オークション乱入───神徒!
盗まれた挙句、出品された《銀嶺ユースティア》。
そして、何故だか分からないが同じく出品されてしまっていた神《機甲神マナ・ジスタ》。
二つの機体が隣り合わせになって、会場の熱意がピークになっている。正樹達が奪還と会場破壊の為に動き出そうとした瞬間。
案内人が手を出して動きを止める。
「……なんの真似ですか」
「取り敢えず、防御体勢に入りなさい」
「はい?」
その言葉の真意が此処に示される。
「《多重照準》…………掃射開始」
動き出す────予想だにしない存在たちが。
ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドンッ!!!!
銃声。天板から降り注ぐ正体不明の銃弾の嵐に会場が騒然とし……紅い花を咲かしていく。
一人、一人、また一人と。無差別に銃殺されていく本来なら拘束されていた筈の人間たち。
悲鳴、銃声、轟音、悲鳴、怒号、悲鳴、断末魔、血、血、血──────
その脅威は勿論、正樹達にも迫ってきて。
「《黒紫雷帝》!」
「────《赤燐の王鳳》」
「《聖刻の天盾》っ!」
まず魔王が放つ黒紫色の雷が飛来する残りの弾丸を的確に撃ち落とす。
ついで案内人が放った獄炎が銃弾を瞬時に焼き尽くし。
締めに聖剣を素材にして錬成された盾が、高域に展開されて自分達と他の客達を守る。
突如死体となった隣席や目の前の無惨な者達を見て阿鼻叫喚の地獄絵図となる会場。
それに加えて盾やら炎やら雷やらで視界が遮られて更なる混沌が広がっていた。
最早収拾がつかない事態。
会場関係者も、組織の者達も、殆どの者が何が起きているのか理解が出来ない。
その最中、正樹やユメ達は反対的にいつも通り変わらない雰囲気だった。警戒は解いてないが。
なぜなら、目の前の存在に気を取られていたから。
「っ!?貴女は───」
「ただの鳥よ」
「……とうとう認めたのかお主」
「黙りなさい蜥蜴ぇ!!!」
案内人……改め、黒のタキシードを着ていたカグヤは仮面を放り捨ててニーファに蹴りを入れる。
瞬間、認識阻害とか色々と身バレを防ぐ為の術式が剥がれた。
ニーファとメリアにはバレていたが。
一同は何故ここにと疑問を得たが、相手が神獣であると同時に、アレクの支配下にある事を思い出して納得した。
あぁ、こいつも利用されてんのか、と。
「にしても……さっきのは一体?」
「銃弾ってことは蓮夜さんとかでしょうけど……」
「まぁ、十中八九違ぇだろうな」
ユメと正樹とリョーマの会話を耳にしながら、カグヤの蹴りを二の腕で軽く防いだニーファは溜息を吐いて呆れた目で別口で潜入してた女を見る。
何かを知ってそうだから。
「さっきのアレが何か知っとるか?」
「……レンヤってのが誰かは知らないけど、さっきの攻撃は神徒のやつよ」
「「「神徒!?」」」
「……そりゃあ自分らの家族が売りに出されてたら、身を捨ててでも取り返しにくるでしょう?」
妾はしないけど。と付け加えながら、天を睨むカグヤ。その視線の先には────
「ほら、来たわよ………シナリオ通りね」
銃撃によって大穴が空いた天井。夜空の見えるその闇から、三体の人型が降りてくる。
半身が名称不明の大型銃器である男性型機械。
人間らしい姿を持つサイボーグの女性型機械。
歯車が組み合わさった複雑怪奇な無性型機械。
それらは、初手は会話を交わすこと無くそれこそ機械的に動き出して攻撃に出る。
「連携開始。照準設定。エネルギー供給要求」
「りょーかいっ」
「コウチクブンカイシキ キドウ……」
銃男は右腕の大型機械銃の照準を、正樹達に向けて。女はその背に触れてエネルギーを送る。
歯車は空中分解して加速や減退、威力倍増など補助の術式を構築し始め────
けたたましい機械音と紫電、限界過熱ギリギリを責めたのか煙と熱が放出され。
それでも、ものの三秒で発動。
「「「《第十二攻性魔導ジ・アザーラス》」」」
銃口から放たれる、流星の如く輝きを持つ極太の破壊光線。
未だ展開されていた正樹の聖なる盾を蒸発させ、一直線に迫ってくる。一纏まりにされた光だったが、所々綻びが出来て分裂し、その一部が客席に落ちて……その場に居た者を文字通り蒸発させる。
その内の中でも太く大きな光線がユメ達を襲う。
「《王護城壁》」
瞬間、ユメ含め全員を守るように──他の客は見捨てて──床からせり上がってきた王を守る為だけに存在する荘厳な城壁が生成されて彼等を守る。
光を纏った半神特製の絶対防護城壁。
破壊光線は城壁に激突し、物凄い蒸発音とガリガリと何かを削ふ音を奏でるが……それで終わる。
限界が来たのか、光線の勢いは収まって……攻撃の射出が止まる。
「ガーン」
「───突破不可能」
「ちっ。厄介ね」
口が無いのに音声は出る歯車と、結果を冷静に分析して答える銃男と、舌打ちをする機械女。
……そんな機械連中に興味は無いと、城壁を展開した主───バルレルは、席から立ち上がって円形ホールの外に出る。
さも展開など読めていたと言わんばかりに。
その時、ニーファと目線が絡み合い、
「「任せた」」
アレクは既に解放された扉から廊下に出る。既に必死に逃げ惑う外野が居て騒がしいが、特に気にする様子もなく……既に方向はわかっているかのようにどんどんと奥に、最奥に消えていった。
「さて……」
見送ったニーファは、取り敢えず視界を塞いでいる城壁をぶち壊すと同時に機械共を掃討する為に、口元に複雑な魔法陣を描き出して……
会場から出るなら魔法解除して城壁撤去しろよという意思も込めて、放つ。
「《神竜の息吹》!!」
光線を防いだ城壁を意図も容易く粉砕して瓦礫に生まれ変わらせる。多少傷ついた王を守る為の城壁は神竜の前ではゴミに等しく木っ端微塵になった。
そのまま直進して機械三人衆に進軍する破壊光線。
慌てた様子で緊急回避する三人だったが、歯車の奴だけが逃げ遅れて半身のパーツが消滅する。
「……《サイリンコード:エイト キドウ》」
鈍色の穴が虚空に空いて、そこから無数の歯車が出現。それらが身体を再構築し始める。その歯車は新旧様々で稼働していない物も見受けられる。
物の見事に復活して、ニーファの一撃を別の意味で無に返した歯車に、女が問う。
「身体損傷は?」
「ゼロ」
「ならよし!!」
女はそう言うや否や、両腕を変形させて高速回転する光の刃……いわゆるチェーンソーに酷似しているブレードを展開して、戦闘態勢に入る。
「っ!アンタら何者だ!我々の大事なオークションを邪魔しやがって!名乗れ!!」
惨劇の円形ホール、最も目を引くステージは勿論のこと穴だらけであったが、二つの機体には一ミリも銃弾は掠っていないようだ。
そんな中、自分目掛けて飛んできた銃弾は全て避けたのか、傷一つない司会がステージから指差しをして叫ぶ。
自身らの大切な一大イベントを潰した張本人達を射殺す勢いで、仮面の穴の奥にある目は鋭い。
それに伴って、機械三人衆はついに名乗りを上げた。
「私の名は《兵装の神徒ソルト》!!弟を取り返しに参上!……そして、てめぇらをぶっ壊す!!」
「発声。機体製造番号0016。二代目《機銃の神徒ゲルヴェーア》。現着完了」
「……セイゾウバンゴウ ゼロイチゼロゴウ 《ハグルマ ノ シント ツァラート》」
「あ!私の製造番号は0001よ!長女よ!讃えなさい!」
聞いてないし黙れテメェと仲間二人に睨まれて萎縮する長女ソルト。
《兵装》《機銃》《歯車》の機械神徒が君臨した。
それを見ながら、司会は挨拶返しに攻撃する。
「そうかよ死ね!神徒だが何だが知らんけど!」
空に向かってクロスボウを連射する司会。ぶっちゃけるならその全ては無駄撃ちで何の意味もないのだが、怒りで思考を塞がれている司会はその真理に辿り着かずに矢を撃ち続ける。
「痒いわね」
ある意味、効いてた。
ソルトは翼型加速装置を一瞬だけ限界突破させて距離を縮め、高振動ブレードを構えながら司会に向かって突進。
一瞬にして肉薄して、司会が悲鳴や断末魔を上げる暇も与えずに綺麗に斬殺する。
ゲルヴェーアとツァラートの居る空中に戻ったソルトだったが───
「塩姉。猪突猛進。馬鹿」
「次それ言ったら再起不能にまで追い込むわよ?」
「ガンエン ホザクナ バカ ガ シュウチ サレルゾ!」
「カタコト過ぎて伝わんない。語学プログラムやり直して?」
「不可能」
「ムリ ケッカ コレ」
「うわぁ残念」
漫才をやっている三人衆を横目に、正樹とユメとミラノとフェメロナが立ち上がって臨戦態勢に入る。
コンマ数秒遅れてリョーマとラトゥールも武器を手に取り……ヴィズリムはこの期に及んで何故か寝ていた。
ルーシィは気付いたらどっかに消えた。
メリアは会場の外へ、ニーファとカグヤはそのまま客席で状況を見据えるようだ。
「ふっ」
跳躍して空に滞空した正樹が、形状剣アインシュッドを抜いて落下する勢いで機銃の神徒ゲルヴェーアと兵装の神徒ソルトに向かって一閃。
「!? 離脱。回避─────微傷!」
「わわっと!」
余裕で交わしたソルト。ゲルヴェーアは既のところで交わそうとしたが、神剣の特性による変質によって刀身が伸び曲がって左足に切れ込みを入れる。
ソルトにも刀身が伸びたが、高振動ブレードによって防がれた。
「勇者か!」
「勇者マサキです───行くよ、エイシンア」
【あぁ!やっと戦闘か!斬るぞ!】
思念で会話する神徒を手に、兵装の神徒ソルトに向かって飛ぶ。
「貴女の相手は僕達が務めます!」
【行くぞマサキ!】
「ふふふ……かかってこい!そしてぇ……さっさと起きろジスタァァァァァァァ!!!!」
高振動ブレードと形状剣アインシュッドが激突。衝撃波が展開されて逃げ遅れた、または放心していた組織の奴らや顧客たちが衝撃波一つで塵になっていく。
正樹の先陣から少し遅れて、リョーマが傷の修復をしていたゲルヴェーアの前に出る。
「んじゃ、俺はお前を相手するか」
「警告。撤退推奨……受諾拒否。無念」
「誰に言ってんだ?」
「報告義務皆無。第一級特殊危険対象《鉄剣》。対峙開始」
「なにその物騒な言い様」
「あらもぉ、私も混ざるわぁ」
人類最強《鉄剣》リョーマが天井の梁の上に乗って機銃の神徒ゲルヴェーアと対峙する。
それに加えて《塔の魔術師》ラトゥールが風に乗ってゲルヴェーアの背後を取る。
「……照合《塔の魔術師》。二対一。状況不利。打開策考案。高速並列演算開始───結論。対峙続行」
「えぇ、よろしくね?」
ニコッとはにかむラトゥールを目にして、ほんの少しだけゲルヴェーアの背が凍った。
「キィー… セントウ カイシッ」
「かかってきなさい、クルクルお化け!」
「限定転身───やるぞユメぇ!!」
「はい!」
そして、魔王ユメと獣姫フェメロナがタッグを組んで歯車の神徒ツァラートに剣と拳を向け。
コンマ数秒の瞬間、軋む歯車の海と破壊神の剣、獣の王の拳が激突した。
その最中。
「大丈夫かい?」
「ふっふっふっ!ボクを舐めないでくれたまえ!」
「…心配」
ミラノ護衛の元、クロエラとマールは《銀嶺ユースティア》へと近付き……三人は綺麗に素早くよじ登ってコクピットの入り口まで到達。
幸い、専用の鍵と術式パスワードがなければ解錠しないのか、中身が荒らされた形跡はない。
「おはよう《ユースティア》!!早めの朝だよ!」
クロエラは認証コードの魔法陣を手に展開し、鍵の部分に接続、認証、解錠……を素早く終えて自作機体の主導権を奪取する。
コクピットを開上し、マールと一緒に乗り込んだ天才はスイッチやレバーを動かして動作を確認。
近未来チックなオーバーテクノロジー満載のコクピット内で、行われる理解できない極地の手腕。
結果、稼働まで少し時間がかかるようだ。
「ミラノくん!護衛よろすく!」
「承ったよ」
マールが《銀嶺》に魔力を流してエネルギーを余剰充填させている隣で、クロエラはコクピットを一旦閉めて起動に専念する。
「まったく!充電器の上に置いてないから時間がかかるじゃないか!!でも手荒な真似をしなかった事は褒めよう!うん!ははははは!!」
「…全機能誤作動確認………概ね正常。そんなに問題はない」
深夜テンションでスイッチを高速連打。
「……さて、隣のこれはどうすべきなのかな?」
護衛を任されたミラノは《銀嶺》の肩部分に乗ったまま隣……項垂れたまま起きる気配のない神を覗き見て……壊すべきかどうかを悩む。
そして、思い出しかのように通信機を手に取り、外で待機している戦闘部隊、そして世界同盟本部に現状を報告する。
「──はい、わかりました。予定通りに」
ミラノが通信を切った、その時。
正樹とソルトの戦いの最中。
「んあー!ちょっと勇者たんま!」
「え、嫌です」
「少しだけ!応援呼ぶから!」
「尚更嫌ですよ!?」
ソルトが正樹と斬り合ってる間に生まれた短い隙の中、彼女は背中から小型砲台を展開して、照明弾を撃った。
手を使って撃つタイプじゃなかったせいで、正樹は妨害も何も出来なかった。機械だから出来る芸当であった。
煙を上げて天に昇る緑色の弾頭。遥か天空に到達した照明弾は、一瞬にして緑光を放つ。
「戦闘機械兵団出撃!ASエネルギー貯蓄ポット持ってジスタに詰め込みなさい!!後は排除よ!」
号令に続いて、空から降りてくる機械の隊列。
「排除・排除・排除……」
「人類掃討……delete!delete!delete!」
「エネルギー キョウキュウ ……ドコ?」
「ソコ」
「ココ」
「発見」
人型のみで構成された機械兵達は声を発することなく、不吉な機械音のみを立てて降りてくる存在達は、円形ホールだけでなく、オークション会場全体に降下する。
何体かはマナ・ジスタに降下し、隣に居る自分達とは全く関係性のないユースティアと護衛のミラノを見て、よくわからないが取り敢えず互いに牽制。
互いの機体に攻撃が当たる恐れもあってか、手出しは出来なかった。
「……《聖刻の天帝》」
「ぎゃぱ!?」
そして形状剣から生えるように出た金と鈍色の聖剣がソルトの肩装甲に突き刺さる。
煙と紫電を巻き起こす肩から無理矢理剣を引き抜いたソルトは怒り心頭で正樹に高振動ブレードを振り下ろす。
「ざけんな死ね!」
「機械っぽくない……」
少し残念そうな正樹は形状変化させたアインシュッドで高振動ブレードを軽く防ぎ、雁字搦めにして拘束、武器の使用を不可能にする。
「っ!?」
【貴女……あー、思い出したわ。陛下が発狂して火山噴火引き起こした時に下敷きになりかけてた】
「なんか今侮辱された気がする!」
尚、エインシアの声は正樹にしか聞こえていないので、ソルトのは完全に空耳にあたる。
侮辱されたのは事実だが。
だが一つ聞きたい。
魔統神であった初代魔王陛下が発狂ってなに?
正樹のそんな疑問を受け取ったのか、エインシアは思念で律儀に答える。
【ご子息が自分に反乱して他種族と手を取り合って進軍して来たり、ご令嬢が吸血鬼の王を名乗り始めたりしたのよ。本家に潰された自称吸血鬼がその後どうなったか、生死も含め私ら全員知らないわ】
「うわぁ……」
家族関係大丈夫だったのだろうか。
【奥様は陛下の肩を叩いて「隠居してくるわ♪」と告げて鍬と種を持ってそのまま行方不明に】
「自由ぅ……」
ダメだった。
【まぁ、奥様は遺体となって見つかったけど】
「………それは、」
【満足気な顔で口の中には毒キノコが……】
「なんなんですか魔王の血族ってなんなんですか」
閑話休題。
傍から見たら独り言の正樹を前に……高振動ブレードの拘束は解かずに機体分解してブレードを消滅。新しく再構築した高振動ブレードを手に、無視されているようにしか見えないソルトが激昂した。それはもう激しく。
機械なのに。
「無視するなぁ!!!」
「君ホントにロボット?」
ポンコツ機械女の子との戦闘はまだまだ続く。
この章の真の敵が犯罪組織だと思った?
やっぱり神なんだよなぁ




