を纏う刀を。


「やるか?《大天敵(アークエネミー)》」

「……そうだな、やろうか」


 獄紋刀と霊気の刀が、一瞬で肉薄して切り合う。


「あぁー、そりゃ負けるわ。鍛錬の差がすげぇ」

「当たり前だ。転生して直ぐの連中にそう簡単に負けてたら、神なんて下してねぇよ」


 たった数度の剣閃で互いの距離を認識したムクロは、飛び避けて大きくアレクから離れる。

 逃げるために。

 というか……もう走り出した。


「そう簡単には逃がさないぞ」

「いやだねー!」

「ふっ───はい、取った」

「は?」


 ムクロはゆゆと共に脱兎のごとく逃げ出した。

 しかし、アレクが短距離転移でムクロの頭に手を触れていて……


「《■■■■》」

「ガッ!?」

「!?ムクロ、さん!?」


 頭に電流を流すように……周りに聞こえない声で放った魔法が、ムクロを侵す。

 あががががが……と震えるムクロを、倒れないように慌てて支えるゆゆ。

 それを無表情で見ていたアレクは……二人に向けて転移魔法を発動した。

 世界同盟本部の外へと。


「待っ──……」


 ゆゆの叫びを遮り、静かになる世界。


「………ふざけんなよ天父神」


 アレクは絶対に神を殺すと誓った。




「ぐ、はっ……!?」


 腕が切り落とされて、地に落ちる。


「終わりですか?」

「っ、ぐぅ……クソがぁ……!!」


 昂輝の右腕が……肩から無くなっている。正樹の聖剣でバッサリといかれたのだ。

 聖骸剣を左手で持ち直して、未だに戦って勝つことを諦めていない……いや、それ以外を考えていない昂輝に、正樹は溜息を着く。


 まるで、昔いたという愚かな勇者みたいだなと。


 戦意はあれど、力がない、覚醒する兆しもない昂輝に対して、正樹は慈悲のない殺意を向けた。

 聖剣を二本装備し、彼の胸に貫かせんと、足を前に踏み出した……その瞬間。


「ぎゃっ!?」


 昂輝の身体が……後ろに引っ張られた。

 何もいないのに、何かに引っ張られるように。


「っ……あっちは外……!」


 突然の事で反応が遅れた正樹は、縮地を使いながら昂輝の後を急いで追った。


 ……床には、昂輝の腕が落ちたままであった。





「《引きの手》……いやぁ、これホント便利」


 昂輝を引っ張った張本人。

 それは、茶髪のチャラそうな不思議言語の青年。


「がはっ!?」

「やっ、無事か〜?主人公くーん」


 本部の入口を破壊しながら、引き寄せられた昂輝が青年の足元に転がる。

 受け身を取れず、右肩から血を垂らしながら。


「ッ……俺は助けなんて頼んでない!余計な事をするな!弥勒(みろく)…!!」

「敗北者が語ってんじゃねぇよカス」

「ッ!?おまっ……!!」


 いつもは言わない罵倒を言われて、昂輝は更に頭の沸点を上げるが……無意味すぎた。

 正義を語る勇者は、真の強者の前では子供だった。


「わきゃっ!?」

「………」


 その時、ちょうどいいタイミングでゆゆとムクロもアレクの転移で現れた。

 それを見てニヤリと笑った青年、弥勒はよーく目を凝らして……ムクロが気絶しているのを見た。


「は!?ムクロ!?え!!?」


 この中で一番強い男が、倒れている。

 その事実に、彼は驚きを隠せなかった。


「ふぅい〜……やった!シャバだ!!!」

「……任務完了。解散」

「おう!ありがとな!」


 そして、脱獄した青久が現れ……分身体であるゆゆが霞のように消えて無くなった。


 天父神側の転生者が、全員集まって……


「勝利とも言えんやないかい」

「お?……うへぇ!?どうなってんの!?」


 弥勒の呟きと青久の驚きが重なった。


「へーい、昂輝くーん?技、使える?」

「……誰が使うかッ………まだ俺の戦いは終わってなどいないんだ……!!」

「いいから早くやれよ」


 弥勒が昂輝の首、そのスレスレを掠るように地面にアイスピックを突き立てた。

 明確な脅し。それに対して恐怖を抱く昂輝。

 ……と、見ていた青久。仲間がやべぇ奴ばっかなんだけどと心の中で泣き叫ぶ。


「……《天満》」


 昂輝の詠唱が、五人を光で包む。

 遥か上空にまで伸びた光の柱に包まれて、5人の日本人が本拠地に帰還する。


 そこに。


「くっ……なっ、五人!?」


 敵が逃げる姿を見て、数に驚く正樹が現れた。

 それを見た弥勒が、正樹と昂輝を見比べて……あっちが本物ってやつかぁと素で呟いた。

 昂輝は睨んだ。弥勒は鼻で笑った。


「ッ……」

「あ、ムクロ生きてる?」

「死んでる……」


 光に包まれながら、ムクロが起きた。

 既に五人の身体は透け始めていて……正樹が試しに投擲した聖剣が、霞を斬るように通り抜けた。


「おっかなっ……!」


 弥勒はその殺意に薄ら笑みを浮かべて、自分らの仲間の勇者とは大きく違う彼を見る。


「ばいばーい、ザコ共〜!……は?」


 その横にアレクもいた。いつの間にか。

 正樹もギョッと驚いた顔で数歩彼から離れた。いきなりすぎてビックリしたから。

 そして煽っていたアレクは、弥勒を見て更に顔を曇らせた。面倒くさそうに、とても嫌そうに。


 弥勒はその顔に……気付かなかった。


「ッ、おいお前、さっきのは──…」

「え、なんのこと?」

「ッ!………泣いていい?」

「だめ」

「え、何の話?」

「さっき気絶させられた話」


 ムクロの叫びは、アレクの素っ気ない返事で閉幕を迎えて。

 頭の中に面倒な話を持ち込まれたムクロは今後の展開に頭を悩ませる。

 文字通り。


 そして、光柱は強くなり、五つの人影すらも見えなくなってしまい……

 遠くの大地に消える。


「「人生なんてクソ喰らえだ」」


 アレクとムクロの言葉が……重なった。






 世界同盟本部襲撃事件。

 軽傷者104人。重傷者80人。死亡者120人。

 剣聖レミーロ=アイギーニ、全治半年の重傷。総合病棟にて入院開始……これ以上の戦闘参加は不可能と判断され、世界同盟本部衛兵隊を辞職。

 天堂正樹は無傷で勝利。


 敵損壊度、自称勇者の腕切断。最古ゆゆ背中を打撲。ムクロに厄介事の押し付け成功。宮藤青久は無事に脱獄。弥勒…広瀬弥勒は無傷で退散。


 アレク=ルノワールは……


「なぁなぁニーファ」

「む?なんじゃ?」

「前世の友人(笑)と並行世界の俺が転生してた」

「……は?」


 妻に衝撃の事実を訴えた。


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