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魔王の兄は転生者  作者: 民折功利
第八章 吸血鬼とお兄様

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オークション潜入───草ァ!

 ◆アレク=ルノワール


 さて、Sランクの奴らとの会合を済ませた俺は、一旦彼らと別れて──というか、同盟本部から出て()に扮する為に転移する。


 何度も言ってる気がするが、俺は悪の商人バルレルとして参加し、会場をめちゃくちゃにする予定だ。


 討伐隊というか、オークションに潜入するのは何時ものメンバー。

 魔王ユメ、勇者マサキ、聖王子ミラノ、獣王女フェメロナ、魔工学師クロエラ、氷心マールとか。

 魔王配下のミカエラとヒルデ、勇者パーティ、Sランク冒険者三人……

 そして、残りの転生者全員。


 あ、ニーファとメリアも居る。

 そして……ルーシィも。


 彼女を呼んだのは近場に置いておく意味と、彼女の戦闘能力を見る為。記憶を見て大体は知ってるけども、実際に見るのとではだいぶ違う。

 まぁどっかでボロ出さないかなって……ね?


 あ、クロエラは自分の物を盗まれまくってるので絶対参加だ。さっさと奪い返して厳重な警備の元ないないしておいてほしい。

 ………なんか、《銀嶺》とか潜水艦とか盗まれてんのに、平然としてるのが気に食わん。泣け。

 楽観視しすぎやしませんか?……まぁ、それが美点だと言われれば納得せざるを得ないが。


「旦那様、行ってらっしゃいませ」

「あぁ、今回は期待しろ?いい女の奴隷をいくらか見繕って来てやる!ふはははははハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」

「っ……」


 ということで早速、商人バルレルに変装した俺の発言に、見送りに来た後継の男は悪い意味で息を飲む。

 それは、苦渋を飲まされたというか、自分はそんなの嫌だって物語ってるようにしか見えない。


「ん?なんだその顔は。不満か?」

「っ! い、いえいえ!滅相もございません!」

「? そうか」


 敢えて何も勘づいてないフリをして、俺は船に乗る。

 ここはイビラディル大陸の港街ポートイール。

 ここから船に乗って、そのまま海上のオークション会場へと向かう。

 立地的な問題で、他の仲間たちとは少し早く向かうことになるな。


 船は出航。

 ただの船じゃなくて密輸船とかそーゆー類いの悪い船だ。

 俺は乗船の際に使った、そしてオークション会場入場時にも使う蜘蛛のバッジを強く握る。


「さて……潰す予定と言えども。売ってる物は気になるからな……そこそこ楽しんどくか」


 ほくそ笑む。これから始まる劇の一幕を期待するが如く。


「上手くやれよ?」


 そして、俺は鳥籠(・・)を開けた────





 ◆ユーメリア=ルノワール


 魔王となって最初の大仕事……というわけでもないですが、悪名高いかの組織を滅ぼす事になった。


 一国の王である私が参戦するのは大分おかしいと思いますが……父様が『若いうちに経験を積んでおけ』とか言うもので、それにお爺様や大臣達が揃いも揃って賛成した結果なのです。

 不可抗力ってやつですね。


 で、お兄様と一緒に行ける!と意気込んでいた私だった、のですが……


「別行動ってなんですかぁ!?」


 何を考えてるんですかお兄様ぁぁ!!


「ま、まぁまぁ。なんかこういう便利な物を渡してくれたんですから」

「マサキさん。そういう問題じゃないんです!」

「あはは。そうなんだ……」


 勇者の鶴の一声にも耳を貸しません!

 確かに何故か知りませんがオークションに参加する為のバッジを大量に渡してきたのはビックリしましたよ。

 どっから入手したのか聞きましたが、拾ったとしか言ってくれませんし!今回は何処で何を企んでるんですか!?なんで教えてくんないんですか!?


 ……ふぅ。これ以上お兄様にあたるのはダメですね。冷静に、冷静に……ふう。


 よし、お兄様の事は一旦忘れましょうそうしましょう考えても無駄ですただ首肯してるだけで良いんです。


 後で何をしようが驚きませんよ!だって、私魔王ですし。ふふん。


「あ、そう言えば……。おに……アレクくん、さっきSランクの人達に絡まれて泣いてたらしいよ?」


 ルーシィちゃんからの密告。

 お兄様からの推薦で彼女も参加することになったのだが──その真意はわからない、が──そんなことよりも、私は心を鬼にして……


「………」

「ゆ、ユメちゃん?」


 叫ぶ。


「お兄様を泣かせたハゲは誰だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!」


 その後、お兄様を泣かせたオカマを攻撃しに行ったら、可愛いと猫なで声で言われながら笑顔で締められまして私も泣きました。ぐすん。

 絶許案件。魔王とその兄を泣かした罪で極刑したい。でもSランクって立場が強すぎて不可能……はぁ、魔王の権力が効かないとか征服案件では?


 ダメです。お兄様から貰った漫画とやらの影響が凄いですね……アンテラ様から貰ったと言ってましたが、こんな内容を異世界人はよく考えられますね……


 閑話休題。


 Sランク冒険者が此度の戦力に加えられて、総戦力は磐石になったのは良いものの。

 彼……彼女?ことラトゥールは子供に対しての愛情が深くて、身寄りの無い子達を集めて教育を受けさせたり独り立ちできるように訓練させてたりしているらしく、子供の保護者なんて異名もあるぐらいだ。

 あと何故か知りませんが巨塔でそれを行っているらしいです。


 そんな偉大な冒険者だとしても、ね?


 お兄様に抱きついていいのは私とニーファさんとお母様だけなのよ……!


 あのラトゥールとやら、絶対に許さないもん!





 ◆ルーシィ=ノーレッジ


 ユメちゃんが荒ぶってる……!


「ぬわぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

「落ち着こ!落ち着こ!ね?」

「ユメちゃんストーップ!ほら、ヒルデちゃんだよ元気だし、ちょ!こぶ───……がはぁっ!?」

「貴女で元気になるわけないでしょう!?あぁ、もう、王子は何処に行ったのよ!!」


 泣きながら殴るモーションをしたユメちゃんの拳に、運悪く衝突したヒルデちゃんが吹き飛び、ミカエラちゃんが癇癪を起こし始める。

 今日も魔王軍は平和ですってか?


 いや理由はわかる。Sランク冒険者っていう概念は初めて見たけど、あの類いの人間はヤバい。

 凄いよね、初対面の皆に危険対象にされるオカマさん。

 芸術家の人は……なんか頻繁にトリップしてて別ベクトルでヤバめだった。

 リョーマさんが唯一の良心では?

 ……え?デコピンで龍の頭部を吹き飛ばした? そ、そういう人間も居るんですね、へぇー。


 Sランク冒険者のことを考えるのをやめよう!


 さて、何故か私もオークションに参加する事になったんだけど……アレクくんは何を考えてるんだろう? あ、私の戦闘能力を見たいとか……?

 血を操る事しかできませんよ?

 私自身は、ね。


【───眠い】


 内なる声が久々に口を開いた。

 以前、アレクくんの記憶を見た日ぶり……つまり、まだ一回しか会話をしてないのだ。

 常に寝起き状態のコイツは基本的に微睡んでいて、必要時か本当に気になった時にしか会話に応じないという偏屈で災厄な奴だ。

 早く寝ろ。私の平穏を返してください。


【───……】


 それっきり黙り込んだので、私は一時の平穏を再び得た事への嬉しさからスキップして前を進んだ。


 ……にしても。

 【這い寄る闇(ニャルラトーテ)】だったか。何か聞いた事ある文字列というか名前というか。

 どこで聞いたんだっけ……?


 私は悶々と、答えの出ないまま時間を過ごし、ついに皆と一緒にオークションに乗り込むのだった。


 ────後方保護者面の頼れる神徒二人も密かに連れ込んで、ね。





 ◆マサキ=テンドウ


 ついに時が来た。

 入念に準備された計画は、実行段階に移ったことで錚々たるメンバーが選ばれた。


 勇者の僕と、ソフィア、クレハ、ミュニク、シリシカの愉快な仲間たち……あと偶に喋る剣一本。

 アレクさん含めた愉快な仲間たちと、吸血鬼のルーシィさんも参加。カグヤという小鳥や子供達はお留守番との話。

 あとユメさん率いるミカエラさんとヒルデガルドさんの三人、クロエラさんとマールさんのペア。

 ミラノさんとフェメロナさんの戦闘できる王族。

 Sランク冒険者の三人。

 蓮夜さん、茜さん、夏鈴さん、冬馬さんの転生者四人……いや総戦力すぎません?


 アレクさんはどっか行きましたけど。


 これだけ揃っていれば、慢心があっても勝てる予感がするのは仕方ないかもしれない。

 しかし、相手は何十年もの間、世界同盟からの監視から逃れ続けていた大組織だ。手は多いに越したことはない。


 そう考えていると、腰に指していた神剣が揺れた。


【勇者マサキ、ここはどこだ?】

「おはようエインシア。ここは海の上だよ」

【……潮風で錆びぬよな?】

「神剣だから大丈夫でしょ……」


 形状剣アインシュッドに宿った神徒の魂は、つい先程まで眠っていたのか現状確認に忙しそうだ。

 エインシア、かつての敵は今日の友。

 まさか剣に宿ってくるとは……不本意だったらしいけど。なんなら常に起きてるわけでもなく、戦闘時以外は寝るという省エネ生活をしている。


 ま、彼女の事は置いておこう。剣は腰に指してるけど。


 僕達は用意された船に乗って、海上のオークション会場……改め【這い寄る闇(ニャルラトーテ)】の本拠地へと進軍する。

 まだオークションは始まっておらず、あと二時間は余裕がある。


 船は何隻にも分けていく。

 そして、会場に入らずに包囲網を作る為の部隊も用意されている。彼らは海上で待機になるが、直ぐに終わらせるので待っていて欲しい。


 予定では、オークション開始前までに潜入し、開催中に事を起こす、だ。

 一応、全員身バレを起こさないように仮面や義髪を付けて変装している。案外バレないんだよね、これ。不思議だけど、気にしたら負けだと思ってる。


 道中は特に問題は起こらず───ラトゥールさんとユメさんとニーファさんが少年(アレク)を賭けて殴り合いを始めたりとか、ヴィズリムさんが官能的な絵画を描いてリョーマさんが鉄剣で叩き割ったりしたけど、平和だった───平和、うんうん。

 平和だと思うことが一番大事なんだよ。


 アレクくんも愚痴ってたけど、やっぱSランクって頭おかしいんだね。


「マサキ様、見えました」


 ソフィアの声に気付いて、彼女の視線を追えば。


 海上に浮かぶ、巨大な鉄の塊。無数の立方体が組み合わさったような巨大構造物こそ、此度の敵。

 所々に海藻や藻屑が付いてるのは、普段は深海にて隠れ潜んでるからでは、との考察が立っている。


「……絶対に、終わらせましょう」


 無垢な人達を、絶望の底に叩きつける悪を、根絶やしにする為に────





 ◆レンヤ=ホシミヤ


 闇の組織をぶっ飛ばす!最高にイカすシチュエーションとは思わないか!?


 ……はい、騒いですんません。でもほら、不謹慎だけど、テンプレってこう胸が踊らない?

 あ、踊らない?ふーん。俺は踊るぜ。


 召喚した銃を布で拭きながら、俺は海上に浮かぶ鉄の塊を眺める。狙いはつけない。まだ、な。

 銃による大量虐殺は、俺の十八番だ。物騒だろ?でも魔物相手にしか使った事ないんだぜ。偉くね?


 偶に俺の能力に目をつけて邪な考えを抱いて近付いてきた貴族や王族は普通に居る。取り敢えず遠隔射撃できるドローンで足を撃ち抜いたが。


「蓮夜、どうやってあれ浮かんでるの?」

「いや分かるわけな……う、うーん。どうなんだろうな?」


 幼馴染の茜の疑問に答える為に、少しだけ悩む素振りを見せて思考を放棄する。

 そんな純粋で可愛い目で見られたら分からなくても答えなきゃって思っちゃうよね。


 ……はぁ。いつ告ろう?未だ踏ん切りがつかない!この腑抜けが!!って思ってるのに。肝心な時に一歩進めないんだよなぁ。

 どうすべきなのか……


「よーし、ナイス!アカネっちその調子……!」

「趣味が悪いですね」

「トウマっちも同罪なんだよ?」

「はて、なんの事やら」


 船の陰から夏鈴と冬馬がコソコソしているが、波の音で聴き取れなかった。何してんだろ?

 夏鈴が打神鞭という名の釣竿の糸を大きく海に放り投げると、いきなり一本釣りを始めた。

 そして。


ガコン!


 わっ!船が揺れた……って。


「あっ……」

「お、おう……」


 胸が、胸がァー!?あわ、あわわわわわ……


 茜と一緒に二人揃って慌てて、弁明というかなんと言うか、言葉にならない悲鳴を上げながら身振り手振りをして不発に終わる。


「マジで根性無しすぎない?もっとグイグイ行けよ!!この!この!」

「だからって船を揺らすな!その釣竿しまえ!」


 前途多難である。





 ◆ミラノ=ヘルアーク


 うーん、乗り込んだのは良いんだけど。


 会場の港に船を停泊させ、仮面の案内人に身を任せて巨大な門を潜り抜ける。

 参加券はアレクくんがどっからか持ってきたバッジを使った事で、何事もなく行けた。


 屋内は豪華なものだった。売り物ではない絵画や彫刻が所狭しと並べられており、参加者や関係者もひっきりなしに歩いたり談笑や商談をしている。

 ……これが、闇のオークションってやつなのか?


 あ、そうそう。今の全員は普段とは違う身なり、見た目も百八十度違うからバレる確率は低い……うん、アレクくん直伝の変装魔法を再現した魔導具を使ったのも後押しになって、下手したら誰が誰だかわからなくなるね。潜入バッチリ!

 あ、クロエラくん製だよ。


「あらあら……ん、んん。ごほん。かの有名なツタニア様達が来るとは……此度のオークション、盛況ですね!」


 仮面は意気揚々と、誇らしげに語る。

 黒のタキシードを着ているが、体型的に女性である事は見てわかった。赤みがかった黒髪が綺麗だ。


 ツタニアというのはマサキくんがオークション前に捕えたグラシア皇国の伯爵家だ。

 世界同盟が管理している裏部隊が吐かせまくったらしいよ……やっぱり、どんなものにも裏が無いと難しいんだね。


 で、その身分や姿を私たちは借りている形だ。

 もうツタニア家は没落確定らしいから、何してもいいんだってさ。政界って怖いね。私王族だけど。


 あ、ツタニア当主は私が演じているよ。

 基本的に無言の人だったらしいから、黙ってれば問題ないらしい。


 と、私が思考していると……一同の前に、不審な影が現れる。


「おやおや!これはこれは。ツタニア家の皆様が雁首揃えて出払うとは、今日は槍でも降りますかな?なぁ、案内人!!」

「えぇ、そうですわね……んん。そうですね!」


 現れたのは、魔族の男。

 痩せ気味で背丈の高い老人で、どこからどう見ても悪そうな印象しか受けない。

 その目には、大商人特有の稼ぎ時を見極めるようなねちっこい光ではなく……隠しきれない程の純粋な友愛が込められていた。

 ツタニア家の人達と親交でもあったのだろうか?


「……イビラディル大陸の大商会ハンバレッドの会頭、バルレルという男です」


 同じく変装しているユメさんが、私たちだけに聞こえるような小さな声で囀る。


 ……この老人は、そこまでの地位を持つ凄腕ということか。


 そんな風に思っていた私は、かの商人が澱みない足で前を進む姿を横目に捉えた。


「おぉ……それに」


 バルレル氏は、ゴマをスリながら、ある人物に近付く。それは、当主を演じる私ではなく───


 従者に扮するユメさんだった。


 ───────!?


 なぜ、と言った言葉を飲み込む、全員が。


 そして、バルレル氏は私たちにしか聞こえないような小さく、それでいてよく通る声で、こう言った。


「今宵は楽しくなりそうですなぁ?陛下(・・)ぁ?」

「っ!?」


 驚愕。疑問。その全てが降りかかった老人は、愉快な顔で笑う。

 まるで、何かも全てお見通しと言ってるよう。


「ふはははははハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ……!!!案内人!丁重に扱えよ?此度のオークションは最高なものになる!!」

「えぇ、勿論ですとも……では、皆様、こちらへ」


 声が聞こえていたはずの仮面の女も、何にも聞こえてないというような動きで案内を再開する。

 バルレルは高笑いを続けながら……護衛を一人も付けずに再び喧騒の中へと消えていった。


 彼は、一体─────?


 そんな疑問を抱えたまま、指定された席に全員が着いて………遂に。


 オークションが開催された。





 ◆ニーファ


 いや、あやつ()何やっとるの?


夫婦愛の力によって暴かれてて草ァって意味です

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