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魔王の兄は転生者  作者: 民折功利
第八章 吸血鬼とお兄様

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オークション開始───落札!


 オークションは恙無(つつがな)く始まった。


 世界同盟がきな臭い動きをしているとの噂があったが、オークションの主───【這い寄る闇(ニャルラトーテ)】の頭領(・・)は何の問題も起こらず例年通りに進んでいるオークションを見て笑っていた。


 やはり、天運は此方に味方していると。


あのお方(・・・・)が蘇った今……失敗は許されない、絶対に成功させなきゃ!!」


 紫艶のドレスを着て、目元を魔法で巧妙に隠す女は高揚して頬を赤く染める。

 恋する乙女、と言うよりは……神への崇拝。信仰。


「ふふふっ……!見てなさい、同種ども……!!私が、この私が!三千年も生き恥を晒して得た全てを見せてあげるわ……!!!」


 舞台裏で、女は静かに笑って、嗤って───自分の思い通りに進んでいるオークションにその豊満な胸を馳せるのだった。

 いずれ手に入る、輝かしい未来に向けて。


 ────もうすでに、その未来の基盤が崩れかかっていることを知らずに。






 海上に聳える巨大浮島【蜘蛛の巣(ダレニェ・フロート)】は外の状況に、置かれている状況に気付くことなく、室内は熱気に包まれていた。

 周囲には闇と波に隠れるように世界同盟の戦闘部隊が今か今かと待ち構えている。


 全体的に暗い、円形ホール。

 最奥のステージを囲うように、高低差のある観客席に参加者全員が座っていた。

 各国の薄汚れた貴族、大商人、金を持つならず者。階級も出自も違えども、此処に集えば交戦禁止。

 本来なら破られるはずのない、組織による絶対的ルールによって守られた悪の聖域。


 【這い寄る闇(ニャルラトーテ)】の構成員たちは裏方として動き、監視や暗殺者も潜めて緊急時の対応にも万全の準備を施す。

 頭領である女は最も高い位置にある特別な部屋にてガラス越しに円形ホールを眺め。

 お抱えの盗人青年は商品が並べられている宝物庫にて瑞々しいリンゴを齧る。


 各々が体制を整え────


 今この場にて。今世紀最大の───そして、最後となるオークションが開催された。


『Ladies and gentlemen!!!

 ぉお待たせ致しましたァ!!我ら蜘蛛主催のオークション、開催でございますッ!!!』


 耳を劈く勢いで会場内に響き渡る声音。

 ステージの上で大袈裟に動いて進行を進める司会者が開始の音頭をとる。

 手に握られた増音の魔導具によって会場中に響く司会の声は勢いが止まらない。

 参加者達の歓声と熱気が、全身を襲う。


 正樹、ミラノ、ユメ、フェメロナ、クロエラ、マール、ミカエラ、ヒルデ、竜馬、ラトゥール、ヴィズリム、ソフィア、クレハ、シリシカ、ミュニク、蓮夜、茜、夏鈴、冬馬、ニーファ、メリア、ルーシィ。

 数えるのも億劫になる程に潜入した面々は……バルレル以外に悟られる事無く作戦通りに潜入出来ていた。


 オークション最中、会場には正樹とリョーマ以外の転生者組以外が席に座り、オークションに参加する。

 そして、件の転生者四人は冬馬の《黒文字の囁き(ブラック・ウィスパー)》による捕らえた組織構成員への尋問、夏鈴の《戯れの打神鞭》による証拠品の回収。

 蓮夜の《魔銃戦線》と茜の《匣庭(ヴィネットガーデン)》による銃器掃討と天使装備による見敵必殺と言わんばかりの不殺の制圧。

 隠密の術式やらを組み立てた魔導装置で隠れ潜みながらオークション中に侵攻を進めていく。


 ……アレクによる単独行動と、ルーシィが誰にもバレずに連れて来た神徒二人の動きは省くとする。

 作戦外の話なので。


 さて、では視点をオークションに戻そう。


「うーん、胸糞熱気。これが現代の闇なのかしら」


 ……どういうわけか、他の係員とは違って潜入組に付き添っているタキシードの仮面案内人。おかげで秘密裏の会話も制限される為に行動がしずらい。

 そんな女案内人は何故か荒ぶっていて、それを横目に変装しているミラノ達はステージを見る。

 事を起こすには、まだ早いから。


 合図は一つ。


 クロエラが造った戦闘機体《銀嶺ユースティア》が出品されてからだ。

 目録を見ると、終盤あたりで出品される様子。

 これは、主催側の連中が今回の目玉として扱っているのかもしれない事を示唆していた。


 そして、まず最初に出された商品は。


『ヘルアーク王国の迷宮から出土した《アイランテの女愚像》っ!!由来を含め多くが謎に包まれている石像ではありますが───』


 司会の長い長い説明が終わり、続いて落札の時間に入る。

 美しく扇情的な姿の女石像は引く手数多で、多くの商人や貴族が手を上げ、指を動かして……最終的には二十三万ロールで売れた。貨幣で言うと金貨23枚程度だ。


『72番《アイランテの女愚像》落札ぅ〜!!』


 潜入しているミラノ達には、66番の値が与えられている。この数字は座席の前に備えられている机に大きく刻まれており、落札価格を提示する時は事前に定められた指の動きで表す。


「ミラノさん、あの石像知ってました?」

「ヴェラカンス子爵家が入手したって話だったから……そういうことなんだろうね」

「なるほど」


 はい、潰すの決定。残当。


 彼らが喋っている間にも、誰かの今後の命運が決まったその時にも、勿論関係なくこれでもかと貴重な品が出品され続ける。

 古今東西津々浦々。世界中から掻き集めて来たと言っても過言ではない数の品々が、とてつもない勢いで落札されていく。


『72番、《霊薬》落札〜!!』

『な、72番《高級チョコレートの塊》落札ぅー!』

『またしても!72番《批判するトメィトゥ》落札!』

『ぬわ!? またまた72番《錆びた聖剣》落札っ!』

『72番!? 限度額とか無いんでしょうか!?《ソロモニア・デモリング》を落札ぅ〜!!!』

『またですか!?すげぇな!?はい72番《グリフィン人形》落札ぅ!!』


「いやなにやってんのあの餓鬼っ!!」


 立て続けに落札をする72番。

 それを見て聞いて頭を抱える案内人に対して、全員が訝しげな目を向けるが深く関わる必要も無いために何も言わなかった。

 ニーファの目が鋭くなっていて、それに案内人が青ざめている理由もわからなかった。

 あとメリアが天を仰いで何かを察していた。





 ところ変わって彼は今。


「ふふふ……(うっはうっは♪)」


 72番ことバルレルことアレクはどうせオークション潰れて金を払う必要も無いからと不必要に落札しまくっているのであった。

 本人が幸せそうで何よりである。


 尚、この時点で本来なら八百万ロール(=金貨800枚)を軽く使ってるいる事は秘密である。





 ────オークションは無事に終盤まで進んだ。


 72番が変わらぬ勢いで落札乱舞をして、66番のツタニア家に変装している面々も参加者として適当に手を挙げたりして……


 ついに、例のアレが出品される。


『さぁさぁ皆様!本日のメインディッシュの登場でございます!』


「くる……!」

「はい……っ!?いや、あれは!?」


 ステージに運ばれたのは、二つ(・・)の巨大な物体。共に同じような大きさだが、ボロ布に包まれていて中身は見えなかった。


「……クロエラさん。一つ、でしたよね?」

「うん、多分右のやつがそうだね」

「なーんでわかるんですかね……?」


 司会が両手を広げてアピールをしてから、マイク型魔導具を口に近付けて大トリを叫ぶ。

 それに観客全員が耳を傾け、聴き入る。


『さぁ皆様お待ちかね!本日のオークションの大目玉のご登場だァ!! 我ら組織の収集者アオヒサが手に入れた二つの巨大兵器!片方はかの有名な研究所で造られた物、もう片方は出自含めて全て不明!ですがその姿は圧巻のもの!是非とも競い会え!

 さぁさぁ、いざ! ご開帳ぉぉお〜!!』


 布が暴かれ、現れる───銀の機体と金の機体。


 かたやクロエラが造った、鋼線を束ねてはためかせる外套式の外部装甲を纏う、鏡の如く磨き上げられた流線型の機体。

 虫の複眼にも見える網目状の頭部の目が紅く虚空を見つめ、腕と身体はあれど、その姿に足となる部位は存在しない───《銀嶺ユースティア》。


 そしてもう片方は。


「あれは……!?」

「……主様が沈めたのに似てますね」


 まるで頭髪のように幾つもの金属チューブが絡み合い組み込まれた頭に、軽めの黄色装甲を纏った身体。左腕に備えられた魔導粒子主砲と、右腕にて存在感を示す光の灯っていない魔導大剣。

 背に展開されたままのブースターと起動待ちの大小形状様々な特殊ユニットの群体が格納され。

 以前は変形による戦闘機の姿だったが、今は人型。エネルギーは充填中なのか、その紅い機械眼には光は宿っていないが……ユースティアに負けず劣らず大きな巨躯と武装を持つ機械生命体。

 その名も。


 《機甲神マナ・ジスタ》。


 新婚旅行の行く末を邪魔しかけた四堕神の一柱が、何故か出品されていた───!!


 その存在感に圧倒され、騒然となりながらも直ぐに歓声を上げる観客達。

 過去最大のオークションになると皆が確信して、声を大にして笑っている。

 その正体を知らずとも……片や偉大なる神の一柱に対しての嘲笑と捉え、苛立ちを露わにする存在達(・・・)が会場の近くに居るのに気付かずに、笑っていく。


「いや、四堕神出品されてて草」


 沈めた張本人も笑いを堪えきれなかった。


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