恐慌輝路
◆VS機銃の神徒ゲルヴェーア
「弾丸装填。用意──《指弾速射》」
「ん」
「っ、避けるのも楽しいわね!」
機銃の神徒ゲルヴェーア。彼の右腕は様々な銃の特徴を混ぜ合わせ、良いとこ取りしたものだ。
主砲一つ、副砲多数、小型銃口沢山、魔術補助機構、冷却システム、変形可能。
当たれば防御を無視して貫通する筈の弾丸を連続速射する芸当を、相対するリョーマとラトゥールは気軽に交わす。
いや、リョーマは掴んでる。見なかったことにしよう……。
そして、さっさとリョーマはお返しとばかりに相棒であり自身の異名、象徴である古めかしい幅の広い鉄剣を振り下ろす。
ただそれだけで。
ゴウッ!!
爆風。
「! 想定外威力──規格外。人類最強。称賛」
「褒めてもなんも出ねぇよ」
たったひと振りで、ゲルヴェーアの自慢の右腕銃が………崩壊していた。
胴体から右腕が銃そのものとなっていた姿だったが、見事なまでに肩まで破壊され、空中分解。
それに驚くゲルヴェーア。
なぜなら、その銃腕はオリハルコン製なのだから。
やっぱりSランクはおかしい。
「……自動修復。戦闘プログラム再構築」
ゲルヴェーアはリョーマへの認識を再度改め、創造主から与えられている自己修復機能で壊れた銃身を再構築、先程よりも硬度をあげて、元に戻す。
機械兵の中でも優れた修復機能と状況把握能力を持っている三人の機械神徒、その一角であるゲルヴェーアだが、遠距離狙撃派故に損害合計は片手で足りる程しか経験した事は無い。
しかし、今この場にて────
「あらも〜、私の事も……忘れないでよ、ね!!」
二桁、或いは三桁逝きそうな勢いであるが。
塔の魔術師ラトゥールが、暴れんばかりの魔力を拳に纏わせてゲルヴェーアを脳天からぶん殴る。
「───!?!?」
「出たよ、魔術師詐欺」
「愛の拳よ!」
ラトゥールは別に格闘専門の魔術師ではない。補助も遠距離も普通の魔術戦闘もできる。ただ、場所と状況に応じて詠唱よりも先に拳が出るのである。
まぁ普通に魔法ドンパチするより殴った方が強いので彼女曰く正攻法らしい。魔術師とは。
なんなら昔、当代獣王レオナードを殴って空に舞わせた功績が─────功績でも何でもなかった。
やっぱりSランクはおかし(ry。
脳天に刺激を与えられ、そこに脳に当たる機構があった為に僅かにふらつくゲルヴェーア。
瞬時に分裂しかけていた意識を統合し、追撃を入れられる前に離脱。
そして攻撃。
「機関部二重結合。魔力炉強制暴走。点火。
───《第六攻性魔導ヴァルカン・フレイム》」
「うおっと」
「わっ!」
銃口から焚き付けられ、放射される火炎放射。最早ただの火炎放射とは呼べる領域にない熱量と焼失範囲なのだが。
熱量温度を計測しようとしても機械がぶち壊れるか溶け壊れるという大惨事を引き起こせる炎。
カグヤが適当に放つレベルの熱量を誇り、人なら一瞬で赤い泥になる火炎。
だというのに。
「暑いな」
前面から炎を食らってるのに、燃えることも焼けることも無いリョーマの身体はどうなっているのだろうか。
天井の梁の上でガイナ立ちする不燃の男。
なんなら周りの梁とかは溶け始めている。
これにはラトゥールもにっこり。
「リョーマちゃん……人類最強じゃなくて、人類卒業の方が当て嵌るんじゃないの?」
「同意」
「味方がいねぇ」
味方からも敵からも人類卒業を祝される男。
「……第六攻性魔導無効化確認。理解不能」
「こんなのが味方でゴメンなさいね」
「なぁお前……いやなんでもないわ」
味方に同情される敵。
そして言ったら墓穴を掘ると確信したリョーマは口を噤んだ。賢明な判断である。
参ったなぁと苦戦してないが精神的に来るものがあったリョーマは頭を掻き、ラトゥールは魔法陣を展開してゲルヴェーアに向ける。
同情とかしてはいるが、彼……彼女も列記としたやべーやつである。軽口を叩き合いながら攻撃態勢に入っていた。
「《ステラ・ストラァァァァァイク》!!!」
魔法陣をぶん殴り、魔法陣をゲルヴェーアに向かって吹き飛ばす。
ゲルヴェーアは弾の装填中だったのか、上手く避けれずに被弾。魔法陣が胸に刻まれて───
ドガーン!!
爆発。胸部装甲が木端微塵になり心臓部を守る内部装甲にも亀裂が入る。
こちららはオリハルコン製ではなかったが、普通爆発程度では壊れない代物のはずだった。
ゲルヴェーアは少し焦りを抱くも、冷静に分析して外内装甲を修復、再構築して体勢を戻す。
攻撃を受けて大きくのろけている中、弾を装填して撃つ段階まで移行させている。
よって、ゲルヴェーアはお返しとばかりに巨銃を二人に向けて、撃つ。
「発射《破砕徹甲弾》」
機械装甲を容易く貫く徹甲弾の強化版。
下手したらニーファの鱗が一枚凹むか割れるレベルの弾頭がリョーマに向かって直進する。
巨大な徹甲弾は音を置いていく速さ、全てを貫き貫通する勢いを持って進む。
「なんか見た事ある形状だな……あぁ、SFのアレか。あの映画は面白かっなぁー」
感傷に浸るリョーマはラトゥールの前に出て、右手を出して……特に障壁を張ることもなく素手で徹甲弾を迎え撃つ。
ぐしゃ。
「……理解不能。故。逃走」
「逃げたわ」
「なんでだ?」
徹甲弾はリョーマの皮膚を貫通すること無く、右手に掴まれて、火薬が入っている箇所を握り潰された。
右手が徹甲弾の爆発に巻き込まれるが、特に被ダメージはなかったらしい。何故だ。
結果。ゲルヴェーアは意味がわからないから取り敢えず無視することにした。つまり逃げた。
何度も言うが、彼は遠距離からジワジワ狙撃したり脳天を貫くタイプの機械兵である。白兵戦向きではない。
今回の戦闘も、機甲神の救出という理由で最前線に出たのと、顔見せという意味があった為に現れたのだ。本来なら空の上から超遠距離射撃していた。
それでもリョーマに叶う未来は見えないが。
機械的に判断を下し、最も効率が良いルートに従ってSランク二人から離脱する。
し か し
「───究 極☆芸 術!!!」
「!? 危機感知──不明。視界遮断。失敗。頭脳部損傷。失敗。失敗。ERROR!ERROR!」
なんということでしょう。
下から突然、暗い絵の具で塗りたくった様なSAN値を削るレベルの芸術作品の絵壁が轟音と共に現れたではありませんか。
妖魔の住む森、光の届かぬ海、晴れることない闇夜……推測でしかないが、そうにしか見えない絵が暗い色で描かれている壁だ。
これを直視したゲルヴェーアの頭脳部が一部ERRORを引き起こして数秒壊れた。
犯人はヴィズリム=アタルマテォク。
いつの間にか起きていたSランク冒険者の芸術家エルフ、通称《夢幻創師》である。
彼女の能力は夢で見た光景を絵に描き、更に描いた作品を現実に具現化することが出来る。
その結果引き起こる惨状がこれだ↓。
「また凄いの描いたわね」
「慣れって怖いなぁ」
彼女の絵をよく見ている二人はSAN値が削られなかった。慣れとは怖いものである。
しかし。
轟音を聞いて振り向いたらヤバい壁が見えて、それを見た機械兵26機が機能停止に陥り、ソルトはオイルを吐いた。ツァラートはよく分かっていなかった為に削られることは無かったが、思考が飛んだ。
ユメは混沌の従神ハワードの影響で無事、フェメロナは不味そうの一言で片付け、正樹は乾いた笑い声を上げ、エインシアは泣いた。ソフィア達勇者パーティは気絶した。
ミカエラは発狂しかけたのを押し留まり、ヒルデは口を手で押えながらトイレに転移した。
クロエラとマールは機甲神で手一杯で見ていなかった。マナ・ジスタも銀嶺に集中していた為に被害は被らなかった。というか上空で殺り合ってた。
ミラノは王族の威厳を守る為に吐くのを我慢した。
ニーファとカグヤはヴィズリムの起床から絵を描くまでの一部始終を見ていたが故に、既に床に突っ伏している。
遠望の魔法でこっそり覗いてたアレクはやっぱりSランクはおかしいと感想を残し、ルーシィは壁の一部を見ただけで気絶して、無事直視していなかった配下の神徒二人に介抱された。
メリアは強靭な精神力で無事だった。
蓮夜や茜、冬馬に夏鈴はロボット&組織構成員と絶賛交戦中なので無事だった。
ヴィズリムが描いた絵は、基本的に他者の精神を酷く汚染する。
綺麗とか可愛いとか、普通なら問題ない絵でも吐き気を我慢できなくなる作品が低確率で生まれる。
まぁようするに。
視認したら精神を汚染する絵を短時間で描いて現実に実装するやべーやつである。
結論。SAN値直葬!
やっぱりSランクはおか(ry。
「ふぅ……よかった♪ ……ふきふき」
「おい、大衆の目の前で拭くな」
「リムちゃん、突発的な絵画具現化はダメよ〜?」
「身体がそうしろって叫んだから……!」
「「どうしようもねぇ(ないわね)」」
Sランク冒険者、集合。
「───困惑」
回復したとは言え、最強格が目の前に揃った景色を見て……機械とは言え抱いた恐怖と意味不明さへの困惑を、救ってくれる者は此処には居ない。
機銃の神徒ゲルヴェーアの受難は続く。
Sランク危険度
武力系
リョーマ>>>越えられない壁>ラトゥール>>>更に越えられない壁>>ヴィズリム
精神系
ヴィズリム>>>越えられない壁>ラトゥール>リョーマ
魔術系
ラトゥール>>>越えられない壁>ヴィズリム>魔法が使えないという壁>リョーマ
あれ、人類最強……?




