緊急家族会議
-第九章- 開幕
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これからも宜しくお願いします!
組織壊滅、それを終えた面々の上に朝日が昇る。
波に揺られる船上で、俺たちはそれを拝み……
「お兄様、私と太陽、どっちが輝いてます?」
「質問するなら太陽を背景にするな」
照らされるユメを視界に入れない様にしながら、壊滅した浮島を遠目に眺めた。
【這い寄る闇】の本拠地であった【蜘蛛の巣】は見る影もない姿となっていた。残っているのは俺たちが集合した建物のみで、他は更地だ。
後でこれを撤去する作業とかが入るんだと思うと……あれ、大変だなぁ頑張れとしか言えん。
それと、怪人の死体四つは放置。機械兵の残骸はクロエラが嬉嬉として回収していた。
怪人はルーシィの配下だろって?
本人曰く、出来た時点で真の強者の前では使い物にならないと分かって興味が失せたらしい。
酷い妹がいたもんだ。
「主様、オークションで買収した品物は如何様に?」
「ん?普通に異空間に放り込んどいて。俺の物だから」
「かしこまりました」
船に組織構成員やオークション参加者を縛って黙らせて放り込んでいたメリアに命ずる。
今回も荒稼ぎしたなぁ……まぁ金払わないけど。既に所有権は俺にあるし、返してと言われる心配の無いものを中心にかっさらった。
「あの、アレクさん?その人、人?誰なんです?」
「ナチュレ。以上」
「よろしくねー」
「よ、宜しくお願いします……?」
ナチュレの紹介は雑にこなす。
《アイランテの女愚像》は飾りとして有用そうだし《霊薬》は高性能な回復アイテムだし《高級チョコレートの塊》はデザートに使って《批判するトメィトゥ》とかいうSCPっぽいので遊んだり《錆びた聖剣》は普通にサビを取って使えるか試して《ソロモニア・デモリング》が本当に悪魔呼べるのか試して《グリフィン人形》は叫ばせてみたり……
うん、やることを増やしすぎた。暇ないねやったー!
「アンタ、それ管理しきれるの……?」
「安心しろ、よだれ鶏」
「調理済みじゃない」
「あ、恩賞(笑)でお前の人獣オンオフは好きにさせるけど、攻撃とかは出来ないままだからな」
「……別に異議は無いわよ」
あらま、従順なことで。
カグヤは俺のお使いをクリアしてくれたのである程度の自由を与えることにした。お使いの内容としてはオークションに潜入と、案内人に扮してユメ達に接触する、そんでサポートって感じだな。
いやぁホント、俺の指示で動ける手駒って最高。
……いっその事カグヤを魔界執行官の2人目に加えるか?
悶々と色んな事を考えながら、俺は腰に引っ付いて離れない二人の少女を見た。
片方と目が合った。
「……そろそろ離れない?」
「いやっ」
「……スゥ……スゥ……」
ニーファは拒絶し、尻尾を巻き付けてくる始末。
ルーシィに至っては……寝てるな、これ。
「なんか…私が知らないうちに随分と仲良くなりましたね?ルーシィちゃんと」
目敏いユメが疑問を吹っかけてきた。
ルーシィは俺の妹だということは、まだ言ってない。人目があるからな。
まぁ、ルーシィはお前にとって義理の姉に当たる存在であったわけだから、仲良くなってもらうに越したことはない。
「後で家族みんなで話すから……な?」
「何が“な?”なのかわかりませんけど……まぁお兄様の話に悪い物はないので」
謎の信頼感、いや信用度を見せてくれるユメに若干たじろぎながら、俺は静かに笑った。
────恵まれてるなぁ。
俺も、お前も……今世は、今は恵まれている。
「………諸君、此度の作戦、よく頑張ってくれた。これで暫くは違法商売も鳴りを潜めるはずだ」
帰還した世界同盟本部で、魔族代表で叔父のアルダンテからの労いの言葉を受ける。
そこからは淡々と物事が進んだ。
捕らえられていた違法奴隷たちを解放して、構成員やオークション参加者を引き渡した。売られていた薬物や骨董品なども回収され、後ほど持ち主や然るべき場所に輸送するらしい(俺がオークションで買った品物は除く。事前に回収したから)。
拠点に侵入した者達は、労われた後に各々好きなように過ごすことを許された。
なので……
「第一回【緊急家族会議】を開催しまーす!」
勇者とかSランクとか達に適当に別れを済ませて、俺は仲間を率いて魔王城ダグラカナンに帰宅。
突発の緊急家族会議を開いた。
カグヤとナチュレとミカエラとヒルデの部外者組は除いた面々で。……メリアはもう身内です。
両隣りにユメとルーシィを連れて、後ろにニーファとメリアを連れて入場した俺に、親二人が聞く。
「取り敢えず…おかえり、お前たち」
「なにかあったの〜?」
家族が勢揃い。
先代魔王シルヴァトス、王妃エリザベート、そして当代魔王ユーメリアの魔王一家。
爺ちゃんと婆ちゃんは地下迷宮に一旦戻って、そこに住む魔獣たちと交流しに行ったらしい。
二人への説明はまた後でいいな。
「今回集まってもらったのは他でもない……っていうかもう簡潔に言ってもいい?」
「……なんだ?」
「家族が増えました」
「「「…………は?」」」
ユメを含めた三人が頭にクエスチョン。
渦中のルーシィは汗ダラダラでちょっと可哀想なので手早く済ませるとする。
「あ、アレク。どういうことだ?」
「ほら、俺って転生者じゃん?」
「あぁ、そうだな」
「んで、俺の前世に妹がいたんだけどさ?」
「それは初耳だな」
「うんうん、それで〜?」
爆弾投下五秒前!ごー、よん、さ……ヒャッハーもう待てねぇぜ!ゼロ!投下!
「俺が転生する前にそいつ死んでさ……なんとビックリつい最近、妹も転生してる事が発覚しました」
「そうなんですかお兄様!?」
「そうだよ」
ユメ、お前に新しい妹が……いや、姉ができるんだよ。
「というわけで、その妹の転生体であるルーシィ=ノーレッジちゃんです。みんな拍手」
「え、そんな気楽に紹介する普通!?」
世界の時が止まった。
「えっ、ちょ、お兄様?え?」
「待て、理解が追いつかない」
「…………?(宇宙猫)」
おうおう、みんな困ってらっしゃる。
んでまぁ理性を取り戻す前に畳み掛ける。お見舞いしてやるよ、情報の驚き過剰摂取ってやつをなぁ!
「ついでに禁帝神の器なんだってさ」
驚きをスタ連。スタンプ無いけど。
「ちょっと待て……それは本当か!?」
「全て真実。なぁー?」
「う、うん……禁帝神の器で前世はアレクくんの妹やってましたルーシィです」
「そ、そうか……」
さぁ、この事実を突きつけられてどうする?
拒否ったりしても覚悟は出来てるが……
「……ルーシィ殿、一つ聞かせてくれ」
「…は、はい」
「前世のアレクはどんな感じだったんだ?」
「おい質問の内容」
何聞いてんだこの父親。魔王の威厳っぽい発言とかそういうカッコイイ発言ないの?
かなり受け入れ態勢入ってませんか?
「えーっと……高身長で、糸目で、暗くて、幸薄い?」
「成程」
「あと、ツッコミが多い、かな?」
「変わらんな」
変わってたまるか。
アンテラとかいう最高神に記憶操作されて割と明るい人格になったけど、根本的には変わんないよ。人の不幸を楽しむ性格は相も変わらずだよ悪かったな楽しいんだから仕方ないじゃんもっと見せて。
「ねぇねぇ、私も良いかしら〜?転生者って言うのは、過去恵まれなかったり報われなかったりした子が来るらしいって仮説があるんだけど……二人は今、幸せになれたのかしら?」
「「………」」
母さんの質問──仮説は学会とかのやつ──に、ルーシィと顔を見合わせる。
……どうなんだろ?
前世と違って家族に恵まれた。家柄も良くて、交友関係もそれなりにある。マトモに生きてるかどうか聞かれると凄く面倒臭いけど楽しいから良し。
酒癖の悪い神竜が嫁で、真面目な元巫女が傍にいて、うるさくて可愛い妹がいて……スライムから進化した子供たちとか、貰った神の子もいる。
最近は敵陣営の鳥と木が仲間入りしたけど、そいつらを悪くは思っていない。
そして、二度と会えないと思ってた凜音に会うことが出来た。
……これを総じて、幸せかどうかって聞かれたら。
「幸せ、なのかな?」
「……私も、今は」
ルーシィも同じ回答をしたが……こいつの過去は壮絶だ。割と酷い生き方をして、今がある。
もうこれ以上悲しんでほしくないが……それは無理な事だ。ルーシィはこれからもっと苦しむし、悲しむ出来事がザラにある。確実に。
それは勿論、俺にも。
「なら良いわ〜!仲良くしましょ〜?
……あら、これってつまり。私が無許可で着せ替えできる女の子が増えたってわけね!?」
「え、どゆこと?」
「母さんは血縁者なら無許可で着せ替えしてもいいって思ってるらしい」
「ま、マジか……」
哀れルーシィ、お前も俺と同じ道を辿るんだよ!
さて、父さんと母さんがルーシィの存在を許容してくれたのは良いんだが……さっきから固まってるのが一人。いや二人か。
ユメとメリアだ。
……メリアに限っては、私そんなの聞いてませんって顔なんだけど。ごめんな、察せ。
つまり問題はユメだけなのである。
さぁ、どう動く?
「……お兄様」
「うん」
「これ……私に姉が出来たってことですか?」
「そうなるな?」
それは自明の理だが……
ユメは何かを確信し、決意したのか……立ち上がって叫び出した。
目がキラキラ輝いている。というかハート目ならぬスター目が出来上がっていた。
「私、実はお姉ちゃんが欲しかったんです!!」
「「「……はい?」」」
俺とルーシィとニーファの声が重なった。
母さんはあらあらと声を出して、父さんは何を言ってるんだと仰天していた。メリアはポカーン。
なに、お兄ちゃんじゃダメだったの……?
「場合によってはお兄様を女体化させて、一時的にお姉様に変えようとも思ってたんですか……!」
「父さんこの魔王ヤダ」
「言うな……」
なんてことを画策してやがるこの娘。会話する度に残念さとヤバい事が発覚しまくるから封じた方が良い気がしてきた。きっと全会一致で封印もしくは討伐が決定されるレベルで邪なんだけどこの魔王。
「ルーシィちゃん……」
「は、はい?」
「私たち、友達だと思ってたけど……いい意味で裏切られた!」
「う…うん?」
「宜しくねルーシィお姉ちゃん!!」
「よ、よろしく?」
ユメのノリにルーシィがついていけてない!
「やったー!これで心配事が一つ無くなりました!」
「ユメちゃん、心配事って?」
「お兄様が新しい女を引っ連れてきたと思ってまして、どうやって化けの皮を剥がそうかなって夜しか眠れないぐらい考えてたんです!!」
「お兄ちゃんこの妹なんかヤダ」
「現実を受け入れろ」
あまりの恐怖にお兄ちゃん呼びに変わったか。
てか俺がそんなプレイボーイみたいな人間…魔族に見えてたのか。
(過去を振り返る────)
なんかごめん。
俺が全てに懺悔している間に、ことは起こる。
ユメはルーシィの横に高速移動して、ギュッと抱きついてから……言った。
「……お兄様は私のものなので、あげませんよ?」
「こいつッ……!!」
あれ、姉妹喧嘩入る?
「というか禁帝神って……さっきの黒い化け物とかお花とか貴女の仕業ということですか!?」
「えっ、いやその、身体を乗っ取られたら何も出来ないって言うか……う、まぁ、はい。私です」
「お兄様!ルーシィお姉ちゃんが乗っ取られないように何とかしてください!!」
「(現状は)無理です」
「「そんなぁ……」」
実際問題、ルーシィとゼシアを切り離すって方法も確かにあるにはあるんだが、割とキツイ。俺が。
今の俺だとやったらやったでルーシィが確実に死に至るから無理。だって魂と軽く融合してるから、普通に吸血鬼と禁帝神を分けれないんだよ。
普通には、だけど。
「……お兄ちゃん、何考えてるの?」
「……お兄様、何を考えてらっしゃるので?」
「ヤダこの姉妹、勘が鋭い…!」
べ、別に悪いことなんてカンガエテナイヨ!
「……ルーシィお姉ちゃん、私は職務で永遠にお兄様を見張れるわけじゃないので、お願いします」
「任せてユメちゃん」
「共通目的で仲良くなるって本当なんだなぁ」
意気投合し始めたのを他所に、父さんと母さんが俺の肩をつついてきた。
真剣な顔で。
「で、禁帝神を懐に入れるということになるが……対処とかはあるのか?」
「そうよ〜?よく考えなくても危ないのよ〜?」
「ダイジョーブ!ボク、カンペキ!」
「「心配……」」
盟約があるから!禁帝神と面を合わせて結んだから大丈夫!家族には手出し禁止って話を通してあるから!
まぁ?どっちにしろ後で敵対してもらうんだけどね!?ヒャッハー悪巧みが進むぜ!!!
全てが一周まわって俺の為になるんだからな!!
そうやって、悪い方向性に思考をフル回転させていたら。
「のぉアレク……」
「なに?」
「ちと耳貸せ」
「んお?」
ニーファが音もなく俺の首に腕を回し、引き寄せてきた。なんだよ、ちょっと痛いです離して!
嫁の囁きが、耳を抜ける。
「お主、────?」
「……!」
…──やはり、良く分かっている。
王子は嗤う。
未来の為に。
『今後も期待!』
『続きが気になる!』
『更新頑張れ!』
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