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魔王の兄は転生者  作者: 民折功利
第八章 吸血鬼とお兄様

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昆虫敵墜


 ◆B2宝物庫前


「……また奇っ怪な」

「あらら? 堅物そうな子が来たわね?」


 カップル二人と別行動をしていた冬馬は、夏鈴とも別行動を取った末に、宝物庫の前に陣取るアゲハ蝶と人間を足して割り切れなかったような怪人に遭遇していた。

 アゲハ蝶の大きな(はね)を持ち、派手な色彩を全身に塗りたくったモデルボディの怪人。体の線がくっきりわかるラバースーツを着て、鼻から上を覆う虫の頭を持つという、妖艶さと不気味さを兼ね揃え容姿をマイナスしている女性。


「私の名は鳳蝶怪人ベティフライ……侵入者は排除対象なの。だから、死んでくださる?」

「……ないな」

「? 何がかしら?」

「いえ、お気になさらず」


 鳳蝶怪人ベティフライ。

 宝物庫の守護を任されており、オークションの出品物を守る怪人。本来ならこの奥に盗賊青年も待ち構えているのだが、彼は騒ぎに乗じて頭領の元へと移動しているので怪人一人しかいなかった。


「取り敢えず、ここは通させて頂きますので」

「あら、人間たった一人が、私を倒せるとでも?」

「そのような思考に至ってる時点で……阿呆」


 互いに罵りあい、その一瞬に動き出した。


「《魅怪恋風(パフュームブリス)》!」

「《黒文字の囁き(ブラック・ウィスパー)》」


 ベティフライの翅から鱗粉が舞い、それを暴風に乗せて冬馬へと芳香を吹き散らす。

 冬馬は両手から黒文字の液体を出現させて、九本の鎖のように組み替えて怪人に飛ばす。


 鱗粉という粒子は為す術なく黒文字の侵攻を許し、ベティフライは縛られそうになるが、華麗な身のこなしで避けられる。

 対して、暴風に乗せられて冬馬に吹き当てられた怪人の鱗粉は、毒素を持って彼を襲った。


「っ……これは、なかなか……?」


 毒による刺激で頭を押さえて、フラフラよろけ、地に手を着いてしまった冬馬を見て………ベティフライは高揚感を抱いたまま機嫌良く笑う。


「そりゃそうよ!何せ、象を昏倒させる毒だもの!ただの人間たる貴方は、何もでき───────は?」


「象、ですか……馬鹿らしい」


 立ち上がる。

 象を昏倒させられる毒を受けて尚、気絶する事なく立ち上がり、平然と頭を掻く冬馬。


「なん、で……なんで立ち上がれる!?」

「百獣の王の従者ですので」

「そんなの!……理由に、ならないでしょう!?」

「そういうのはお腹いっぱいです」

「ッ、がっ!?」


 癇癪の声を上げたベティフライに向かって、いつの間にか隠されていた黒文字の鎖が飛んでくる。勢いよく彼女の四肢を拘束し、大の字に開かれ、壁に縛り付ける。

 拘束に慣れているからこそ出来る鮮やかな手前であった。


「無様ですね」

「なっ、あ"ぁッ……!?」


 力を強く込めて、もう少しキツく締め上げる。


 高橋冬馬の能力は《黒文字の囁き(ブラック・ウィスパー)》という情報収集に特化したもの。

 それ以外に彼は、この世界に降り立ってから、ある力を得た。

 獣人が住まうビストニア大陸は原生林が広がっている。その森のある一点に、有毒猛獣やら有毒植物やらが蔓延っている地域があった。

 そんな地獄に彼は、たった一人で放り込まれた。

 否、転生初日に飛ばされた。なんということをしてくれたのでしょうか。犯人はアンテ(ry。


「あれは酷い事故だった。座標ミスっただけで転生者の人生を終わらす所だったよ。反省はしてますが再発防止は正直……期待しないでください♪」


 閑話休題。女神の独り言はなかった。いいね?


 それから獣王国の首都に辿り着くまで、冬馬は毒入り動植物で食い忍んで生きてきた。

 よって、彼に途轍もない毒耐性がついた。

 未経験の毒でも、数秒で克服するやべーやつとなってしまった。


 その結果がコレである。


「自分、頭の緩い女神の手違いの結果、毒に強い身体になりましてね……思い出すだけで腹が立ってきましたが、まぁ貴女をボコすので我慢しましょう」


 黒文字を増やして、身動きの取れないベティフライの頭部の上に浮かせる。

 鱗粉の毒が効かないという事は、それ以外に飛べる事しか取り柄のないベティフライは無力となる。

 抵抗の出来ない彼女は、目に涙を浮かべ……


「や、やめっ……」

「では記憶、拝見させていただき、ッ!?」


 黒文字の真価である、記憶閲覧を行おうとした矢先に。


 ベティフライの首が斬られた。


 断末魔を上げる隙もなく、宙を舞う泣き顔の怪人の頭部。一瞬にして絶命した怪人の身体は力が抜けて黒文字に支えられ、頭は床を転がった。


「……口封じ?」


 首の切断面は、鋭い剣によるもの。

 冬馬の能力は生者にしか効果を及ばさない。死人に口なし、黒文字は死人には見向きもしないのだ。


「……知らぬが仏、ですか」


 相対した敵に手を合わせ、死体を通路の端に転がった頭の横に置いて、宝物庫へと足を進める。

 目的は、主に獣王国から強奪された国宝やら希少品を回収。同時に他国の盗まれた品も回収して、世界同盟に引き渡す為。


「機械兵に、怪人……何が起こっている?」


 冬馬の疑問は虚空に霧散した。





 ◆B1階段前


「あげぽよ〜、夏鈴っだよ!」

「初めまして俺の名は飛蝗怪人ソートレス!!」


 夏鈴は地下二階に下りる階段、つまり地下一階と地下二階を繋ぐ階段の前に陣取っていた。

 殿を務めると言えば聞こえが良いが、実際は歩くのが疲れて座ってただけである。


 彼女が対峙しているのは、バッタの怪人である。説明はもう不要だろう。また割り切れずに、人類なり損ないの様な姿をしている敵である。


「人間は出会って直ぐに殺すのがモットーだ!」

「え、何それ怖っ……世紀末ってゆーやつ?」

「死ねェ!!《蝗殺脚(ホッパーアウト)》!!」


 そう言うやいなや、ソートレスは脚を曲げ、轟音を上げながら高く跳躍した。天井に手を当て指を喰い込ませて固定し、下にいる夏鈴に向かって連続の蹴りを食らわせる。


「にゅわっと!?」


 間一髪、広範囲に蹴りを行うソートレスから離れた夏鈴は打神鞭を引き抜いて振り上げる。


「《戯れの打神鞭》《烈》!!」

「ぐっ!?」


 必中属性を持つ打神鞭は、敵に振るえば必ず脳天に直撃するかなりのチート性能を持っている。見た目が釣竿とは言え、効果は絶大。

 狙った物を絶対に釣り上げられる能力も備わってるのは正直どうかと思うが。


 脳天に一撃を加えられたソートレスは、頭の殻にヒビが入ったが死ぬ事はなく、ただふらつく。


「ぐぐぐ……やるな、人間!!」

「えっ、死なないの!?頭かった!」


 今まで一撃で勝ててたのに、初めて一撃で伸されなかった相手を見て夏鈴は動揺した。

 しかし、すぐに気を取り直して打神鞭を構え直し、再び振るう。

 立て直したソートレスも負けじと技を繰り出す。


「《戯れの打神鞭》《暴》っ!」

「《蝗害喰(バッターイード)》!!」


 打神鞭を回しながら、暴風の様に振り回して何度もソートレスの頭部だけでなく、全身に鞭の先端部をぶつける。

 その攻撃を受けながら、身体を凹ませ、骨を折りながらも、諦めずに止まらずに夏鈴を噛み殺そうと口を大きく広げて突撃してくる。


「ッ!!」

「がアッ、ぬぅん!!」


 すんでのところで避けて、食い殺されないように暴れる鞭を止めた夏鈴。ソートレスは壁に激突し、その顎で食い壊して大穴を開けた。

 バッタなのに猪突猛進。彼は隣の通路の壁までぶち壊した。


「っ……怪人って単ちょーだけど強いっぽい?」


 認識を改めた夏鈴は、ソートレスがこちらに戻ってくる前に魔法の準備に入る。


「ならっ……《■■■、■■■■……■■■》」


 謎の言語。海の底に伝わる巫女の呪文を繰り返す。

 彼女の異名は《水守》。シーレーナ王国を守る海の巫女が与えられる名である。


「《■■■……■■■……■■■……■■■……》」


 夏鈴の足元に海のように青い魔法陣が敷かれ、広がり、そこから清らかな海水が溢れだしてくる。

 魔法陣の円周に水の柱が小さな噴水のように立ち、夏鈴を囲んで水の芸術が出来上がる。


「………? なんだ、それは……!?」


 訝しむも、あの水に触れたはならないと本能的に察したソートレスは、その距離から動けない。


「《■■、■■■……■■■■》!!」


 術式、完成。


「ハイ、かんせー《シレナ・ラグナ》!」


 魔法陣が決壊。溢れ出る海水は止まることを知らず、壊れた魔法陣の中心、夏鈴の足元から半永久的に溢れ続ける。ソートレスの足元、それどころか膝まで海水がぶつかってきて、彼は流れに負けて倒れてしまう。対して、夏鈴は平然としていた。


「ぐおっ、こんな地下で海水!?正気か!?」

「だいじょーぶ(`・ω・´)b」

「!?」


 海水は地下一階のみを浸水して、そこから下には何故か流れずに、この階にのみ浸水していた。それも夏鈴の魔法による効果である。


 押し流されて壁に激突し、肺の中の空気を全て吐き海水を飲みかけ噎せるソートレス。

 そんな隙だらけの彼に、無慈悲な一撃が振るわれる。


「トドメ!《戯れの打神鞭》《貫》!」

「ッ、ぎぃぃい!?」


 打神鞭が、脳天を貫いた。


「あっ、がァっ……」


 海水の中に倒れ込むソートレスは、絶命した。


「ふぅー……勝ったっぽい!」


 ガッツポーズを天高く掲げ、勝利の余韻に浸った夏鈴は、魔法で出した海水を魔法で消した。

 残ったのは、海水の匂いと、血を流す怪人の死体のみ。


 勝者となった夏鈴は座って休憩に入ろうとするが、虚ろな目で倒れている敗者を見て。


「んー、目の前に死体があるのに休むのは、ちょぅと無理っぽい……」


 夏鈴は怪人から目を背けて、階段前から場所を移動して休める場所を探すのだった。







「───残ってた怪人三体中二体、討伐されたようです」

「いや、うち一人は貴方が殺ったじゃない」

「情報漏洩は如何なものかと思いまして。今回は運良く間に合いましたが」


 男と女は駄弁りながら、姫の歩む後ろを歩く。


「ふーん……チョウチョとバッタだっけ?」

「はい」

「あとは蜘蛛だけなんだよね?」

「はい」

「……虫の癖によく生きてけたね?アイツら長命すぎない?三千年も私を待つな」

「それも奴の造った生物所以でしょう。癪ですが」


 舌打ちを小刻みに挟みながら、少女は階段を一歩一歩踏み締めて行く。


「そも怪人が総じて弱すぎる。なんなの?やる気ないでしょ?」

「コンセプトは確か……『ヒーローを苦戦させる程度に強いが結局は負ける敵キャラ』でしたよね?」

「へー……、ん?あらら?」

「これ、お嬢様のご提案では……?」

「ワタシノセイダッタカー」


 空を見上げて白目を剥く少女は、現実逃避しながらふと思いついた歌詞を口ずさむ。


「もっしもし 神よ 神さんよ 世界のうちに アナタほど 頭の おかしい ものはない どうして そんなに クソなのか」

【───なに?その歌】

「即興替え歌〜恨みを込めて〜」

【───単調に歌わないでほしい。もう少し親しみをちょうだい。ぎぶみーらぶ】

「や☆」


 それだけ嫌いらしい。

機械兵と怪人の扱いの差

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