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魔王の兄は転生者  作者: 民折功利
第九章 掌の上のお兄様

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ミニサイズなお兄様

今年最後の投稿です


 物事とは突然起こるものである。


「あっ、手がすべ……ッ!?」


 一日の業務を終わらせて手持ち無沙汰になっていたとある女神が、暇潰しに天布で拭いていたキューブ状の例の神器を誤って落としてしまったり。


「……うわぁ」


 それが原因で誤作動を引き起こし、神器による悪意なき攻撃が超天文学的な確率で、次元の壁を軽々と超えて異空間にいる彼だけを襲ってしまったり。


 なーんて事が、神と密接に関わりをもつ彼にはかなり頻繁に引き起こる。

 破棄された空間から拾われたヤバめのブツを防ぐためには、神位の概念防御という高度すぎる事をしなければ意味は無いという理不尽の前に。


 彼は敗れる。またしても。


「だ、黙ってよぉ〜。僕、悪くなーい」


 変化に気付かずに夜を跨いだ魔族の少年に、再び《アトランダム・ダイス》の絶望が降りかかった。





 明朝。ニーファは違和感を持って目が覚めた。

 そして気付く。隣にいつも居るはずのアレクがいないのだ。寝室の中を見渡してみる。いない。

 全然いない。何処にもいない。アレクは神獣の察知能力を平然とすり抜けるので困ると思いながら、そこまで本気で探す必要は無いと思い直して目で探す。

 ……珍しく夫よりも早く起きたから昨晩出来なかったことをしてやろうかと画策したのに。これでは出来ないではないか、と胸に邪念を抱きながら。


 やはり新手の悪戯か何かと訝しげに思いながら、取り敢えず起き上がた方が探しやすかろうと判断して、二人で入っても依然余裕のある羽毛布団を捲りあげる。

 その時、ふとそこを見た目が……固まった。


「ぷきょ」

「……???」


 敷布団の上、本来ならアレクがいる場所に、まるで膨らんでた何かを潰したような変な音を出す小さな小さな、本当にちいさな、それこそ手で握り潰せる程度の大きさしかない………


「アレク……?」

「ん?……ん?」


 アレクがいた。


 ───“てのひらアレク”の誕生である。





「え?え?」

「可愛い…!?」

「はわわ……」

「……は?」

「お、おー?」


 メリア、ユメ、ルーシィ、カグヤ、ナチュレの思考はほんの数秒だけ停止した。

 ニーファの手のひらにいる小さなアレク、バジャマごと小さくなったその姿を見て。


「りょ、りょうも〜?」


 ニーファの手の上に乗りながら、妻のてのひらをぺたぺた叩くアレクの姿に癒される。パジャマごと小さくなったと言えど、袖は余っていて若干萌え袖状態。なんとか手を出そうとするが、動く度にズレて元に戻る。更に滑舌もおかしくなっているのか、どうもの一言すらマトモに言えない身体になってしまった。


「記憶はあるのかしら?」

「ありゅ」

「魔法は使えます?」

「むりぃ」

「えっと……クッキー食べる?」

「あーん」

「昨日ーちゃんとー寝たー?」

「ねたー」

「ニーファちゃんの事は?」

「すきー」

「私の事は?」

「ふつー」


 誘導尋問には絶対にひっかからないという強い意志を感じる。ユメを威圧感満載で睨みつけるアレクだったが、小さいから可愛らしさしかない。

 逆効果である。


「めーら!めーら!」

「メリアです主様……如何なさいましたか?」

「おなかへった」

「……わかりました」


 何処かでしたような問答だなと思いながら、メリアはてのひらサイズにまで小さくなったアレクの要望で、その大きさに見合う朝ご飯を作る事になる。


 近くにあるキッチンで調理を始めるメリアの生活音を遠目に聴きながら、五人はそれぞれ動く。

 カグヤは子供たちを起こしに行った。ここで暮らすうちに子供らを起こす担当は彼女になっている。

 ナチュレはポケーとアレクを遠くから観察しながら、花瓶や鉢植えに水やりを始めた。

 嫁と妹二人の三人はアレクをクッションの上に置いて話し合う。


「これってなんなんです?」

「わかれば苦労せん」

「そんな事より遊ばない?」

「あそぶ!」

「「真面目にやれ」」

「ごめん……」

「ぶー…」


 ニーファとユメに怒られてシュンとするルーシィだったが、アレクの顔を両指でぷにぷにする動きは止まらない。やられてる側は嫌ではないようだ。

 なされるがままに目を瞑っている。


「マシタ…?」

「あ、子供たち起きた」


 カグヤに起こされて、しっかり目覚められた五人の子供たちが徒党を組んでリビングにやって来て、目をぱちくり。

 黄色い?叫びが部屋に木霊した。


「マシタちっちゃーい!かわいー!」

「あるじ!デミよりちちゃい!」

「ぷにぷに……!」

「〜〜〜♪(可愛い〜♪)」

父様(ととさま)がまた小さく……!?」


 髪の毛、両耳、ぷに頬、ちび指、ちび足を好き勝手触られまくるアレク。子供らしく手加減のない触り方だったので嫌気がさし始めるが我慢する。

 それを見兼ねたニーファが五人から夫を取り上げる。


「我のじゃ」

「「「ぶー」」」

「〜〜〜!(ぶー!)」

「やー!」

「我儘言うでないわ……ほれ、顔洗ってこい」

「…はぁーい」


 不貞腐れてトボトボと洗面所に向かう五人を見送って、ニーファはアレクを胸に抱いたまま歩く。

 「にゅあ〜」と変な声を出しながら頭上にあるニーファの顔を覗き見るアレクと目を合わせながら、さり気なくアレクを取り上げて抱きしめようとする女、ユメによる誘拐を回避するステップを踏む。


「お主、心当たりは?」

「ぬぁい!」

「そうか……」


 元気よく否定するアレクから目を離して、強奪を図る魔王を敵意マシマシで睨みつける。

 魔王は半泣きだ!


「私"も"抱"き"た"い"!!!」

「ぺっ!」

「ずっきゅーん♡!!?」

「「うわぁ…」」


 ニーファの反応と、冷蔵庫から飲み物を出していたルーシィと声が被った。

 恍惚な笑みを浮かべたユメは深手を負う。

 搬送された。


「……げひてなければかまうのに」

「難儀なもんじゃなぁ」

「もう行くとこ行ってるから無理じゃないかな??」


 行くとこ行ってるって何?

 アレクは訝しんだ。





「「「いただきます」」」


 てのひらアレクの為に造られた朝ご飯は、“海苔を巻いたおにぎり”や“ウインナーソーセージ”や”だし巻き卵焼き”……その全てが小さくなっている。

 他の面々と同じメニューでありながら、手間を増やしたものがアレクの為に用意された。

 俗に言うマイクロフードである。全員がよく出来たなと感心と尊敬の目でメリアを見て褒めた。


「いたやきまーす」


 机の上に引かれたナプキンの上にちょこんと座り、マイクロフードを両手で掴んで頬張る。

 流石に小さな箸やフォークなどは用意できなかったようだ、が……両手で頑張って物を掴んで啄む姿は何処か可愛らしく、場が和む。


「んまんま」


 小さくなっても美味しいものを食べれて幸せなアレクはおにぎりの味を堪能する。


「んまー……ん?」


 周りの視線に気づいたが、なんとなーくどういうことか納得したアレクは無視を決めた。ここで目を合わせたら手を出されると察したから。


「お兄様かわいい……!」

「お兄ちゃんの身体ってちょくちょくおかしくなってるよね?なんなの?病気?」

「不思議だねー?」

「そういう星の元に生まれてんのよ。きっと」

「今回は我、なんともないの」

「……さては奥様が犯人?」

「なんでそうなる!」


 やはり話題はアレクのことで、尽きることなく、メリアが作った軽めの朝ご飯を食べる。

 以前はアレクと一緒に幼児化したニーファが今回は無事なのを見て、訝しまれるが気の所為である。運が良かっただけだ。


「あ、ナチュレさんそれ取ってください」

「はーい」


 最近加入したナチュレが早速馴染んでいるのをみて、順応早いなぁと思いながら、食べる食べる。

 お茶はコップにストローを入れてそこから飲む。

 ……お茶が甘く感じる。美味しい。


「くさー、おちゃ!」

「草ってボクのこと……?」


 新人いびりではないと心の中で唱えながらアレクはお茶を汲むようにナチュレに要求。律儀にそれに答えたナチュレは、慣れない手つきでポットからお茶をコップに注ぐ。


「んー、こうゆー道具って初めて触るよー」


 基本的に森暮らしのナチュレには、文明の利器とは新鮮な物のようだ。初めて使うにしては茶を零さずに注げたナチュレを心の中で褒めながら、小さくなったアレクは脳内で今回の原因を探る。

 体の不調なのかどうとか、色々と。


「うにゅぅ……」

(昨晩なんかしたっけ……?えっと、魔法実験はしてないし、誰かに悪戯もしてない。あ、確かナチュレと囲碁のやり方を勉強して対戦して負けたんだ)


 前世は囲碁をやる相手もいなかったので(相手になりそうな奴が一人いたがそいつは論外)異世界で初めて囲碁をやったアレクだったが、同じく初心者のナチュレにぼろ負けしてもう一生やってやんねぇと深く強く心に決めた。

 囲碁をやった理由はそこに道具があったから。


「はむ、うま〜」

(そも俺を嵌めるやつってここに居るメンバー以外だと考えられるのは……クロエラ、アンテラ、あと会ったことないけど敵枠の天父神。……今度会いに行くか?居所は割れてるし。あ、そういや捕虜になってる青久って今どうなってんだ?興味無いけど)


 確実に答えに導かれている。

 二番目に名を挙げた女だ!そいつが犯人だ!今すぐ神国に行って絞めろ!


「ちゅう、ちゅう……」

(はぁ〜喋っても意思疎通しづらいのが辛い。でも思考がちゃんと出来るのは幸いだな。……そういや魔法でこのサイズ縮小とか無理そうじゃね?今回のもうそういう領域を軽く凌駕してるよね?それこそ神業みたい、な……。ん?神?)


 よし、いいぞ!その調子だ!!


「ぷひゅー」

(おなかいっぱい。……身体が小さくなると食事量も少なく済むのか。飢饉とかの時に便利か?)


 話が脱線してるぞ!!頑張れてのひらアレク!頑張って思考するんだ!誰が犯人なのか、その決め手はもう見えてるんだぞ!?


「………」

( ね む い )


 終了ーー!!!!

 アレク選手の思考回路、食事後の睡魔によってかんっぜんに妨げられました!!これはもう考えられません!!現に目が蕩けております!!ミニサイズになったせいで眠るのを我慢すらできないのか!?


「あれ、お兄様お眠ですか?」

「うん……」

「じゃあ手ー洗おーね〜?」


 ユメに気付かれ、ルーシィが手を出してアレクを乗せ、そのまま手と口を洗わせようとして……重大なことに気付く。


「……これさ、全身びしょ濡れになるくね?」

「「「あっ」」」

「……にゅ?」

「なりそー、だねー?」


 その後、エノムルのねばつかない粘液におててを突っ込んで綺麗にし、口は濡れティッシュで拭ったので大事には至らなかった。

 スライムさまさまである。





「すぅー……すぅー……」


 机の上に置かれたおままごと用のベッドの中で寝息を立てるアレクを横目に、女性陣+ナチュレが原因を改めて話し合っていた。

 子供たちはその近くで、アレクの邪魔にならないように静かにおままごとをしている。


「お兄様の件、やはり自爆では?」

「でも前のあかちゃん化の時も原因はお兄ちゃんじゃなくて……あれ、結局わかってないんだっけ?」

「我は知らん」

「そういえばそうでしたね……」

「そんなことーあったんだねー?」

「あれは酷い事件だったわね」


 それもこれも犯人はアンテラなんです。

 気付いてください。


「むにゃむにゃ……」


 口を動かして寝返りをうつアレクに微笑ましいものを抱きながら、ふと可能性を抱く者が現れる。


「……(これ、私……というかアイツじゃないよね?え、そういう感じだったりする??)」


 頑張れルーシィ!君に全てがかかってい────


「ちょっとゼシアに聞いてみるね」

「あ、はい……交信できるんですね」

「最近はなんか静かなんだけどね」


 まさかの見当外れだー!!!これには濡れ衣を着せられそうなゼシアもびっくりか!?


(……で、どうなの?)

【───無罪を主張する】

(ふーん。そういや何で静かなん?)

【───秘密】

(……ちっ)


 何かよからぬ予感がしたか、確定を取れないが故に心の中で舌打ちし、ゼシアは違うっぽいと皆に伝える。禁帝神は嫌いだが嘘はつかない性格だと理解している程の長い付き合い。故に、彼女を信じた。

 実際、今回の件に関しては無関係なのだが。


【───月の女神では?】

(え、なんで?)


 まさかまさか、蚊帳の外にいるゼシアが答えに至ってしまう。


【───前回の幼児化も、主犯はやつ】

「え、いやでも違うって話じゃ…──」

【───アイツは自己保身の塊】

「スゥー……」

「る、ルーシィちゃん?」


 あまりの動揺で声に出てしまったが、ルーシィは暗い炎を灯した目で開き直った。

 隣に座るユメの肩を力強く掴んで。


「アンテラは嘘つき」

「……ほう?」


 メリアが反応した。一連の流れで自分が騙されたと察した。元信者で偉い巫女様もこれには怒りが芽生え、確証を抱くとかそういう必須の過程をすっぱり無視して平然と嘘をついた女神に呪詛を吐く。


「コロス」

「落ち着きましょ!?」

「元巫女こえー」


 殺気立つメリアを落ち着かせる姉妹。そしてその後ろで拳をガツンと合わせて指をポキポキ、首を回してパキパキ鳴らす、臨戦態勢のニーファが。


「よし、カチコミ行くぞ。着いてこいカグヤ」

「落ち着きなさいよ」


 いつもの蔑称を忘れるほどの怒気を、ここにはいないアンテラに向けるニーファ。

 二つの殺気を浴びた気がした女神は悪寒で凍えた。


「にしても……前世と今世のお兄ちゃん、差異ありすぎて心が、なんかこう悶える。変なの」


 昔は高身長の糸目イケメンだったとか何とか。





「手が滑ったんですぅ!!!悪気とか出来心とかそういう邪念でやったんじゃないんです!!信じてくださいお願いしまずぅ!!謝る!謝るからぁ…!その殺意が詰まった拳を下ろしてくださいぃ!!?」


 アンテラを囲むニーファとメリアが、龍神命脈剣と轟砕の爆戦棍を女神の首元に当てる。それに対して威厳あるはずの夜天神様は腰を抜かして大号泣。全力で謝り倒して命の危機を乗り越えようと頑張る。


「ふむふむ、そうかそうか……まぁ、取り敢えず。いっぺん死んでみないか?」

「話が通じない!?」

「アンテラ様……信者やめます死んでください」

「辛辣…ッ!」


「なんか自分よりも怒ってる人見ると、こっちの溜飲が下がるよね」

「まぁ前科持ちっぽいので仕方ないですね。ご愁傷さまですアンテラ様」

「ざまぁないわね」

「どーんまーい」


「ちょ、助け……っておいごらぁ!!そこの植物の塊!なんでてめぇが僕の部屋にいんだよ!いやなんで一緒にいんの!?意味わかんないんだけど!?」

「アレク君が入れてくれたー」

「なにやってんのさ!!アレクくん!!」


「余所見とはいい度胸じゃな???」

「生殺与奪の権は此方にある事をお忘れですか???」


「あっ」


 この日世界は思い出した。

 最高神と言えども、最強の神獣と魔改造された巫女の前ではされるがままになるということを。


 尚、アンテラは満月の夜限定で、1分かけて大陸を更地にできる力がある事を忘れてはならない。

 昼間はクソザコナメクジだが。





ぷしゅ〜……


 煙を上げて床に倒れるゴミ雑巾を背景に、目が覚めたミニサイズのアレク。

 約二名のニコニコ笑顔に若干ひきながら、ルーシィに説明を求める視線を送る。


「……アンテラが犯人だった。幼児化もね」

「しね」


 追撃。可愛い足で踏みつけられるという死体蹴りされたボロ雑巾は痛みすら感じ無くなっていた。

 黙祷。線香はもったいないから上げない。


 そんな時、突然部屋にノックが響き渡り、誰かが入室してくる。


「うわぁ〜、真っ黒ですね」

「む。太陽神か」

「そうですよ。お久しぶりです」


 アンテラの部屋の扉を開けて入ってきたのは、彼女の姉妹神である最高神の一柱、太陽神ソレイユ。  

 入ってきて早々、しゃがんでから妹のアンテラを指でツンツン突っ突く。たまにぴくぴくと痙攣する。なんか楽しそう。


「で、何用じゃ?」

「いや流石にこうも押しかけられたら……一応、最高神の肩書きを持ってるので、来ました。まぁどうせこの子が何かやらかしたとは思ってましたよ?」


 ソレイユもなんとなーくアンテラがヘマやらかしたのは察していたらしい。事実だったが。

 部屋の隅で体育座りをしているてのひらアレクを見て、成程と納得しながら例の神器を触る。


「これが天雷神が持ってきた神器です、か……うわぁ、なんですかこの濃密な陰気は。ひっじょーに触りたくないです今すぐ捨てませんかこれ」

「それは勿体ないんじゃないかなぁ!!!」

「あ、起きた」

「む、まだ切り足りなかったか」

「もう少し叩くべきでしたか……」

「ひっ!やだこの子達怖い」


 再起したアンテラが、ソレイユの手に渡りかけた《アトランダム・ダイス》を回収して、そのままの流れでアレクに向けてそれを投げつけた。


「あ!お主何をする!」

「多分これで戻る!!」

「本当なの!?」

「僕を信じろ!!」

「「「「…………」」」」

「…ぴえん」


 キューブ状の神器がアレクに触れる…───その直前に。


「なんかや!」


 ぺしんと勢いよくアレクがおててを振りかざして神器を遠ざけた。

 何かよからぬ気配でも感じたのだろうか。

 いやまぁソレイユが嫌そうに説明してた通り陰気とやらが溜まってるらしい。


 そりゃあ《廃棄孔》から拾ってきた物だ。いわく付きに決まっていた。


「あー、その神器の特性はランダムで説明がややこい事を引き起こすものなんだ。本来なら解除する為のアイテムも一緒に出てくる物なんだけど、今回はそれが無かったから多分触れれば治るよ!治らなかったら解除法がんばって探すから!取り敢えず触れ!!」


 アンテラの矢継ぎ早の説明に若干めんどくさそうな顔をしてから、仕方ないなぁと触りに行く。

 手でペタペタと触る。

 何も起こらない。

 アンテラを睨む。

 周りの圧で泣き始める。

 今度は全身でキューブに密着する。

 可愛い。

 ……な、なんか光始めた。


「わぷっ……!」


 小さな光は大きな光の塊へ。人の形を作り出し、その威光がやんだころには……


「っ……」


 元のサイズに戻ったアレクがいた。


「アレクー!!」

「お兄様!おかえりなさい!!」

「お兄ちゃん……!」

「主様、良かったです…」

「一件落着、かしら?」

「大変だったねー?」

「ふ、ふぅ……良かったぁ」

「後で反省文よ」


 皆がそれぞれ安堵する(約一名は地獄を味わう)中、顔を上げたアレクを見て…───固まる。


「ほにゅ……?」

『    (全員絶句)』


 蕩けた目で、ふにゃりとした顔で、ぽけーっと前を見る……いや、焦点の合わないアレクがいた。

 なんかこう……思考が低下してるっぽい。

 ペタンと女の子座りしてから、虚空をポケ〜と眺めている。


「……スゥー。お疲れ様でした!!!」

「逃がすな、追え!!」

「アンテラ様???」

「ひぇっ」


 助言して失敗した上に逃亡を図ったアンテラを捕縛。取り敢えず逃げられないようにソレイユが出した太陽の鎖という月の女神にとって毒とも言える鎖で縛り付ける。凄い不快そうな顔で縛られている。


「アレクー?我じゃぞ?わかるか?」

「お兄様〜?ユメですよー?」

「なんで順応してんの???」


 蕩けたアレクに下心を剥き出しにして近付く二人を見て、かなりひいた真祖がいたとかいないとか。

 カグヤはやってらんねぇと空を仰ぎ、ナチュレはアレク君おもしろーいと呑気に手を叩いた。


 一連の騒動の後、再びアトランダム・ダイスをぶつけることによって後遺症なく解除できたが、てんやわんやな顛末があったことを記載しておく。


来年もよろしくお願い致します

良いお年を!

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