少年は目を細める
◆アレク=ルノワール
「んぅ〜なんで知ってるの〜!」
「隠し事なんて通用しませーん」
どうも、絶賛抱擁中のアレクだよ。
はいここで驚きの真実が判明、ルーシィは俺の前世の妹の景山凜音ちゃんでしたー!はいパチパチ。
涙?感動の再会だから仕方ないね。俺だって泣くんだよ血も涙もない外道じゃないからな。
あ、今は禁帝神の器ってことを知ってるよアピールしたら割とマジで泣かれてる。
いやー、ここはハッキリさせとかないとね?
それと例の黒い化け物とか花はルーシィとゼシアが切り替わったのと同時にゆっくり消滅した。
「も一回言うけど、ゼシアからお前の酷評を聞かされたけど気にするなよ」
「うぐっ」
冷汗ダラダラ。うんうん。
ずぅーっと秘匿してきた事がバレてたらそりゃ焦るよな。
「アレクくん……ほ、ほんとに記憶見たの?」
「魔法で」
見たよ。お前が吸血しながら俺の記憶を流れる血から見たのと同タイミングになぁ!!あ、これを知ったのは禁帝神本人から事実確認を受けたからだ。
お相子ってことでひとつ手を打とう。
てか俺の呼び方はアレクくん固定なのか。いやまぁ昔みたいにお兄ちゃんって呼べって強要する訳でも……うーん、そうだな。
他の奴らに説明すんの面倒いから、人前では名前呼び、関係者前では親しい方で呼んでもらうか。
「ほら、行くぞ。皆には内緒にしとく」
「えっ……いいの?」
「尚、家族には伝える」
「……うん、わかった。アレクくんがそれでいいなら、私は何も……言わないよ」
凜音、ルーシィを理解させた所で、俺は塔の屋根を降りようとして。
足を止めた。
「む。我の夫に抱きつくとはいい度胸じゃな…!」
「独占欲強いわね……ってこら、妾に八つ当たりしない!」
神竜と神鳥がセットでやって来た。こら、俺からルーシィを引き離そうとするな!ここ高いんだから落ちたら危ないでしょ!?ルーシィに飛行能力が無いのは確認済みなんだよ!!わかれ!我知らなーいじゃない、不要なところで嫉妬すんじゃねぇ!!
「あぅ、ごめんニーファちゃん」
「うむ。許す」
「「はやっ」」
許すの早くね?カグヤとハモったぞ。謝られたら即お許しを与える神竜とか器大きすぎてヤダな。
なんかこうクソざこ神竜ムーブかましてください。
「折衷案だ。こうすりゃいいんだろ」
「むっ……うむ」
「はわ……んん」
取り敢えず両手に花の構えを取った。平和的解決とはこのことだ。
………。
「お前も……えっと、来る?」
「巻き込まないでくれないかしら」
いや、ぼっちは可哀想かなって思って。なんか不機嫌なカグヤは置いといて、両脇に居る二人の頭を撫でながら、今回の事を色々と考える。
カグヤを事前に会場に潜入させて、気付くかなって好奇心で変装したままユメ達に接触したり、オークションで荒稼ぎしてみたり、商品に神がいるの知ってから乱入者来るだろなーと思ってたら来たし、機械共は皆に任せてたらSAN値削られたり、組織トップぶち転がしに行ったらナチュレに会ったり、ルーシィがなんかやってたり、なんか敵の転生者と遊んだり、ルーシィが身体を乗っ取られてたり、禁帝神とお話☆したり、ルーシィと打ち明けたり……
うん、俺の日常って濃くね?
てか今メリアは何処に……あ、良かった生きてる。保護した奴隷とか捕縛した組織の生き残り達が乗ってる船に避難したみたいだな。ルーシィの神徒二人は既に俺の射程範囲外にいるから探知不可だな。後でルーシィに呼ばせるか。
クロエラとマールは……派手にやられたからな。俺も絶賛する銀嶺が一撃で沈んだし。悲し。何故か知らんがあの二人は雲の上にいるみたいだ。
他の連中は────
「あ、いたいたー」
屋根の一部が盛り上がり、根が這い出て大輪の花が咲き乱れる。
ナチュレが出てきた。
「ナチュレ」
「ナチュレじゃな」
「ナチュレね」
「ナチュレだ」
神出鬼没なこいつに、もはや驚かなかった。
いや、別の事に驚いてそっちに意識が向いた。
「その鞠みたいな枝の塊なに?」
大の男が一人格納できるサイズの枝の塊を傍に置いている。いや、それ何?なんか呻き声聞こえるぞ?
「んー? えっとぉ、アオ君だよー」
「……アオ。えーっと、あれか。宮東青久か」
……え、なんで捕まえてんの?お前、そいつの味方とかじゃなかったっけ?知り合いだろ?
禁帝神とお話するために追跡の魔法を背中に付与してはいたんだが……意識をそっちに向けてなかったせいで、捕まってるなんて知らなかった。
「信頼を勝ち取るため」
「そんな事を流暢に喋んな」
「いやー、うんー」
ニーファとルーシィを離して、ナチュレから枝の塊を貰う。うぉ、意外とずっしり……人が入ってんだから当たり前か。
魔法で重量を調節し、軽めの封印をしてから枝を掻き分けて中を見てみる。
「むー!?むー!むむーー!!!」
見たことの無い赤い蔦で蓑虫にされている青久を発見する。
えぇ……厳重だな、これ。本気じゃん。
「この蔦はー、運気を吸い取るからー、拘束具としてもばっちりだよー」
「よくわかんないけど植物が凄いのはわかった」
運気を吸い取るからなんなんだよ。何の話だ。
「アオ君のてんせー特典対策だよー」
「あれ、盗むやつだろ?」
「ううん。もう一個あるんだー」
なに?つまり?
転生特典が二つ?……チートかよ。
後で調べ尽くそう。今は手が離せん。……いや別に知らなくてもいいや。魅力のない敵との会話とか最も無駄な時間の過ごし方だと思ってる。
メノウとかエインシアとかは良い敵だった。
「……ナチュレ、裏切らないって約束できる?」
「んー、神言さえー無ければー」
「脳に語りかけてくるやつじゃな。我あれ嫌い」
ニーファが裏切りかけたやつか。話だと俺の言霊魔法の上位版というか、別枠にある凄い力らしい。
語りかけられたら終わりだとか。
ナチュレは天父神が直に創った創造物らしいから、逆らえないんだろうな……まぁ、いいか。今を楽しく生きればそれで良し、面倒なことは未来の俺に任せる。
……これが自業自得を引き起こす考え方なんだうけど!俺しーらない!目を閉じ耳を塞ぎますよ。
「よーし、お前も来い」
「え、いいのー?」
「敵を囲んでおくのは常套句だ」
目を離したら不思議な所に潜入されて盗み聞きされてそうなのでー!いっその事、傍に置きまーす!
ナチュレは便利だしな。居ると楽。
諜報とか?潜入とか?お手軽じゃん?取り敢えず絆して味方に引き込めばかなり勝算上がるんじゃない?
「え、お兄ちゃん、いいの!?」
「お前を匿ってる時点でな」
「は?お兄ちゃん…?何を言ってるのかしらこの吸血鬼」
「焼鳥黙れ。こいつは前世の俺の妹だ」
「ふーん……はぁ!?なにそ、はぁ!?」
あ、そだルーシィにあれ伝えとかなきゃ。
「ルーシィ、身内のみでお兄ちゃん呼びは許可するけど、関係を知らない奴らには言うなよ?」
「わ、わかった……善処する」
「…………」
未だに空いた口が塞がらないカグヤを放っておいて、ルーシィに箝口令のようなものを引いた俺は、ふと近付いてくる轟音に耳を傾ける。
……うん、聞いた事ある声がいっぱい。
聞き分けてみる。そして後悔した。
「おにーさまー!」「わ、ホントに居た!?」「ユメの嗅覚は凄いな!私みたいだ!」「嗅覚と言い張るのは無理があると思うな」「あら?知らない人いらっしゃいません?」「にゃ!?花咲いてるです!?」「眠い」「おいこら寝るな。俺の背で寝るな」「あらも〜写真撮っちゃいましょ」「マサキ様おち、落ちちゃいます!」「ご、ごめん!!」「イチャつきやがって……!」「暴走しないよりマシよ」
さ わ が し い。
「ルーシィ、ニーファ……ノリで逃げるぞ!」
「えぇ、ホントにノリで生きてるよこの兄」
「いつも通りじゃが……なんかユメ、迫真じゃぞ」
「一種の狂気ね……」
「あははー、アレク君のいもーとはーすごいねー」
人生、ノリで生きるのが素晴らしい。
ニーファとルーシィを小脇に抱えた俺は、取り敢えず走り出した。カグヤとナチュレも空気を読んでついてきた。カグヤは飛行、ナチュレはカグヤに飛び乗って乗せてもらっていた。無言無断で。
青久入りの塊は異空間の牢獄に入れた。あとで世界同盟に引き渡す。ぶっちゃけ要らないし。
てかナチュレ。お前、走れよ。なんでカグヤは嫌そうな顔してないんだよ。まぁナチュレ軽いけどさ。背負ったことあるけど、ホントに軽くてびっくりしたぐらいだ。軽いんだ……ニーファよりも。
「ごめん、頬を抓らないで」
「やはり心内で我を侮辱しとったな?」
「獣の勘こわい……」
尻尾がある分余計に重量あるんだぞ。それに中身はあのデカいドラゴンじゃねぇか。重くないわけがないだろう!正論かましてるからって殴るな。
「お兄様!?……前が空いてますよね!!」
「あれがお前の妹なんだぜ」
「三兄妹の末っ子だね?やったぁ家族が増えたよ」
ユメってさ、初代まおー様との諍いを終えてからより一層振り切れたよね。悪い意味で。
魔王としての自覚と責任の足バサミで苦労してるからって甘える対象を俺に絞ってたら、婚期逃すぞ絶対に。……あいつ、結婚する気あんのかな?
「なんじゃあの満々な笑み……」
「はぁ、姉妹揃ってあたおかとかヤダな」
「そんなふうに思ってるの!?」
俺の匂いを嗅いで恍惚としてたのを見っちゃったからね。なんなら吸血されてる時も薄々感じてた。
いつも満足気に帰ってたけど、絶対に俺を出汁に美味しく頂いてただろ。知ってるんだぞ。
そして前世。前世の貴様はことある事に自殺を視野に入れていたのであたおか認定です。最近はその兆候も見られないので成長したということかな?
妹ではないがニーファも俺の匂いを嗅いで喜ぶ変態だと知っている。時点でメリア。
隠してるようだが偶に俺の服の匂いを嗅いでるの知ってるからな。無表情だから何とも言えんけど。
……んまぁその後に首を傾げて再び洗浄魔導具にかけてるのでメイドとして役割を果たしてただけだと俺は信じている。それ以外の理由はないはず…!
そして、闖入者はまだまだ増える。
「あ、良かった生きてた!!」
「生還を問われるのはこちら側では???」
「冬馬くんのせいでもあるんだよ!?」
「あげぽよ〜!みんな無事ー?」
煤だらけの転生者四人が、同性同士で肩を支え合って顔を出してきた。なんでそんなボロボロなん?
確か動力室をバコーンってしてくる手筈で……なんか凄い爆音と振動が地下から来たのと関係ある?
冬馬に限っては眼鏡パリーンよ?
「なんでボロボロなん?」
「トウマっちの作戦でレンヤっちが火を吹いた!」
「列車砲と動力炉をぶつけさせただけです。前世で見れなかった迫力が見れて満足ですよ自分は」
「いやー、危うくというか割と死にかけた」
「私が盾を作ってなかったら瀕死とかの騒ぎじゃなかったんだよ!?反省して!!」
「「ごめんなさい」」
「「「何してんのお前ら」」」
マジで何してんの。
「いや、怪人だの神徒だの情報量が限界を超えたので、ちょっとやけくそになってしまいました。後悔はしていません。……あれ、なんなのか知ってます?」
「……なぁ」
「なんかごめんなさい」
ルーシィが俺に抱きついてる奴ら以外には聞こえない程度の声量で謝った。あのお粗末な怪人、マジで謎だけど特撮好きのお前らしくて好きよ。
取り敢えずやらかした冬馬の上司であるフェメロナに労わるように言ってやろう。言わないとやらないだろうしコイツ。周知の事実だよね。
「フェメロナ、労わってやれ」
「トウマ、拳を合わせろ」
「もういいや黙れ」
頼った俺が馬鹿だった。
もういいから冬馬には暫く休暇を出してやれ、過労と酷使で頭がだいぶこんがらがってる。いつものキレと冷静さが欠けてるんだもん。
そんな感じに脱線してたら、襲われた。何に?
それは、今世で初めて可愛いいと思えた存在であり……成長するにつれて不可避の脅威その1となった生命体に。
「お兄様!」
「ぎゃふっ」
いつの間にか先回りされてた、だと……!?
右にニーファ、左にルーシィ、胸にユメ……
俺の小さな身体を三方向から包むのやめてくれません?両脇は故意ですが。おい押し付けるな!
「アレクさん、ハーレムですか???」
「あいつも来るとこ来たなぁ」
「先輩面すんな一緒にすんな!!」
正樹とリョーマは黙ってて!
「あ、やべ足滑らした」
「「「えっ」」」
四人で仲良くたんこぶが出来ました。まる。
……羽で飛べば良かったじゃん!!
三人分の重さに自慢の黒翼が耐えられるかどうかはそっと置いておく。
ま、取り敢えず……
現段階でのいっちばん大きな組織は壊滅。魔族大手の悪徳商人は死亡。機甲神も動きだし禁帝神とその器とも接触が成功した。
最高な結果なんじゃないですか??
次回、登場人物紹介




