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魔王の兄は転生者  作者: 民折功利
第九章 掌の上のお兄様

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転生者VS転生者 前編


 襲われた世界同盟の本部。

 突如、空から落ちてきた光の柱は本部の入り口前の広場に大穴を空け、二人の人間を連れて来た。


「ここが世界都市……壊すには勿体ない気もするけど、天命だから仕方ないな。許してくれ……」


 天父神が喚んだ転生者、久我昂輝。


「手早く、終わらせよう?」


 同じく喚ばれた日本人、最古ゆゆ。


 共に召喚された仲間である男……宮藤青久を助ける為に、二人の敵性転生者が現れて。

 世界同盟と天父神陣営の長きに渡る戦いの前哨戦の火蓋が切って落とされた───





 同刻、地下牢。


「今、助けが来た気がする……!」


 牢屋の中でナチュレの運気を奪う蔦で縛られて芋虫状態の青久は、予感を得ていた。

 自分を知ってる誰かが迎えに来たに違いないと。


 己の幸運が、やっと働き始めたと確信していた。


 宮藤青久が渡された二つの転生特典。

 盗みに特化した《盗神の招き手》という手を伸ばせばそこにある物を手に取れるスキル。

 そして《二想貝の祈り》という自身にのみ幸運を舞い降りさせる幸運招来スキル。


 弱まっていた幸運招来の力が、日数を重ねに重ねて舞い降りたのだった。





 二人は同時に動き出した。

 本部の扉が開き衛兵が武器を構えて走ってきたのだから。同時に、本部の外周部からも続々と武器を構えた衛兵が集ってきていた。

 悠然とした態度で、二人は武器を構えずに、入り口に向かってただただ歩く。


「侵入者発見!二人です!!」

「お前たち!何者だ!」

「ここが何処だかわかってるんだろうなぁ!」


 衛兵たちが口煩く吠えているのをBGMに、主人公としての役目を与えられた男、昂輝が剣を呼ぶ。


 久我昂輝は仲間思いな素直な人間だ。

 そして彼は勝つ為に戦う。

 だからこうして、仲間を助ける為ならば、戦える場を与えられたのなら。神から与えられた聖剣で、彼は人を殺す事も厭わない。

 その後押しを、勇者という肩書が更に押していた。


「来い、《聖骸剣ロストヴォレア》…!」


 聖なる光が手に満ちて、光が蠢き、形を得てギザギザの刀身を持つ処刑剣……否、聖剣が現れる。

 何人もの悪を罰してきた聖なる剣。


「偉大なる神に仕えし《秩序の勇者》久我昂輝!…覚悟しろ、俺は世界の為に、お前たちを倒す!!」

「最古ゆゆ。障害、は全て……殺す」


 一閃。

 昂輝の聖剣の一振りが、迫って来ていた衛兵数名の首だけを斬り落とす。

 無音。

 ゆゆが目にも止まらなぬ速さで動き、ナイフ二本で衛兵らの頸動脈を斬る。


「人を殺すのは、もう慣れた」

「人を殺す、のは……私の、十八番」


 斬殺。侵入を邪魔する衛兵のみを斬り殺してから、昂輝とゆゆは扉を破壊する。

 誰にも彼らを止められないと思われた。

 しかし、それを止めた猛者が現れる。


「お待ちを」


 彼らの進路を阻む初老の執事。

 手に長刀を持って毅然と佇むその男の名は、レミーロ=アイギーニ。

 かつて《剣聖》と呼ばれた男である。


「《剣聖》……!」

「老いた身ではありますが……一人ぐらい、足止めさせて頂きます」

「……任せ、ました」

「あぁ!俺が相手しよう!剣聖!!」


 任された昂輝は老いた剣聖を超えるべき敵と定める。

 ゆゆは、先を急ぐ為に壁を蹴ってレミーロの横を抜ける。その際に首元をナイフで狙うが、彼の長刀で簡単に防がれる。


「抜け目のないお嬢さんだ」


 余裕の態度に見えども、鋭く細められた目からは熱の篭った戦意が秘められていた。

 彼の目に睨まれたゆゆは、恐れずに無言でナイフを彼から離し、奥へと消えて行った。


「俺の名は《秩序の勇者》コウキ、久我昂輝。神の名のもとに、使命を果たさせてもらう!」

「世界同盟本部衛兵隊・第一部隊隊長レミーロ=アイギーニ。かつては《剣聖》と呼ばれておりました」


 名乗りを上げ、二人の英傑がぶつかり合う。


 聖剣と長刀が剣閃を残して、何度も何度もぶつかり合う。奏でられる金属音は空気を切り裂き、二人の間合いに他者を近寄らせない。

 遠目に戦闘を眺め、助太刀をしようと考えていた衛兵たちは、その激戦を前に何も出来ない。


 レミーロの長刀、名を《晩蟬(ひぐらし)》。

 この世に二つと無い名刀であり、彼以外には振るえないと言われる程の力を持つ武器だ。


 この世界に来てから僅か一年の昂輝も、聖剣を振るう腕前は最早超人の領域。

 もし彼が世界同盟側の陣営に居れば、正樹と共に凌ぎを削りあえたかもしれない程の実力を持っていた。


「いい腕前ですな」

「くっ……その余裕の構え、崩したい!!」

「叶いませぬぞ」


 冷静に剣戟を対処するレミーロ。ただ聖剣を振るっているだけでは埒が明かないと判断した昂輝は、聖剣の力を引き出す為に力を込める。


「行くぞ!《正義─・─執行》ッ!!!!」


 聖骸剣から歪んだ聖なる力が溢れ…───斬る。


「ッ!!」


 レミーロは咄嗟に避ける。しかし、己の真横を過ぎ去った剣閃によって左手の指が一本、逝く。


 直線上に居て、避けれなかった衛兵、避難しそびれた議員、守っていた壁は縦に切り裂かれた。

 悲鳴を上げる隙も与えずに、一瞬にして斬り殺された全ては、光で切断面が焼かれた事で血を出す事すら叶わずに事切れる。


「なんということを……!」

「やっと余裕が無くなったな!」

「っ、これは……やられましたな」


 ただ余裕を奪いたいから大技を放った。

 その過程で人が何人死のうが、綺麗な景観がぶち壊れようが気にもとめない。


 昂輝の宣言通り、余裕を奪われたレミーロは、感嘆しながら、迎撃体勢から殺す為の姿勢に入る。

 少し遊びすぎたと後悔しながら、目の前の害敵を排除するために。


 昂輝も、相手が本気を出したと察して自身も気合を入れて聖剣を構える。

 好戦的な笑みで、与えられた天運に思いを馳せる。


「お覚悟を!」

「来い!」


 再び、二つの剣が火花を飛ばして交わった。





 最古ゆゆは元ストリートチルドレンだ。

 日本人の血は流れているが、チャイナな隣国に捨てられて、そこから15になるまで生きてきた。

 奪い奪われ殺し殺され。

 そんな横行が当然として起きていた無法地帯。


 そこで生きてきたゆゆは、楽しいという当たり前の事を知りたくなって、転生という道を選んだ。


「ここは通行止めでーす。此方の通路に曲がって、遠回りをして頂いて先へとお進みくださーい」


 ……不思議と足が止まる。

 目の前で、通行止めの標識を立てて、わざわざ土砂を撒いてネタを仕込んでいる銀髪の魔族を見て。


「……アナタが、噂の、魔族さん?」

「人違いでーす」


 ツギハギの仮面から見える彼の姿は、魔界執行官を示す黒い軍服の正装。

 既に手には獄紋刀が握られていた。


 土砂を足で異空間に蹴り入れながら、楽しくもない敵同士の会話を続ける。


「……って言いたい所だけど、多分俺の事だな。どうも初めまして。アレク=ルノワールです」

「初め、まして。最古ゆゆ、です」

「一つ質問。それ地毛?」

「地毛、です」

「そなのか〜」


 ピンクの地毛かぁー、どういう血統なんだー?と悩みながら目の前に立つ日本人を睨まず眺める。

 濃い緑のフード、ツギハギの仮面、ダランと下げられた両手に握られた黒いナイフ。

 どっからどう見ても裏社会の住人に見えた。


「悪いけど……こっから先には行かせない」


 すっごく面倒臭いけど。なんなら青久っていう悪人はさっさと処刑してお茶を濁そうとか考えてないったらない。

 ……捕まえずに殺しとけば良かったなんて思ってないったら思ってない。


「無理…私は、私たちは、目的、を果たす」

「さいですか」


 アレクは獄紋刀を鞘から抜いて、切っ先をゆゆに向ける。


「じゃあ……始めようか」

「うん、よろ、しく……アレク、さん?」

「よろしく、ゆゆさん」


 黒い妖刀と黒い短剣が激突する。


 ゆゆが繰り出す二つのナイフの乱舞を、獄紋刀一本で防ぎ続ける。獄紋刀から燃え上がる黒炎に怯むことなく、ゆゆは連続の高速攻撃を繰り返す。

 アレクは無表情で、目と腕と足を素早く動かして攻撃を凌ぐ。目で捉えるのもやっと、刀で防ぎきれるのも条件反射やら直感やらで速さを誤魔化す。


 スピードはゆゆの方が数段上だった。


「《死神一線》《望海灰雫》《無銘無常》」

「ッ……!《無衣》!」


 そこに魔法を連続使用して相手の出方を見る。

 獄紋刀を通して魔力の飛ぶ斬撃を放ち、金属を腐食する液体を一点に集めて放射。更に異空間からの刺突攻撃を、同時にゆゆに襲わせる。

 それに対して、単語を口にし対応するゆゆ。


「……は?」


 ゆゆの身体が半透明になり、三つの攻撃を全て受けながら無効化した。


「……面倒臭ぇ相手」

「それほど、でも、ない」

「謙遜が酷いよ、君」


 そして、ゆゆの身体が元の色素に戻り、半透明化の回避効果が解ける。

 舌打ちをしながらアレクは刀を刺す。

 その攻撃は、しっかりとナイフで対処するゆゆ。

 フェイントを加えた後に魔法を発動。

 今度は半透明化して避けた。


「……魔法は避けるんだ?」

「物理、対処可能。でも、魔法は…未知、だから」

「ふーん…」


 コイツ前世からやり慣れてんなと理解し、ゆゆが知らない攻撃はほぼ確実に避けられると判断。

 アレクは半透明化されると魔法だけでなく物理も効かないのは分かったので、魔法を使わずに獄紋刀の刻紋を解放せずに戦う事を選択する。


「本当に厄介……!」

「アナタも……!」


 無傷の斬り合いはまだまだ終わらない。





 その頃、レミーロと昂輝の戦闘は。


「トドメだ、《聖罰─・─執行》!!」


 破邪の光を纏った聖骸剣が、迎え撃つ名刀晩蟬を切り割って、そのままレミーロの腹を貫いた。


「がっ……!?」

「ハハハ!俺の、勝ちだ!」

「ぐ、ぅ…なんと……」


 その流れで、聖剣を横に動かし、レミーロの腹を臍から右へ斬る。左側の筋肉と皮でしか繋がっていない状況。最早、死ぬのは確定と言える致命傷。

 下半身を動かす事すら出来ずに、そのまま前に倒れ込みうつ伏せになってしまうレミーロ。


 老いた剣聖、ここに敗れる。


「感謝します剣聖。おかげで俺は、もっと強くなれる」


 主人公としての強さを求めて戦う昂輝。

 敬意を表して、彼は地に倒れたレミーロの首元に聖骸剣を当てる。

 その切っ先を、ダメージで霞んだ目で見ることしか出来ないレミーロ。最早、彼は抵抗出来ずに……


「さようなら───」



「なんて、させませんよ?」



「…ッ!?」


 処刑寸前、かけられた声に驚いて大きくその場を飛び退く昂輝。

 重圧。

 全身に…いや、本部の建物全体に圧がかかる。


 その発生源は、レミーロの横に立って、敵対者を睨みつけている……世界同盟所属の勇者。

 転生者筆頭でもあり、彼らのリーダー格としてのまとめ役にも抜擢されている英雄。


「ッ…お前、は……!」

「天堂正樹。《聖剣の勇者》です」


 その圧の正体は、正樹の────怒り。


「……ソフィア、師匠(・・)をお願いします」

「は、はい!」


 後ろに居たソフィアに瀕死のレミーロを任せ、聖剣を錬成した正樹は昂輝を睨む。

 いつもの優しさの詰まった瞳ではない、敵を倒す勇者としての目で。


「マサ…キ、殿……!」

「安静にしていてください。後は、僕に任せて」

「……頼りにならず、面目ない………」

「もう80後半なんですから。無理しないでください」


 レミーロを守るように、立ちはだかった自分よりも知名度が高い勇者、主人公を前に昂輝も睨む。

 世界を引っ張るべき神の元に転生された真の勇者たる自分以外の勇者を、彼は認めない。認めたくない。


「天父神様に認められていない勇者など、俺が許さない……俺の前から消えろ、偽物!」

「君が本物とも限らないけど?」

「黙れ!俺の邪魔を……するな!!!」

「……悪いけど、捕まってもらう」


 ────勇者と勇者、最初の戦いが幕を開ける。


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