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魔王の兄は転生者  作者: 民折功利
第八章 吸血鬼とお兄様

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Sランク冒険者達───恐怖!

 犯罪組織【這い寄る闇(ニャルラトーテ)】。


 今日確実に滅びる組織の名だ。

 なぜなら、過剰とも言える最高戦力が揃っているのだから。


 組織を壊滅させる為に、立ち上がった世界同盟が招集した戦士たち……その中でもトップクラスの三人が世界同盟本部の控え室に集まっていた。

 そして、何故か俺が呼ばれている……のだが。


「おぉ、アレクくん。一ついいかね」

「なんですエウク様」

「一応なんじゃが、Sランク冒険者の方々と顔を合わせておいておくれ」


 世界同盟の統率者にそう言われたもんだから……その控え室とやらに向かったわけよ。

 知り合いにリョーマが居るから、まぁ大丈夫だろって思ったんだ。


 そして現在。絶賛恐慌中。

 敵意はないのに、恐怖を感じていた。


「あらも〜、ホントに可愛いじゃないの!」


 暖かい温もりのある、明るく穏やかな声と雰囲気を兼ね揃える、男性の声(・・・・)

 その声の主の腕に……もう一度言おう『腕に』俺は大事に抱き締められているのだ。


「ど、どうも……」


 俺が本気で怯えるその男……えっと女傑さん?


「ごめんなさいね! 私、可愛い子には目がないのよ! 特にアナタみたいな子は特にね!」


 2メートルの体躯と凄まじい筋肉を持つ大男。

 ピンク色の髪をワックスか何かで固めて後ろに垂らしている。ハートのピアスが煌めいて。

 極めつけには赤い口紅、女性らしいメイク。柄が多い派手な色の服装……うーん、やっぱり。


 この人ってオカマってやつ?初めて見たけど。


「ははは……おいリョーマ、この人誰?」


 俺の後ろ……つまり、そのオカマの後ろで腕組みをしてウンウンと首を振るリョーマを睨む。

 その隣には、椅子に座って首をこくんと何度も揺らして夢の世界に旅立っている女性が居る。


「俺と同じSランク冒険者だ」

「マジかよ」

「ホントよー? 初めまして、私の名前はラトゥール=ラブラプス!《塔の魔術師》って呼ばれてるわ!」


 ラトゥール=ラブラプスね、おけおけ。

 ぜぇッッッッたいに関わっちゃいけない化け物だってわかった……!

 てか魔術師?バリバリの武闘派では?


「んで、この寝てるのは………」


「閃いた」


「っ!?」

「あら、起きたわ」

「目覚めだけは良いな」


 続けて、リョーマが隣で寝ている女性を紹介しようとしたら、いきなりその女が目覚めて立ち上がる。

 俺は驚いて思考が停止しているが、Sランクの二人は慣れているのか停止していない。


「……今度は何描くんだ?」

「あらリョーマちゃん、集中する娘の邪魔しちゃダメよ!」

「わぁったよ」


 黄色の髪を三つ編みしまくって最早よく分からないアバンギャルドなボリュームの髪型の女。

 背丈は普通の女性の平均ぐらい。キャンパスのように白い服には飛び散った絵の具で彩られ。

 狂気を帯びた翡翠色の目が怪しく光る。


 あとエルフ耳。種族は森霊族(エルフ)だな。


 エルフの女は肩からかけていたバッグの中から筆と絵の具を取り出し、キャンパスを組み立てて絵を描き始める。


 ところで何が閃いたんですか?


 やがて彼女は、動体視力の優れた俺の目にも止まらぬ速さで筆を操ってキャンパスを色付けていく。

 狂気を乗せて。


「開幕──あぁ!これが芸術という名の試練!今此処に囀る!あぁ、踊る踊るよボクの筆が!ふふふふ!!あはははは!!!素晴らしい世界は今此処に描かれ、ボクの見た夢が顕現する!その時!その瞬間!その刹那!節穴アイの凡夫共に震撃させる!那由多の彼方の遥か先から皆の理性が、本能が崩壊する!世界はボクに注目する!世界はボクを危惧するのだよ!そう、世界はボクの存在を許さない!何故なら!!ボクが完全にして崇高なる夢の体現者であるのだから!!神託?何それ美味しいのぉぉぉ!?お前ら天上の神などに興味はない!一ミリも湧かないよォ!!信じた者が救われる?じゃあ無神論者のボクは何故救われまくってるんだ?いやもうそんな悩みに答えなど生まれない!でもね!そんな不毛な思いを、真実を絵に写すのがボクの仕事!!そぅ!それこそが!永遠に紡がれしボクの完全芸術神話!!究極芸術!最高!あっは光悦!あぁ、ホントに!止まらないよぉぉぉぉ!!!!」


 トリップしてる……


「ん"ん"ん"ぎもぢいいいぃぃぃぃぃぃ!!!」


 あの、いけないお薬決めてます?


「ねぇ、大丈夫この人」

「コイツの名はヴィズリム=アタルマテォクだ。夢の中で見た世界を絵に描く芸術家にして冒険者だ」

「冒険者の枠組がおかしい件について」


 ヴィズリム=アタルマテォクね、うん覚えた!

 となると、コイツが《夢幻創師》か!ははーん!


 未だ尚、叫び続けながら休むことなく筆を動かし続ける芸術家を横目に、俺は叫ぶ。

 ただし、俺は危険に気付いていなかった……


「Sランク冒険者ってろくな奴がいねぇ!!」

「それ本人たちの前で言うことか?」

「あらも〜、アレクちゃんったら言葉遣いが荒いわよ〜? ん"?」

「ぴっ!?」


 ヤダヤダ何この人、怒ると怖い……!


 俺の精神が崩壊した。


 凄みある目で僕を見ないで……!? や!そんな目で僕を見ないでぇ!!怖い怖い!うー……

 あ、謝んなきゃ……!こ、殺される!否応なしに殺されるやつだぁ。こわ、怖い……!!


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」


 ゲシュタルト崩壊よろしくと言わんばかりに謝罪を続ける俺。

 ガチでオカマに恐怖してますごめんなさいごめんなさい、僕を食べても美味しくなんてないです。

 ごめんなさいごめんなさい……


「おいこらトラウマになってんじゃねぇか」

「この悪い口が悪いのよぉ〜……でも、可哀想になってきたから止めるわ。ほら、そんなに目を潤ませて精神崩壊しないで?ね?もう怒ってないから」


 ぐす……ひっぐ。

 ほ、ほんと?もう、怒んない……?


「幼児退行してるじゃん!お前ガチ怒りじゃなくても怖いんだぞ!コイツまだ子供だからな!」

「ごめんね、アレクちゃん。ほら、よしよし……」


 優しく抱き締められて慰められる。

 んぅ……。


「あら、甘えんぼさんなのね……♪」

「友人がオカマのお気に入りに加えられてて草」


 数分ぐらい慰めの撫で撫でをされた後、俺は何も出来ずにラトゥールさんの腕の中で抱えられていた。

 足が宙ぶらりんのお人形さん状態だ。


 あぁ、怖かったぁ……


 そして、とうとう。


「────そう、ボクが神だ!!……はぁ、ふぅ」


 ヴィズリムが描き終わったらしい。


 この場にはSランク三人と俺しか居なかったので、彼女……ヴィズリムさんの絵を見る。

 よーし、査定してやろうと意気込む。

 ドヤ顔で服の裾で汗を吹く彼女の後ろから覗き込む形で。


「「「…………」」」


 全員無言になる。


 七色の絵の具をごちゃ混ぜに混ぜて明暗深く塗り込まれた形容しがたい謎の作品がそこにあった。

 何が描いてあんの?これ。森?太陽?え、違う?じゃあなんなんだよ(怒)!

 てか夢で見た世界を描く?大丈夫かこのエルフ!見てる夢が形容しがたいものってことだぞ!?


「ふふふ……あ、イッたから濡れてる」


 絵を描いて絶頂!?


「ちょ、おいこらリム!?ちっ!おいラトゥール、アレクの目ぇ塞げ!」

「あたぼうよ!はい、アレクちゃんごめんね!」


 わー、前が見えないー。

 目を塞がれました。まぁ、理由はわかるよ?

 人様の目の前で手拭を取り出して、スカート持ち上げて股を吹き出したからねコイツ。

 やっぱSランクって頭おかしいわ。


 ほら、口に出さないよ!俺は成長してるんだ!褒めて褒めて!後でニーファに撫でてもらおう!


「ふぅ……あ、初めまして。ボク、ヴィズリム」

「どうもアレクです。絶賛恐慌中です」


 流れで自己紹介したけど、本心から思う。この人たちと関わりたくないんだけど。マジで。


 参考までに語ると。

 鉄剣一つで人類最強になって奴隷ハーレムを形成した元社畜、辺境に塔を造ってそこで暮らす子供大好きの派手で屈強なオカマ魔術師、夢で見た世界を絵に描くと最後はエクスタシーを感じる狂気の芸術家………


 やっぱSランクって頭おかしいわ。


『今後に期待!』

『続きが気になる!』

『更新頑張れ!』

『アレクを女装させろ!』

『砂糖製造したい!』


と思われた方は、下のポイント評価から評価をお願いします!


って書くとなんか評価もらえるらしいと知人から聞いたのでお願いします(直球)

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