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魔王の兄は転生者  作者: 民折功利
第八章 吸血鬼とお兄様

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実力突破


 ◆B2連絡通路


 【蜘蛛の巣(ダレニェ・フロート)】は地下3階から通常階層8階まであり、最上階は組織のトップと腹心のみが入る事を許される展望台がある。

 オークションが行われた円形ホールは1階だ。


 オークションの会場であった円形ホールは三人の神徒が大暴れし、更に世界同盟の者らもより盛大に暴れるが為に破壊、粉砕、大混乱。

 拠点の空では金の機神と銀の兵器が大立ち回りを披露し、火花と閃光を散らしている。


 ……そんな乱戦から少し時間を遡り。

 ここの地下階層では。


 組織構成員と世界同盟の精鋭たちによる、血で血を洗う抗争が行われていた。


「装填、撃って、また装填……たっく、弾数無限だとしてもだな! 少しは脳使って戦いに来いよ!」

「《聖戦の鐘(フロッグゴッル)》!《力の憧憬(スルーズ)》!! 威力上昇だから危ないよ!どいてください!!」


 目の前に居る敵構成員の眉間にBB弾を発砲、間合いに入った者には鳩尾に銃床を叩き込んで沈黙させる、《魔銃戦線》の能力で銃火器を操る星宮蓮夜。

 精神力強化の鐘の音と物理威力強化の聖なる光を奏で放ち、手に持つ銀槍で敵陣を蹴散らして最前線を突っ切り、装甲を纏う《匣庭(ヴィネット・ガーデン)》の力を使いこなす舞並茜。


 秘密裏に潜入して拠点を荒らす転生者組の他者公認カップルの二人が、人間の構成員を倒して進む。

 冬馬と夏鈴はこの場に居ない。


 面倒くさくなったのかキャスター付きガトリング砲を構えた蓮夜が走りながら敵を射殺しかけながら通路を前進。

 槍の一撃による衝撃波で、自身も仰け反りながら敵を吹き飛ばす茜。


「怯むな!やれぇ!」

「ぎゃっ」

「盾を構ッ、ごふっ!?」


 【這い寄る闇(ニャルラトーテ)】の構成員、闇に生きる彼等も負けじと応戦していた。銃弾が何だか分からないが盾を構えて防いでみるも、簡単に貫かれたり、銀の槍で盾ごと吹き飛ばされて、重量に潰されたり。

 魔法で遠距離から攻撃したり、味方を強化したりと支援をするが特殊BB弾が魔法陣を貫いて不発。


 人数が多く、荒事に慣れていても、相手との兵力差と物理火力には叶わなかった。

 特に、最高神の姉妹がこの地に送り込んだ異世界人を相手には……


 あっという間に制圧し、縄でキツく縛って放置。

 能力による武装で浮遊している茜と、持久力にはそれなりに自信のある蓮夜は足を止めることなく廊下を突き進む。


 途中、天井から蓮夜の手によるものでは無い、謎の銃弾をプレゼントされたが難なく盾で防いだり、ガトリング砲の陰に隠れてやり過ごしたりした。

 また更に天井を突き破って機械兵が何機か降下して来たが、茜の槍と蓮夜のロケランで簡単に吹き飛ばして難を逃れた。

 それからは、機械兵とは遭遇していない。


「さっきの何?SF?スーパー○ボット大戦?」

「うーん、変なのだったね?」

「手に機関銃持ってたけど……あ?」

「あっ……誰かいるよ?」


 機械兵の事を適当に駄弁りながら走っていると、地下三階へと続く階段の前に陣取るように、異形の人物が立っていた。

 ガイナ立ちで存在感を放つ、緑色の巨躯。


「我が名は蟷螂怪人マディモール。この地を守護する神の下僕なり……我が天命に誓い、汝らを殺す」


 全身が緑色の殻に覆われ、本来なら獲物を捕獲する為の手鎌は切り裂く為だけに鋭くされ。頭部は虫特有の複眼と触角を備えている、全身緑の怪人。

 (まさ)しく蟷螂(かまきり)と人を足して割り切れなかったような異形の怪物。人為的に造られたであろう忌みすべき存在。


「……怪人って何だ?特撮か?」

「我らが主君が創造した高次元存在、それが我々だ」

「こう、じげん……?」


 高次元あるある。

 自称してる奴に限って見た目が低次元にしか見えないもしくは生理的に受け付けない案件。

 茜はよく分からないが気持ち悪い異世界人が頭の可笑しい事を喋っていると判断し困惑している。


「ふん。もとより我らを理解する事など貴様ら低俗な者には無理なもの。故にこれ以上の問答は不要。早急に去ね。人間」


 問答無用。慈悲は無し。

 人を惨殺する死神の虫鎌を二人に向ける怪人マディモール。その複眼は妖しく揺らめく光が映る。


「やっとマトモな強敵来たな!」

「うん、気合入れてこ!」


 謎の怪人と、転生者の戦いの一幕が始まった。


「《斬螂鎌(デスサイズ)》っ!!」


 一閃。両鎌が縦に振り下ろされ、空気と一緒に床と天井も切り裂く。スレスレで避けた蓮夜は、ハンドガンを連射して鎌に当てる。

 この際、相手を強敵とみなしてBB弾ではなく実弾を使ったのだが。


 切断。全弾、鎌に弾かれるのでは無く弾芯(弾丸の先頭部)からプライマー(雷管とか入ってる後部)を綺麗に両断するという神業を見せる蟷螂怪人。

 全弾切り裂かれる事は想定していなかった蓮夜は、冷や汗を垂らしながら楽しそうに微笑む。

 蓮夜の銃弾を切り裂くとは思っていなかった、隣に浮いてた茜も驚いた。


「蟷螂って凄ぇんだな!!」

「凄い!見方を改めるね!」

「……そうか、いや別にどうでもいいのだが」


 天然な他者公認カップルは敵を混乱させた!


「ま、さっさと終わらせよ!必殺技《戦勝の槍(グン・ゲイラホズ)》!!」


 茜が握っている銀槍が、神すらも目を遮る程の眩い白光を放ち、マディモールに向かって走り、突き刺すために突く。

 それは能力により強化された膂力のせいなのか?茜が槍を突き刺す為に動いた際、彼女は音を置き去りにしていた。


「ッ、《交叉鎌(クロスサイズ)》っ!!」


 両鎌をクロスさせて迎え撃ち、茜が力を込め続ける槍の一撃に何とか耐えようと身体に力を入れるマディモール。

 ミシミシと、嫌な音が自身の自慢の腕から鳴っている事に気付き、長生きしている怪人と言えども死の危機感を抱いて冷汗をかく。


 そこに。


「隙あり、だぜ?」

「何っ!?」


 背後に回っていた蓮夜が召喚した手榴弾のピンを外し、怪人の無防備な背中に放り投げた。

 マディモールは手榴弾が何だか分からない上に、槍の対処で両腕が使えない事もあって……


 モロに爆発を受ける。


「グあぁァっ!?」


 衝撃と爆風で身体が前に出て、両鎌の構えが崩れる。茜の槍が鎌との拮抗状態から解放され、勢いの止まらぬ茜はそのまま槍を突き進ませ、マディモールの胸部に、無慈悲に突き刺す。

 胸部の殻はヒビ割れ、肉を断ちながら槍は進む。

 心臓に矛先が触れ……否、既に刺さり始めていた。死を恐れ、焦るマディモールは技を出す。


「ッ、まだ死ぬ訳には……《魔蟲斬(デススラッシュ)》!!」


 悪足掻きとして自由になった両鎌を茜に振り下ろす。それは肩の天使装甲の一部を切り裂き、彼女の肩に切傷を入れる。更に深く奥を切ろうとするが。

 そこで、力が弱まった。

 なぜなら。マディモールの背中は手榴弾によって焼け爛れ、細かな破片で更に傷付き、胸部には槍が深々と刺さって……ついに心臓を、完全に貫いていたから。


「グァ、そ……ぁ、ばか、な……ァ………」

「ッ……いったぁ」


 黙祷。

 マディモールは口から致死量の血を吐き出して倒れ伏し……虫らしくピクピク痙攣するが、二度と起き上がる事はなかった。

 肩に突き刺さっていた鎌が取れて自由になった茜は、蓮夜の手で両肩にポーションをかけられる。


「……あれ、勝った?」

「さっきの槍って即死付与に運命歪曲とかで絶対に勝てるように仕組める技だったろ? 大抵の相手なら勝てる技だったろ? 相手さんも舐めてくれてて助かったぜホント」

「あー。だからこんなに疲れるんだね……ふぅ。ちょっと休憩」

「覚えとこう?な?はい、水筒」


 蓮夜と茜たちは、陰に隠れて分かりづらいか非常に強力な戦力である。

 蟷螂怪人マディモールは一筋縄の相手ではないはずだった。肉から骨まで容易く切り裂き、一瞬にして場所を移動する瞬発力も異常の一言に尽きるはずだった。他の怪人と違い、三千年(・・・)を密かに生き抜いた猛者の一人であったのだから。


 だがしかし、相手が悪かった。


 戦神の加護を擬似展開して戦う少女と、別世界の軍事兵器を操れる少年を前にしては。

 過去の栄光しか知らぬ怪物など、取るに足らぬ相手にしかならんのであるから。


「つーかよ……怪人を名乗んなら、特撮の一話限りの敵みたいに巨大化とかしろよ」


 蓮夜の呟きが実証される事はなかった。









「───────お嬢様、報告します」


 それは、空が見える高さにある部屋へと向かう為の螺旋階段での密談。


「ん?あーご苦労さま。報告どうぞ」

「非常に遺憾ながら、やはりディアジムの造ったキメラ、その中でも我々と共に居なかった者らがこの組織に関わっている様です」

「……へー、あの変態生物学者の?死ねよ」

「仮にも配下なんですし、蔑称で呼ぶのはやめてあげたらどうです?……気持ちはわかりますけど」

「はぁ、あの集団でしょ?確か城の地下にいっぱい犇めいてるけどさぁ。あれ?……今、共に居なかったって言った?……もしやもしやのもしかして?」

「三千年ほど、生きていた様子です」

「マジか。すごい生命力」


 少女は歩く、登る、歩く、歩き続ける。


「死んだ蟷螂怪人は、というか怪人どもって巨大化、しないんだったよね?」

「生物の美に反するとか言ってましたねー」

「もうこの時点で反してると思うんだけど???」


 騎士が走り回って得た情報を受け取り、緋液から補足を入れられながら、歩く。

 そっか特撮みたいにはならないのかーと安心なのか残念なのか、判別のつかない溜息を零す。


「あと、飛蝗怪人と鳳蝶怪人が地下に。お嬢様の目的である蜘蛛怪人は最上階に居るそうです」

「虫しかおらんのか」

「動物系は城の地下に居ますよ……あれ、確か何体かは食用として出さ「シャラップ」れっ……はい」


 吐き気を催した少女は、出現させた血の渦からエチケット袋を取り出して。

 場所、視線などには構わず………………吐いた。


「おぇぇ……胃が痛い。穏便に済ませたいのに……!」

【───それは無理】

「はァ? てか私が苦しんでる時に楽しそうな気分で目覚めないで!?」

【───それも無理】

「安寧が欲しい」

【───彼に頼めばいい】

「どの面下げて?」

【───ははっ】

「マジで死ね。世界と私の為に」


 内なる声も、胃痛の原因であった。


次話が夏鈴と冬馬の潜入話となります。

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